台湾 商標の使用証拠の認定に関する判例(ifixit事件)

Vol.82(2021年1月15日)

台湾の不使用取消審判に関し、商標法第63条第1項第2号において「正当な事由なく使用せず又は使用を停止し続けて3年が経過した場合、商標主務官庁は職権で又は請求によりその登録を取消さなければならない。」と規定されている。本号規定における使用とは指定商品役務における登録商標の使用を指す。ここで台湾特許庁と裁判所では不使用取消審判における登録商標の使用に関する判断基準の統一が図られていないことが問題となっている。本件は上位概念と下位概念の指定商品間における登録商標の使用認定が、台湾特許庁と裁判所とで分かれた事例である1。以下に紹介する。

事件の概要

著名なアメリカ電子機器分解修理メーカーであるiFixit(原告)が、Xの有する商標(下記の表を参照、本件商標)に対して不使用取消審判を請求したところ、請求棄却審決が下された。本件はこの審決取消訴訟である。知的財産裁判所は、Xは指定商品のうち「手持工具(手動式のもの)」における本件商標の使用は認められるが、他の指定商品における使用は認められないと認定し、台湾特許庁による審決を取消す判決を下した。

本件商標
第8類
手持工具(手動式のもの)、ドライバービット、タップ、のこぎり、レンチ、複合型レンチ、手動くぎ打ち機、その他固定用手持工具、レンチセット、手動レンチ用ソケット、手動式ジャッキ、金属テープ用引き伸ばし機(手持工具)、つめ車(手持工具)、ねじ切り工具(手持工具に当たるものに限る。)、せん孔用工具(手持工具)、丸のみ(手持工具)

知的財産裁判所の見解

使用権者による使用について

商標法第63条第1条第2項ただし書において、「ただし、使用権者が使用している場合はこの限りでない」と規定されているように、商標権者が登録商標を指定商品役務に使用していない場合であっても、使用権者が登録商標を指定商品役務に使用している場合は、実質的に商標権者による使用とみなすことができ、登録商標の取消を免れる。また商標の使用権の設定・許諾は書面を成立要件とはしておらず、商標権者と使用権者の間に意思表示の合致があればその効力を生ずる。本件では、商標権者であるXが責任者である企業Yによって、本件商標が付された「SDSソケットアダプター」が販売されている。一般社会通念及び経験則に照らせば、Xが自身の企業Yに対して本件商標の使用を許諾したと認定することができることから、Yによる本件商標の使用は実質的にXによる登録商標の使用と認めることができる。

指定商品ごとに使用状況を審査する点について

2010年に台湾司法院知的財産法律座談会行政訴訟類第1号会議において、「本件商標権者は指定商品のうちの1つにおける使用証拠を提出しているが、他の指定商品における使用証拠は提出しておらず、商標権者が立証責任を果たしたとは認め難い。台湾特許庁は商標権者に対し残りの全ての指定商品における使用証拠を提出するよう命じるべきである。商標権者が当該他の指定商品の使用証拠を提出しない場合、商標法第57条第4項の規定により当該商品における登録を取消さなければならない。」という議決がされている。

本件において、Xは「SDSソケットアダプター」即ち「手持工具(手動式のもの)」における登録商標の使用に関する証拠しか提出しておらず、他の指定商品における登録商標の使用に関する証拠は提出していない。よって上述の司法院決議により、「手持工具(手動式のもの)」以外の商品については登録を取消さなければならない。

上位概念の商品のみの使用について

「下位概念の商品役務における登録商標の使用が認められる場合、下位概念に対応する上位概念の商品役務における登録商標の使用も認めるべきである。しかし逆の場合、即ち上位概念の商品役務における登録商標の使用が認められる場合、上位概念に対応する下位概念の商品役務における登録商標の使用を認めてはならない。」(最高行政裁判所2017年度判字第163号判決)。

