台湾 進歩性に係る組み合わせの動機及び請求項の解釈に関する判例の紹介(コンテナ用断熱防湿ライナーバッグ事件)
Vol.152(2025年12月5日)
特許無効手続や訴訟事件において、進歩性の判断には複数の引用文献の組み合せが関わることが多く、「組み合せの動機」及び「請求項の解釈」をどのように特定するのかが争点の核心となる。
台湾知的財産及び商事裁判所は近時、ある実用新案の無効審判事件において、台湾特許庁による「無効審判請求不成立」の処分を覆す判決を下した(知的財産及び商事裁判所2022(111)年度行専訴字第65号行政判決)。最高行政裁判所もまた、知的財産及び商事裁判所の判決を維持する判決を下した(最高行政裁判所2023(112)年度上字第824号判決)。
本件において、知的財産及び商事裁判所は、台湾特許庁による複数の引用文献における技術的特徴の解釈及び組み合せについて従来とは異なる見解を示しており、以下にその内容を詳述する。
事件経緯
マレーシアの企業である聖ミゲル・ヤマムラ織物株式会社(原告・無効審判請求人)は、ある自然人(被告・実用新案権者)が有する「コンテナ用断熱防湿ライナーバッグ」と題する実用新案(台湾実用新案登録番号: M604311、以下「本件実用新案」という)に対して無効審判を請求した。台湾特許庁はこれを審理した結果、無効審判請求不成立という処分を下した(事件番号:109211264N01)。
原告は当該処分を不服として訴願を提起したが、経済部により棄却されたため、さらに知的財産及び商事裁判所に訴訟を提起した。
審理の結果、知的財産及び商事裁判所は台湾特許庁の認定を覆し、本件実用新案の請求項1~5について「無効審判請求成立」の処分とすべきであると判断した。実用新案権者はこの判決を不服として最高行政裁判所に上訴したが、最高行政裁判所は上訴を棄却し、原審の判決を維持した。
本件実用新案の主な技術内容
本件実用新案は、コンテナ用断熱防湿ライナーバッグに関するものである。主な技術的特徴を下表にまとめる。
主な争点となる技術的特徴は、「前記直方体形状の袋体の辺部には連結片が設けられ、前記連結片には前記ハンガーリングの位置に対応する開口部が設けられ、開閉可能なカラビナが前記連結片の開口部に対応して設置されること」である。
[本件実用新案の構造模式図]
無効証拠及び主な争点
無効審判請求人の主張は、以下の通りである。
証拠3及び証拠2の組み合せにより、本件実用新案請求項1の主な技術的特徴が開示されている。また、証拠5により本件実用新案請求項1のその他の技術的特徴が開示されている。したがって、証拠2、3、5の組み合せにより、本件実用新案請求項1は進歩性を有しないことが証明される。
1. 証拠3(主要証拠)(中国実用新案CN202295908U「ライナーバルクバッグ」)
[証拠3図1]
2. 証拠2(台湾特許I316917「断熱ライナー」)
[証拠2図3]
[証拠2図4]
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本件実用新案請求項1 主な技術的特徴 |
台湾特許庁により認定された証拠開示状況 |
裁判所により認定された証拠開示状況 |
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特徴a |
直方体形状の袋体を含む、コンテナ用断熱防湿ライナーバッグであって、 |
証拠3:ライナーバルクバッグ1 証拠2:ライナー20 |
証拠3:ライナーバルクバッグ1 証拠2:ライナー20 |
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特徴b |
前記直方体形状の袋体の上部の2つの辺部には開閉可能なカラビナが設けられ、前記直方体形状の袋体をコンテナ内に吊り下げることを可能にするよう、前記開閉可能なカラビナはコンテナ上のハンガーリングに連結され、 |
証拠3:連結具1-3 |
証拠3:連結具1-3 |
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特徴c |
前記直方体形状の袋体の辺部には連結片が設けられ、 |
開示されていない |
