台湾商標・著作権 パロディに関する最新判例(LV Monogram Canvasパロディ事件)

Vol.72(2020年8月20日)

近年世界各国で商標や著作権におけるパロディに関する関心が高まっており台湾も例外ではない。台湾の現行商標法及び現行著作権法では、日本と同じくパロディに関する要件は明文規定されていない。

商標パロディに関しては登録段階における問題と権利侵害段階における問題が存在するが、台湾では登録段階におけるパロディについてはほとんど裁判例1もなく議論もあまりされていない。一方、商標パロディによる侵害(フェアユースの主張可否)に関する裁判例や学説は比較的多い。このうち商標パロディのフェアユースに該当するための要件や理由を詳細に述べて、被告の行為はフェアユースの範囲内であると認めた2018年のMonogram Canvas事件2は、指標的判例とみなされていた。

しかし先日このMonogram Canvas事件の二審判決3が出され、そこでは一審判決におけるパロディのフェアユースの認定手法とは異なるものが示され、被告行為のフェアユース該当性を否定している。以下では、この二審判決の内容を紹介する。

事件の概要

Xは下表1に示すクッションファンデーション、バッグ及び手鏡(以下、まとめて「本件製品」とする)を販売していたところ、Louis Vuitton Malletier(本件原告、ルイ・ヴィトン、以下「LV社」とも呼ぶ)はXによる販売等行為が、自社の有する商標権及び著作権を侵害し、また公平交易法に違反するとして、Xを訴えた事件である。原告が有する登録商標(本件商標)及び原告の著作物(本件著作物)を下表2に示す。

本件製品、本件商標及び本件著作物

表1 本件製品(被告販売製品)


表2 本件商標及び本件著作物(原告商標、著作物)

本件商標 本件著作物

知的財産裁判所一審の見解

一審判決では被告の行為は商標パロディのフェアユースに当たると認定し、原告の訴えを棄却した。判決において被告の行為が商標パロディのフェアユースに該当する理由が詳細に示されたが、理由の概要は次のとおりである。(1)本件製品は消費者に本件商標を連想させる(2)本件製品は表現の自由の公共利益を示している(3)本件製品は消費者に混同誤認の恐れを生じない(4)本件製品は本件商標の識別力及び信用名誉を損ねる恐れはない。また一審判決では商標権侵害を否定したのみならず、原告による著作権侵害及び公平交易法違反の主張のいずれも認めていない。

知的財産裁判所二審の見解

  1. 商標法違反

    被告が引用した米国判決について

    被告傘下の韓国企業THE FACE SHOP社(以下、「韓国TFS社」)と米国MOB社が米国で共同制作し販売した商品がLV社より訴えられた事件は、米国裁判所においてパロディによるフェアユースに該当すると認められ、後の最高裁判所判決を経てLV社敗訴が確定している4。この米国での商品と台湾での本件製品は同一デザインである。被告はこの米国判決を引用し、本件製品もフェアユースに該当すると主張した。

    この点について裁判所は、「商標の合理的使用フェアユースは『抗弁』の一種であり、『権利』ではない。即ち侵害行為の成立を阻却するために、商標権の効力は自らの使用行為に及ばないと主張する際に商標使用者が用いる抗弁である。米国判決の対象となった商品は米国MOB社が韓国TFS社に使用許諾を行い、さらに韓国TFS社が本件被告Xに対し台湾での使用許諾を行っている。ここで、使用権者は使用する商標について商標権を有さず、他人に対し当該商標の使用権を設定・許諾する権利も有しない。たとえ米国MOB社が米国事件において使用行為はパロディのフェアユースであるという抗弁を行い当該抗弁が米国裁判所に認められたとしても、これは米国MOB社が他人に対し我が国での使用権を設定・許諾する権利を有するということを意味するわけではない。…(略)…加えて、本件製品に付された本件図案と米国MOB事件において米国MOB社が使用している図案とは異なり(米国MOB事件で使用された図案はspeedyであるのに対し、本件で使用された図案はMonogram Multicolorの図案である)、使用される商品や使用形態も異なることから、米国MOB事件の判決を引用して、本件の侵害行為成否の判断根拠とすることはできない。」と述べ原告の主張を退けた。

