台湾 商品の類否判断に関する判例(Dr. Q蒟蒻ゼリー事件)

Vol.78(2020年11月18日)

指定商品の類否に関し、台湾特許庁による「混同誤認の恐れ審査基準」では「商品が類似するとは、2商品が機能、材料、製造者又はその他の要素において共通又は関連する点を有し、一般社会通念及び市場取引状況に基づき、両商品の出所が同一か又は同一ではないが関連があると消費者に容易に誤認させることを指す。」と規定されている。

また台湾特許庁発行の「商品役務相互検索参考資料」には類似する商品役務がグループとしてまとめられ、同じ「類似群」が付けられており、同じ類似群が付けられた商品役務は、審査において原則として類似と認定される。しかしこれはあくまで原則であり、実際の商品の類否判断においては類似群に加え、実際の商品名称及び商標の態様並びに取引の状況などから総合的に判断される。以下では商品の類否判断が争点となった最新の事例を紹介する。

事件の概要

Xは指定商品を第29類の「食用ゼリー、仙草ゼリー、愛玉ゼリー、亀ゼリー、蒟蒻から作られたゼリー、食用ツバメの巣」等として商標「Dr.Q」(本件商標)を出願し登録を受けた。その後、Yは本件商標が自己の有する登録商標2件(引用商標)と商標及び指定商品が類似するとし異議申立てを行ったが、維持決定が下された。本件はこの維持決定に対する取消訴訟である1。なお本件では異議理由として30条1項10号(他人の先願又は先登録商標と類似し混同誤認の恐れがある)、30条1項11号(他人の著名商標/標章と類似し混同誤認又は識別力の希釈化等の恐れがある)及び30条1項12号(他人の商標の意図的な模倣)の3つが主張されいずれも争点となっているが、ここでは商品の類否に関する部分を取り上げる2

本件商標、引用商標及び本件商標が付された製品

本件商標及び引用商標、そして本件商標が付された実際の製品を以下に示す。

表1 本件商標及び引用商標

本件商標 引用商標1 引用商標2
第29類
食用ゼリー、仙草ゼリー、愛玉ゼリー、亀ゼリー、蒟蒻から作られたゼリー、食用ツバメの巣等
第5類
乳酸菌、カテキン、レシチン粉末、サプリメント等
第5類
ヒト用薬品、栄養補助食品、乳児用食品、動物用薬品、歯科用充てん材料等

表2 本件商標が付された実際の製品


知的財産裁判所の見解

知的財産裁判所は以下のように述べ、本件商標と引用商標1、2の指定商品は類似しないと認定した。

商品の性質、機能及び用途について

商品が類似するとは、2つの異なる商品が機能、材料、生産者又はその他の要素において共通又は関連する点を有することを指す。商品の類否判断は、当該商品の各関連要素を総合し、一般社会通念及び市場の取引状況に基づいて行わなければならない。すなわち、商品の類否判断を行う時には、商標の原材料、性質、用途、形状、部品又は完成品の関係、販売部門又は販売場所、消費者及び流通経路等に基づき、一般社会通念及び市場取引状況を参酌しなければならない。しかし、社会や産業の細分化が進み、単に抽象的な概念だけで商品又は役務の類否を判断することができないため、各産業の性質及び個別具体的な事案に応じて判断をする必要がある(最高行政裁判所2019年度判字第375号判決主旨参照。

商品の性質、機能及び用途に基づけば、本件商標の指定商品「食用ゼリー、仙草ゼリー…等」は一般食材から作られた日用食料品であるが、これに対し引用商標1の指定商品「乳酸菌、カテキン…」は植物から抽出したアミノ酸、ビタミン等の栄養素で作られた商品であり、引用商標2の指定商品「ヒト用薬品、栄養補助食品…」等は、医療において用いる薬品、薬剤、器材等に関する商品である。つまり、本件商標の指定商品は一般消費者の日常生活における食の需要を満たすために提供されるものであるが、引用商標1及び2の指定商品は特定消費者の身体機能向上又は医療などの特殊な需要に応じて提供されるものであり、両者は商品内容、消費者群及び販売目的はいずれも異なり重複するものでもない。一般社会通念及び市場の取引状況によれば、両商標の指定商品は類似せず関連性を有する商品でもない。