本件において、Xが提出した証拠からは、「SDSソケットアダプター」における登録商標の使用、及び「SDSソケットアダプター」が「手持工具(手動式のもの)」に属することが認められる。しかし本件商標の指定商品は「手持工具(手動式のもの)」のみではなく他にも15の商品が存在する。Xは上位概念の商品である「手持工具(手動式のもの)」における使用証拠を提出しているが、他の下位概念の商品における使用証拠は提出しておらず、上位概念の「手持工具(手動式のもの)」と下位概念の他の商品とでは商品の性質が異なる。

審決において台湾特許庁はXによる「SDSソケットアダプター」即ち上位概念の「手持工具(手動式のもの)」における登録商標の使用をもって、他の下位概念の指定商品における登録商標の使用も認めているが、これは最高行政裁判所2017年度判字第163号判決の趣旨に反する。また、「SDSソケットアダプター」はクロムバナジウム鋼から成り電動ドリルに用いるものであるが、この用途及び機能はいずれも「手持工具(手動式のもの)」以外の他の指定商品とは異なり、「手持工具(手動式のもの)」と他の指定商品とを同一性質の商品と認めることはできない。

弊所コメント

登録商標の使用に関し、台湾特許庁作成の審査基準「登録商標使用の注意事項」において、「指定商品役務のうち、実際に使用されている商品役務のみならず、これと相当する性質又は同一性質を有するものについても、使用していると認定することができる。これは商品役務の内容、専門技術、用途、機能等が同一であるか否か、取引の慣習上、一般公衆が同一の商品役務であると認めるか否か、といった観点に基づき判断する。また指定商品役務と使用商品役務が上位下位概念、包含関係、重複関係にある場合、使用商品役務は指定商品役務に含まれると認定することができる。」。そして例として、化粧品という上位概念の商品が指定されているが、実際の使用商品がパウダーファンデーション、アイシャドウといった下位概念の具体的なものである場合、それは指定商品(化粧品)の使用である、というものが挙げられている。

そして裁判所の判断基準としては、2010年及び2019年に行われた台湾司法院の知的財産法律座談会決議では、「どの範囲まで指定商品役務の使用と認定するかに関し、使用商品役務と同一性質の商品役務に限るとするのが妥当である。同一性質について、台湾特許庁規定の類似群6桁が同一のものに属する商品役務については、原則として性質が同一であると認定することができる。具体的な判断については、商品役務の用途、機能、材料、製造方法又は実際の製造販売形態及び提供者等の客観事実を総合的に考慮する。ここで、商品役務の『類似』という概念を援用すると、使用商品役務の範囲を拡張し過ぎることになるため、適切ではない。」という見解が示されている。この決議を受け、比較的多くの裁判例においては原則として上位概念の商品の使用をもっては、対応する下位概念の商品の使用とは認められないと判断されている(本件で引用された最高行政裁判所2017年度判字第163号判決など)。

本件において台湾特許庁の審決では、「手持工具(手動式のもの)」における登録商標の使用をもって、他の指定商品における使用を認めているが、その理由について検討されることなく単に「『手持工具(手動式のもの)』と他の指定商品とは性質が相当する。」と述べられているに過ぎない。台湾特許庁は本件判決で中小企業の立証困難性に言及していることから、権利者が中小企業である場合、登録商標の使用の立証は大企業に比べ困難であるという点に基づき、登録商標の使用の判断基準を緩やかに解釈したと思われる。

しかし、本件の他の指定商品「タップ、のこぎり等」について、Xが実際に使用している「SDSソケットアダプター」とはその機能、用途、材料を考慮すれば、両者の性質が相当するとは言えないと思われ、本件裁判所による判断は妥当なものと考える。商標権者の立場からすれば、裁判所では商品役務の同一・相当性質の判断が比較的厳格にされることから、各指定商品役務における使用証拠を残しておくことが重要である。逆に審判請求人の立場からすれば、商標権者から提出された使用証拠に対し、商品役務間の性質が同一・相当か否かという点から反論を加えることが有効であることを意味する。

[1] 知的財産裁判所は2019年度行商訴字第134号。

キーワード:商標 判決紹介 台湾 商品役務

 

 

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