    パロディのフェアユースに関する抗弁について<

    裁判所は商標パロディのフェアユースを主張する場合について次のように述べた。「商標パロディのフェアユースを主張する場合、以下の2種類の抗弁を行うことができる。(1)他人の商標を自己の商品役務の出所を示す標識として用いるのではなく、商標の使用方法が単に風刺・滑稽な言論表現に過ぎず、「商標的使用」に該当しない。この(1)の抗弁が成立しない場合、(2)商標の使用は、関連消費者に混同誤認を生じさせないため商標権侵害を構成しない、という抗弁を行うことができる。この2つの抗弁がいずれも成立しない場合、当該行為は商標の出所表示という最も重要な機能を破壊しているため商標権侵害に該当し、パロディであるという主張によって責任を免れることはできない。」

    そして本件の場合について次のような見解を示した。「本件製品はファンデーション、手鏡及び巾着など体積が小さい商品であり、「My Other Bag」でいうところの「Bag」ではない(Bagと呼ぶことができないとは言えない巾着であっても、LVハンドバッグと比べるとその大きさ、機能、用途が異なる。ファンデーション及び手鏡は言うまでもない)。本件製品のあまり目立たない態様で草書体の「My Other Bag」という字が付されているとしても、米国文化で暮らしている消費者ですらその風刺・滑稽がどこにあるか理解できず、異なる文化で暮らし「My Other Car…」という米国の有名な冗談の意味が分からない我が国の関連消費者が、その風刺・滑稽について理解できるはずがない。次に本件製品において本件商標と類似度の高い図案が使用され、製品においてその図案が占める割合は製品全体の面積の三分の二を超えていることから、当該図案は最も消費者の注目を集める部分である。これに対し本件製品における「My Other Bag×THE FACE SHOP」の文字は比較的小さいことや文字「My Other Bag」は草書体であることから、我が国の消費者からすれば識別することは比較的に困難である。よって、文字部分は図案部分に比べて目立つ部分ではない。加えて図案と文字の双方が付されている場合、消費者は図案をより注目する傾向にあり、また原告の本件商標はそもそも被告の「My Other Bag」又は「THE FACE SHOP」より遥かに著名であることから、本件図案は「My Other Bag×THE FACE SHOP」文字に比べて消費者に対し出所を示す印象が遥かに強い。さらに、被告は本件製品の広告において「最もお買い得な『ブランド』クッションファンデーション」、「最も人気のある3種のクッションファンデーションと『クラシックファッション』を組み合わせ、メイク時のオーラを一瞬で向上させ、『セレブ』感のメイクが簡単にできる!」と強調している。「ブランド」「クラシックファッション」「セレブ」という言葉は、「高級」「ブランド」「贅沢」といった商品を連想させる。本件製品のデザイン及び広告内容から見ると、「原告とは無関係である」というメッセージを明確に伝えていないのみならず、消費者に混同を生じさせ、LV社の商業名誉にフリーライドしようとする意図が見て取れる。」。

    裁判所は最後に次のように述べ、被告によるパロディのフェアユースの主張は認められないとした。「米国MOB事件の判決ではMOB社の帆布バッグにおける使用は商標パロディとしての合理的な使用に該当すると認定している。しかし、我が国と米国では文化や風習が異なり、我が国の消費者は「My Other Bag …」という米国の冗談の意味を明確に理解することができないこと、本件製品と米国MOB事件における帆布バッグとは商品の属性が異なることから、本件商品は風刺・滑稽の意義又は論点を伝えるものではない。そして被告の本件図案の使用方法を全体的に見ると、我が国の関連消費者に混同誤認を生じさせる恐れがあると認められるため、被告が主張するパロディとしての合理的な使用の抗弁は採用できない。」

  2. 著作権法違反

    本件Monogram Multicolorの著作物性について

    「本件Monogram Multicolorの色彩図案は、「LV」の英文字の周りに葉や花弁の図形、又は菱形又は円の中に葉や花弁の図形が配置された図形が等間隔で繰り返されたデザインとなっており、また鮮やかで生き生きとした色彩をもって視覚的な美感が表現されていることから、創作性5を有すると認められる。よって本件Monogram Multicolorは著作権法の保護対象である美術の著作物に該当する。」

