国際的宿泊・観光事業者による台湾での越境的な登録商標の使用―CROWN事件の分析
Vol.157(2026年5月13日)
海外の観光地は長年にわたり、台湾の人々が休暇プランを立てる際の第一候補となってきた。そのため、国際的な宿泊・観光事業者も、自らの知的財産権を保護する目的で台湾で積極的に商標を出願している。しかし、商標登録後の維持管理、とりわけ、いかに使用していないことを理由に不使用取消審判を請求されないようにするかは、外国の商標権者にとって看過できないリスクである。
実務上、コスト面の考慮や現地市場への不案内から、海外事業者は台湾消費者に対し、チケットや宿泊を直接予約できるルートを設けず、旅行会社や第三者の予約サイトに頼って、台湾での業務を展開することが多い。このような場合にそれが有効な「台湾における使用証拠」となるか否かが、核心的な争点となる。
台湾の知的財産及び商事裁判所は、近時にオーストラリアの著名な宿泊・エンターテインメント事業者「CROWN MELBOURNE LIMITED」と台湾の自然人との紛争事例(知的財産及び商事裁判所2023年度行商訴字第14号判決)において、第三者が介在する場面における商標の使用証拠について実質的な見解を示した。裁判所は、台湾特許庁による従前の否定的な認定を覆しただけでなく、どのような状況で第三者の取引資料が有効な使用証拠となり得るのかを掘り下げて分析した。本判決は旅行・宿泊業界にとって高い参考価値を有し、他の国際的な観光・エンタメ事業者にも実務上の指針を提供するものである。
事件経緯
台湾籍の自然人「王冠雄」(以下「不使用取消審判請求人」)は、連続して3年間商標を使用していないことを理由として、2020年4月、台湾特許庁に対し、オーストラリアのホテル事業者「CROWN MELBOURNE LIMITED」(以下「商標権者」)が保有する「CROWN」商標(以下「本件商標」)の登録取消を請求した。台湾特許庁は審理の結果、2022年7月に取消を認める審決を下した。これを受けて、商標権者は台湾経済部訴願審議委員会に訴願を行い、同委員会は不使用取消理由は成立しないと判断して台湾特許庁の審決を取り消した。
不使用取消審判請求人はこの訴願結果を不服として、知的財産及び商事裁判所に行政訴訟を提起したが、同裁判所は2024年3月の第一審判決において、訴願審議委員会の見解を支持した。
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商標 |
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出願番号 |
086048933 |
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登録番号 |
00104570 |
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商標権者 |
CROWN MELBOURNE LIMITED |
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商標権存続期間 |
1998年11月1日– 2028年10月31日 |
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指定役務 |
第42類 旅館;ホテル;レストラン;カフェ;冷温飲料店;ビアホール;バー |
台湾特許庁の見解:不使用取消成立
1.旅行記事は使用証拠とならない
単にメディアや消費者による、オーストラリア旅行プランの宣伝・紹介やホテルの特色を紹介する報道は、使用証拠とすべきではない。これらの証拠資料は、本件商標を台湾消費者に向けてマーケティングしたものではないためである。
2.第三者の予約サイト上のレビューは商標使用の有効な裏付けとはなりにくい
- 商標権者は、Tripadvisor、ezTravel易遊網、Agoda、Booking.com などの予約サイトに掲載された台湾消費者によるレビューを提出し、これらは台湾消費者がサイト上で各種サービスを予約した証拠になると主張した。しかし、これらの証拠では、そのマーケティングや取引行為が台湾国内で発生したか否かを証明することはできない。
3.商標権者と旅行会社との提携契約書は商標使用と無関係
- 商標権者は、旅行会社との提携契約書を提出し、台湾における本件商標の使用を旅行会社に許諾していたと主張した。しかし、一部の契約対象はオーストラリア国内の旅行会社であり、当該オーストラリアの旅行会社と台湾の旅行会社との間に、台湾における本件商標の使用を許諾する関係があったことを示す証拠は提出されていない。
- たとえ台湾の旅行会社との契約があったとしても、それは当該旅行会社が商標権者に対して宿泊予約を行った事実を示すにとどまり、台湾消費者に対してサービスを提供していたか否かは証明できない。
以上から、台湾特許庁は、商標権者が台湾国内で本件商標を使用していなかったと認定した。
経済部訴願審議委員会と知的財産及び商事裁判所の見解:不使用取消不成立
1.旅行会社との提携証拠は商標使用として認められる
- 台湾での従来の実務見解によれば、登録商標の使用(商標権の権利維持のための使用)は商標権者の同意さえあればよく、台湾特許庁で商標の使用許諾登録がなされているか否かは問われない。したがって、商標権者が追加で提出したオーストラリアの旅行会社が台湾の旅行会社の関連グループ企業であることを示す資料により、同一グループに属する台湾・オーストラリアの旅行会社の間に、確かに提携及び使用許諾の関係が存在することが認められた。
2.第三者の予約サイト「Tripadvisor」及び「ezTravel易遊網」も使用証拠と認定し得る余地がある
- 「Tripadvisor」及び「ezTravel易遊網」はいずれも「.tw」ドメインを持つ台湾のサイトである。
- 商標権者が提出した証拠資料には、台湾消費者がこれらの予約サイトを通じて商標権者の宿泊サービスを予約し、その後海外で旅館やホテル等のサービスを利用していたことが示されている。これは、商標権者が提供する本件商標の旅館やホテル等のサービスについて、取引過程の一部が台湾国内で完了していると認定するに足りる。
結論として、商標権者は台湾にサービス拠点を設けていなかったものの、台湾消費者が提携先の台湾の旅行会社や台湾の予約サイトを通じてサービスを予約していた、つまり取引過程の一部が台湾国内で行われていたといえる。これは有効な登録商標の使用に該当し、台湾特許庁による不使用取消成立の審決は取り消されなければならない。
▲商標権者と台湾の旅行会社が提携している予約ページには、特定の部屋タイプ、台湾ドル建ての宿泊料金、予約ボタンなど、取引に関する情報が明確に表示されており、登録商標の使用証拠として採用される可能性が比較的高い1
[1] 画像引用元:https://hotel.liontravel.com/detail/au-melbourne-crown-towers-melbourne?hotelCode=AULMEL58&Platform=APP