類似群について

原告は次のように主張する。「本件商標の指定商品『食用ツバメの巣』の類似群は2917であるが、備考類似として第5類の0503も付されている。そして引用商標1、2の指定商品『サプリメント』や『栄養補助食品』の類似群も0503であることから、本件商標の指定商品『食用ツバメの巣』は引用商標1、2の指定商品『サプリメント』や『栄養補助食品』と実質的に同一区分に属し、類似関係にある。」。

しかし商品役務の区分は、あくまで台湾特許庁における管理及び検索の便宜のためのものであり、商品役務の類否は商品役務の性質、機能、材料、生産者、流通経路及び販売場所等の要素を総合考慮し、一般社会通念及び市場の取引状況に基づいて判断しなければならないのであって、商品役務の区分の制限を受けるものではない(商標法第19条第6項)。また本件商標の商品「食用ツバメの巣」の類似群は2917であり備考類似として0503が付されているという点について、台湾特許庁作成の「商品役務相互検索参考資料」の記載内容によれば、正確には「食用ツバメの巣」が属する類似群2917は、備考類似において0503に属する商品のうち「ツバメの巣のエキス」及び「ツバメの巣栄養補助食品」のみ、記載されている。つまり0503における「ツバメの巣のエキス」及び「ツバメの巣栄養補助食品」以外の商品については、材料や性質が異なるため2917の商品とは類似関係にはない。したがって、本件商標の指定商品「食用ツバメの巣」と引用商標の指定商品「サプリメント」や「栄養補助食品」とは実際には類似の商品ではない。

商品の原料及び販売場所について

原告は次のように主張する。「本件商標が付された商品『Dr.Q蒟蒻』と引用商標が付された商品『Dr.Q蜂王彈力Q波凍』を比較すると、主原料はいずれもゼラチン(液体を凝固させる添加物)、水及び果汁であること、小型容器に入れられたゼリー製品であること、販売経路はMOMOやYahoo等であることを共通とする。よって両製品は類似商品である。」。

食品に液体を凝固させる物質を添加し固体とすることは一般的なことである。また引用商標が付された商品「Dr.Q蜂王彈力Q波凍」の価格は1個当たり48元と低価ではなく、主にケア機能といった保健用品の性質を有するものである。これは日用品といえる本件商標が付された商品とは性質が異なる。次に販売場所について、両者はいずれもMOMOやYahooで販売されていると原告は主張するが、MOMOやYahooは多様な商品を販売する総合販売サイトであることから、単にいずれもMOMOやYahooといったサイトで販売されていることをもって、両者の販売場所や販売経路は同一類似すると認定することはできない。消費者がこれらサイトで製品を閲覧時に実際に両商品に触れたといった事情(例えば両商品が同一分類上に存在する等)を検討する必要がある。

弊所コメント

台湾の商品役務においても日本の類似群コードに似た類似群という概念が採用されており、同一の類似群が付された商品は原則類似と判断される。また日本の「備考類似」に類するものが台湾の「商品役務相互検索参考資料」にも規定されている3

本件商標の指定商品「食用ツバメの巣」では備考類似として「0503のうちツバメの巣のエキス及びツバメの巣栄養補助食品と類似する」と記載されていたところ、異議申立人の引用商標は指定商品には0503の商品は含まれるが、ツバメの巣のエキス及びツバメの巣栄養補助食品は含まれないという状況であった。異議申立人は本件商標の指定商品と引用商標の指定商品はいずれも健康食品であることや、販売場所・販売経路が同一であるという方向から商品類似の主張を試みたが、裁判所はその主張を退けている。これは本件商標がゼリー関連商品において台湾以外の多数の国(シンガポール、香港、米国、中国、カナダ)で登録されていること、本件商標の権利者は台湾において本件商標が付された商品の宣伝広告費用に多額を投じていたこと等が総合考慮された結果と思われる。

なお判旨で同一のECサイトで販売されていることは、販売場所・販売経路が同一ではないと示されているように、ウェブ上における指定商品の販売場所・販売経路の関連性を主張する場合には両者が同一分類や同一ページに掲載されている事実を示すことが好ましい。

[1] 知的財産裁判所2020年行商訴字第16号。

[2] 30条1項11号について裁判所は「本件商標は著名とはいえない」として適用を否定し、また30条1項12号(他人の商標の意図的な模倣)について裁判所は「YはXが意図的に模倣し本件商標を出願したことについて具体的に立証していない」として適用を否定している。

[3] 台湾の備考類似は日本と異なり、審査時も考慮される。

キーワード:商標 判決紹介 台湾 商品役務

 

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