    侵害成否について

    「本件製品に使用されている本件図案は、著名であるMonogram Multicolorの色彩図案と類似度が高い。両者において重なっている英文字が「LV」ではなく「MOB」である点、及び菱形又は円の中に配置された葉や花弁の形にわずかな差がある点を除けば、何の創作的要素又は「転化」作用も付加されていない。本件製品は、全体としてMonogram Multicolorとは実質的に類似しており、本件Monogram Multicolorの著作権を侵害する物品である。」

    パロディのフェアユースの主張について

    上述したように台湾著作権法ではパロディに対するフェアユースの明文規定は存在しないが、一般フェアユース条項は著作権法第65条第2項に規定されている。一般フェアユース条項では(1)利用の目的及び性質(2)著作物の性質(3)利用の質、量及びその著作物全体に占める割合(4)利用の結果が著作物の潜在的な市場と現在価値に与える影響を考慮しなければならないとされている。本件判決において裁判所はこの一般フェアユース条項の規定に基づき当てはめを行っている。

    (1)利用の目的及び性質について

    被告は商業目的で本件図案を使用しており、「原作とは無関係である」というメッセージを明確に伝えていないのみならず、本件図案を「My Other Bag」又は「MOB」をファンデーションケース、巾着及び手鏡に使用しているが米国の有名な冗談が有する風刺・滑稽の意味は生じておらず自らのオリジナリティも付与されていない。我が国の関連消費者は本件製品から風刺・滑稽という意味を感じとることができないため、本件製品は一定の「変形的価値(transformative value)」を有さず、かえって関連消費者に本件製品の出所と本件美術著作物が付された商品の出所について混同誤認を生じさせる恐れがある。

    (2)著作物の性質について

    本件著作物は視覚的な美感を有しており創作性が非常に高いため、比較的に高度な保護を与えるべきである。

    (3)利用の質、量及びその著作物全体に占める割合について

    本件図案は、中央部にあるブランドの略語「LV」を「MOB」に代えた点、及び葉や花弁の形にわずかな差がある点を除き、多くのデザインは本件著作物と同一である。したがって本件図案は本件著作物と類似度が高く、本件著作物を利用した質、量及び本件著作物に占める割合はいずれも甚だしく高い。

    (4)利用の結果が著作物の潜在的な市場と現在価値に与える影響について

    本件製品は、本件著作物の商品と類似又は性質が近い商品であり、関連消費者に両者商品間に不適切な連想を抱かせ、原告が築いた本件著作物の高価、高級というブランドイメージ及び市場ポジショニングに影響を与える。

    そして判決ではまとめとして、「被告は営業目的で本件図案を使用している、本件著作物は創作性が高く保護すべきである、本件図案における本件著作物の利用の質、量及びその著作物全体に占める割合はいずれも甚だしく高く、且つ何の「変形的価値」も有しない、さらに重要なのは本件製品において本件図案を使用した結果、本件著作物の潜在的な市場と現在価値に悪影響を与えている。以上より、被告による本件図案の使用行為は、言論や芸術表現の自由という公共利益を満たすものとは認め難く、著作権法第65條第2項で規定する合理的使用の要件を満たさない。本件図案はパロディであり著作権の合理的使用であるという被告の主張は、理由がない。」とし被告の主張は認められなかった。

  3. 公平交易法違反

    「公平交易法第22条第1項第1号において、企業はその営業で提供する商品又は役務において、著名な商標若しくは他人商品を示すその他の表徴を、同一若しくは類似の商品に、同一若しくは類似の使用を行い、他人商品と混同させること、又は当該表徴を使用した商品の販売、運送、輸出若しくは輸入をしてはならない、と規定されている。また同条第2項において、但し、当該商標又はその他の他人商品若しくは役務を示す表徴が法により商標権を取得した場合、前項の規定は適用しない、と規定されている。よって、使用している著名な表徴が商標権を取得していない場合は、公平交易法第22条第1項に基づき権利を主張することが考えられるが、本件の場合、本件商標及び本件著作物はいずれも商標権を取得しているため、公平交易法の関連規定は適用されない。」とし、公平交易法第22条の適用を否定した。また取引秩序に影響を与える欺罔行為又は公平を欠く行為を規定する第25条についても、同様の理由で適用を否定している。

