台湾商標 地模様商標の侵害事件判例(LV地模様商標侵害事件)

Vol.70(2020年7月7日)

台湾において地模様からなる商標については、商品の出所を表示するものではなく単なる装飾や包装の背景であると認識されることが多く、原則として商標登録を受けることはできない。独創的な複数の要素から構成されるような非常に特殊な地模様である場合を除き、地模様商標が登録を受けるためには使用による識別力の獲得が条件とされる1 。一般的な地模様は単なる装飾であり識別力を有しないが、これは必ずしも当該地模様を何人も自由に使用できることを意味するわけではない。使用による識別力を獲得して商標登録された地模様と同一又は類似の商標を、同一又は類似の商品役務に使用すれば、通常の商標の場合と同様に民事又は刑事責任を問われることになる。

今回取り上げる事件は地模様商標の刑事責任が問われた事件である。地模様商標の類否が判断された事件は数が少なく、また知的財産裁判所が地裁判決を覆した点でも本件は興味深いものである。

事件の概要

本件被告人は2010年に台湾特許庁へ2件の商標登録出願を行ったところ、1件は登録となったが、もう1件(以下、拒絶商標)は識別力を有さないとして拒絶査定が下され、拒絶が確定した。その後被告人は、各種オンラインマーケットプレイスにて拒絶商標を用いたバッグ等の販売を開始した。Louis Vuitton Malletier会社(本件原告)は被告人による販売行為が、自社の有する複数の商標権を侵害するとして、台湾士林地裁へ刑事告訴を行った。地裁判決では被告人の行為は商標の機能が発揮されているとは確定できないこと、被告人の商標と原告の商標では外観に差異があること、両商品の販売価格等により消費者に混同誤認は生じていないこと、被告人の行為は主観故意(明らかに知りながら)に該当しないこと、などの理由により、原告の訴えは棄却された2

知的財産裁判所の二審では、被告人の行為は原告の商標権侵害を構成すると認定して原判決を取消、被告人に対し懲役4か月の判決を下した3

原告商標、被告人商標及び被告人の商品

表1. 原告商標

商標
登録番号 01155372 01182808 00831283 00843926 01552668

表2. 被告人商標

商標
登録番号 01466272 -(拒絶)

図1. 被告人の商品


知的財産裁判所判決の見解

被告人の主観要件について

本件における被告人の刑事責任の根拠条文は、商標法第97条である。一般的な商標権の刑事侵害は商標法第95条が根拠条文とされるが、第97条では第三者による商標権侵害品であると明らかに知りながら、これを販売、又は販売を目的とした所持、陳列、輸出若しくは輸入行為について、一般的な侵害行為の罪に比べて軽微な罰を課することを目的とする。そして第97条では、主観故意(明らかに知りながら)が要件とされている。

被告人は、「本件商標は台湾特許庁より単純な装飾であり識別力を有しないとして拒絶査定を受けたため、台湾特許庁によるこの認定を信頼して本件商標を使用した。よって自身の行為は主観故意を満たさない」として侵害を否認した。また原審でも被告人の主張が認められた。

しかし知的財産裁判所は被告人の主観要件について、原審とは異なる見解を示した。

「原告商標は高い知名度を有しており、被告人は同じくアパレル業者として原告商標の存在を認識していたと言える。被告人は01466272号登録商標を有するものの、被告人が実際に販売している商品に付された商標は、01466272号登録商標から「SUNFABLE」文字を意図的に除き「重なった2つのS」のみを抜き出し、トランプのクラブ、ハート、スペード図形と組み合わせた模様が繰り返されたものである。これは原告商標と用いる要素の外観、配置方法や配置感覚と著しく類似する。加えて、被告人の販売するバッグ全体の配色(濃い茶色、薄い茶色)も、原告の商品の配色と限りなく近い。よって被告人の行為は原告の商業名誉にフリーライドしようとする意図を有し、主観的に故意であることは明らかである。」

「被告人は本件商標が識別性を有しないという理由で拒絶査定を受けた事実を信頼して使用したため故意ではないと主張するが、被告人の商標と原告の商標が関連消費者に混同誤認を生ずるかという点については裁判所による認定・判決は下されておらず、また台湾特許庁の査定は本裁判所の判断を拘束する効力を有しない。」

商標の類否について

本件被告人商標と原告商標を比較すると、共通点は葉や花弁の図形が菱形又は円の中に配置され、それが繰り返されている点であり、相違点は葉又は花弁の種類や形状の僅かな差異のみである。特に被告人商標の外観は各要素の配置間隔や、各要素の構成、特に中心に2つの英文字を重ねる構成など、原告の01155372号登録商標及び01552668号登録商標と高い類似性を有する。

混同誤認について

商標法における「混同誤認の虞」とは、消費者が商品の出所が同一であると誤認することに加え、両商標の使用者の間に関連企業、ライセンス関係、フランチャイズ関係その他の関係が存在すると誤認することを含む。本件の被告人商標と原告商標の類似度は極めて高く、消費者は被告人商標が付された商品が原告のサブブランド又はシリーズ商品である、又は被告人と原告の間に何らかの関連性が存在すると誤認する可能性が高いことから、被告人の行為は混同誤認の虞を生ずると言わざるを得ない。また、「消費者」とは直接消費者のみが対象ではなく将来的な潜在消費者をも含む概念である。つまり、直接の取引者は被告人の商品が模倣品であることを知りながら購入するかもしれないが、直接の取引者ではない将来的な潜在消費者からすれば、価格や品質及びその他商品表示に触れることなく商品の外観のみを頼りにした場合、当該商品の出所が原告又は原告からライセンスを受けた者であると誤認する可能性があり、こうした状況は「関連消費者に混同誤認を生ずる虞がある」という客観要件を満たすものである。

弊所コメント

地模様は消費者に装飾と認識されるため、原則的に自他商品識別力を有さず登録を受けることができないが、使用による識別力獲得が認められる場合は登録を受けることができる、と台湾の識別性審査基準及び非伝統商標審査基準に規定されている4。よって、地模様は長期広範にわたって使用され、商標が自他商品識別力を有するようになり消費者がそれを商標と認識するようにならない限り、商標登録を受けることができない。

地模様商標が登録となった場合、通常の商標と同じく商標権が発生し、同一又は類似の商標を同一又は類似の商品役務に使用する第三者に対し権利主張を行うことが可能となる。しかし現状としては本件の地裁判決のように、第三者が登録地模様商標と同一又は類似の地模様を商品に付したとしても、商標としての使用には該当しないと認定され、権利主張が認められないことが多い。

本件知的財産裁判所の判決は、地模様商標による権利主張が認められた比較的珍しいケースである。本件被告人が販売するバッグ等は原告のバッグに酷似するデッドコピーに近いものであることや、本件原告は世界的著名ブランドであることが本件判決に与えた影響を差し引く必要はあるにせよ、参考に値すると思われる。

[1] 日本でも地模様からなる商標については、商標法第3条第1項第6号に該当する例として審査基準に挙げられている。

[2] 台湾士林地方裁判所2018年智易字第12号刑事判決。

[3] 知的財産裁判所2019年刑智上易字第76号刑事判決。

[4] 商標識別性審査基準4.4.2、非伝統商標審査基準8.2.3。

キーワード:商標 判決紹介 台湾 商標類否 侵害

 

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