証拠2:孔40 |
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特徴d |
前記連結片には前記ハンガーリングの位置に対応する開口部が設けられ、開閉可能なカラビナが前記連結片の開口部に対応して設置される |
開示されていない |
*容易に完成することができる特徴に属する |
台湾特許庁の見解
台湾特許庁は、以下の通りに認定している。
証拠2~3において請求項1の「前記直方体形状の袋体の辺部には連結片が設けられ(特徴c)、前記連結片には前記ハンガーリングの位置に対応する開口部が設けられ、開閉可能なカラビナが前記連結片の開口部に対応して設置される(特徴d)」という技術的特徴が開示されておらず、本件実用新案請求項1は、当業者であれば証拠2~5に基づき容易に組み合せて簡単な変更を行うことにより完成できるものではない。
その理由は、以下の通りである。
1. 証拠3の連結具1-3と証拠2のハンガーリングまたは孔40とは、互いに位置合わせされた結合関係にあるものではないため、両者を組み合わせて本件実用新案請求項1の技術内容と対比させることは困難である。
2. また、証拠3の連結具1-3は点状に設けられているのに対し、証拠2で示唆されたハンガーリングまたは孔40は、帯状部材20と結合するためのものであるため、両者の結合方法は一致していない。
知的財産及び商事裁判所並びに最高行政裁判所の見解
しかし、知的財産及び商事裁判所並びに最高行政裁判所は、台湾特許庁とは異なる見解を示した。その見解は以下の通りである。
1. 証拠2及び証拠3により特徴cが開示されており、特徴dは当業者にとっての通常の手段である
証拠2における図4及び明細書の開示から、孔40は本件実用新案における連結片2に相当し、また、証拠2のライナー20の辺部には孔40が設けられており、前記孔40が本件実用新案請求項1に記載された「前記直方体形の袋体の辺部には連結片が設けられている」という技術的特徴に相当することが分かる。
また、証拠2における図4及び明細書の開示から、連結フック71を孔40に掛けることは通常の手段であることが分かる。証拠3明細書においても、連結具1-3としてカラビナを選択し得ることが開示されているため、当業者にとって、カラビナを開口部に掛けることは通常の手段であり、証拠3の連結具1-3をカラビナにして証拠2の孔40に掛けることは困難ではない。
2. 証拠2、3のいずれも、本件実用新案請求項1の効果を奏し得る
実用新案権者の主張は、以下の通りである。
証拠2及び証拠3において、コンテナとライナーとの基本的な連結方法のみが開示されており、本件実用新案のような、連結片2により封止性や開口位置の柔軟性といった機能が提供される技術的特徴が開示されていない。
しかしながら、分析の結果、証拠3において、以下の内容が記載されている。
連結具1-3がライナーバルクバッグ1の上面1-2の稜線部に設けられており、また、前記ライナーバルクバッグ1はポリエチレンフィルム材及びポリプロピレン繊維の編み材から構成されている。これら2種類の材料を組み合わせることにより、優れた封止性を確保できる。
また、証拠2の孔40は本件実用新案の連結片に相当し、当業者であれば、証拠2における孔40の設置方法を参考に、需要に応じて孔の数や位置を調整することは困難ではなく、開口位置の柔軟性という機能を奏し得る。
3. 当業者であれば、証拠2、3 、5を組み合わせて本件実用新案請求項1に係る発明を完成する動機付けを有する
証拠2、3及び証拠5により、本件実用新案請求項1の技術的特徴がすべて開示されている。また、証拠2、3及び証拠5はいずれもコンテナ用ライナーバッグに関する技術分野に属し、貨物を保護するという機能又は作用において共通性を有する。
したがって、当業者であれば、証拠3に開示されたライナーバルクバッグ1の連結具1-3及びフックに関する技術内容に基づき、ライナーバルクバッグ1の構造を容易に変更し、証拠2に開示された孔40の開口構造と証拠5に開示された磁石及びチャックとを組み合わせることにより、本件実用新案請求項1の技術的特徴を容易に完成する動機付けを有する。