弊所コメント

これまで台湾において商標パロディが問題となった事件はいくつかあった。例えば注釈1で上げたHermèsのパロディ商標事件、Chanelのロゴをパロディ化した図案の侵害事件6(以下Chanelロゴパロディ商標事件)、そして上で述べた指標的判例Monogram Canvas事件である。最初のHermèsのパロディ商標事件の判旨ではフェアユースの詳細について特に触れずに原告の主張を退けたが、Chanelロゴパロディ商標事件では「パロディのフェアユースに該当すると言えるためには、パロディ商標が詼諧、風刺又は批判等の娯楽性を有するとともに、パロディ商標がパロディされた商標とパロディ商標の両者を対比矛盾した情報を伝達していると認められなければならず、さらに公共利益の混同の回避及び表現の自由の公共利益も合わせて考慮しなければならない」と初めてパロディのフェアユースに該当するための一定の要件が示された。そして上述した2018年のMonogram Canvas事件(即ち本件の一審判決)ではパロディのフェアユースについてさらに踏み込んだ検討及び要件が示された。

しかし本件Monogram Canvas事件の二審判決では、一審で示された要件について全く言及することなく、パロディのフェアユースを主張する者は2種類の抗弁を主張すべきという見解を示した。この2種類の抗弁内容のうちの1つは混同誤認を生じていないという通常の商標権侵害における判断基準と何ら変わりのないものであり、もう1つの内容も「単に風刺・滑稽な言論表現に過ぎず、「商標的使用」に該当しない」と概念的なものであり具体的な判断基準が示されたとは言えない。ただ本件判決で注目すべきと言える点は、「パロディ又はジョークは、一国の言語、文化、社会背景、生活経験、歴史等の要素と密接な案系があり、我が国の人間は外国において一般的なジョークの文字上の意味を理解できたとしても文字に包含されるユーモアやパロディの概念について理解できるとは限らない。」と述べ、米国におけるユーモアをモチーフとした本件パロディの意図は台湾消費者にとって理解可能であると判断した一審の見解を真っ向から否定した点にあろう。つまり本件判旨の射程は外国におけるジョークやパロディが使用された状況に限られ、台湾消費者が容易に理解できるような中国や台湾のユーモアに基づくパロディであれば、フェアユースに該当すると認められる可能性は否定されないと思われる。なお、本件二審判決における結論、即ち本件被告の行為はパロディのフェアユースに該当しないという見解は妥当なものであると考える。

著作権法に関して、台湾では著作権のパロディに関する判例はまだ少ないが、現行規定の下ではパロディのフェアユースが主張された場合、著作権法第65条第2項規定の一般フェアユース条項の要件に基づき検討がされることになる。今後の判例の蓄積が望まれるところである。

本件は被告が既に最高行政裁判所に上告したという情報もあり、最高裁判決でどのような見解が示されるかが注目される。

[1] 近年の数少ない判例としては知的財産裁判所2011年行商訴字第104号判決がある。Hermèsのパロディ商標出願の拒絶査定審決取消訴訟において原告(出願人)は米国のLouis Vuitton Malletier, S.A. v. Haute Diggity Dog, LLC, 2007事件を引用して本件商標はパロディである主張したが、裁判所は米国の事件と本件とでは事情が異なるとして特にパロディについて論じることなく原告の主張を退けている。また本判決は後の最高行政裁判所でも維持されている(最高行政裁判所2012年裁字第391号判決)。

[2] 知的財産裁判所2018年民商訴字第1号判決。

[3] 知的財産裁判所2019年民商上字第5号判決。

[4] 米国事件(LV社 vs TFS社)における被告製品は以下。

[5] 台湾の著作権法における著作物の要件として「原創性」がある。この「原創性」は「原始性」と「創作性」という2つの概念を含む。

[6] 知的財産裁判所2014年度刑智上易字第63号判決。

キーワード:商標 著作權  判決紹介 台湾 侵害

 

 

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