台湾 改正専利法下の無効審判及び訂正に関する対策

Vol.69(2020年6月9日)

台湾の専利法及び専利審査基準は2019年11月1日に改正され、同日に施行されている。主な改正内容は、分割要件の緩和、無効審判の手続き規定の整備、実用新案の訂正に関する規定の改正及び意匠権の存続期間変更である。このうち、最もインパクトの大きいものは無効審判の手続き規定の整備であり、理由又は証拠の補充提出期限や訂正請求の時期的制限などが改正されている。

そこで今回は、無効審判の手続き規定の整備に関して、その改正内容及び台湾プラクティスに照らした対応策について紹介する。

改正内容(無効審判の手続き規定)

請求人による無効理由又は証拠の補充提出期限

改正前の専利法では次のように規定されていた。

専利法第73条第4項(改正前)

無効審判請求人による理由又は証拠の補充提出は、審判請求後1ヶ月以内に行わなければならない。但し、審決前に提出されたものについても斟酌しなければならない。

補充提出された無効理由又は証拠について、台湾特許庁がそれを斟酌した後に採用するか否かは特に規定されていないが、実務上台湾特許庁はこれらを非常に高い確率で採用していた。審判請求人が新たな理由又は証拠を補充提出すると台湾特許庁はそれを採用し、その後特許権者へ答弁書提出機会が与えられ、審判請求人がまた新たな理由又は証拠を補充提出するということになり、無効審判の審理に大幅な遅延が生じるという状況が多発していた。

こうした状況を受け、改正法では審理遅延が生じることを回避するために、審判請求人による理由又は証拠の補充提出期間が制限されることとなった。

専利法第73条第4項(改正後)

無効審判請求人による理由又は証拠の補充提出は、審判請求後3ヶ月以内に行わなければならない。期間経過後に提出されたものは斟酌されない。

そして上記期間経過後の理由又は証拠の提出に関し、例外的に提出できる場合として訂正請求がされた旨の通知送達後、及び、証拠調査、釈明権行使のための通知送達後、という2つが専利審査基準に規定されている。なおこの期間は通知送達後1ヶ月であり、延長することが可能である。

専利審査基準第五編第一章3.1.2(改正後)

無効審判請求3ヶ月後において、特許権者による訂正請求に係る通知を受けそれに対して意見陳述をする際、又は台湾特許庁が証拠調査若しくは釈明権行使のために意見陳述を求める旨を無効審判請求人に通知した際は、無効審判請求人は台湾特許庁による通知の送達日から1ヶ月以内に無効証拠を補充提出するか、又は意見を陳述することができる。

特許権者による答弁書提出期間

特許権者は、無効審判請求書の副本を受け取った後、及び、理由又は補充の補充提出がされた旨の通知を受け取った後に、答弁書を提出することができる。期間は通知送達後1ヶ月であり、延長することが可能である。期間内に答弁書が提出されなかった場合、そのまま審理が進められる(専利法第74条第2項、専利審査基準)。

また上記期間に加え、台湾特許庁が必要があると認めるときは、特許権者に答弁書の補充提出を求める通知がされ、この通知送達後1ヶ月以内に、答弁書を提出することができると審査基準に規定されている。この1ヶ月という期間は延長することが可能である。期間経過後に提出された答弁書は、斟酌されない。また審理を遅延させるおそれがある場合などは、台湾特許庁は答弁書を斟酌せず直接審理を進めることができる。

なお、特許権者は台湾特許庁から通知を受けた際にのみ、答弁書を提出することができ、自発的に答弁書を提出することはできないと審査基準に規定されている。ただし実務上、特許権者から自発的に提出された答弁書について、台湾特許庁は特に手続き却下とすることはしないが、内容が斟酌されるか否かは台湾特許庁次第である。

専利法第74条第2項(改正なし)

特許権者は副本送達後1ヶ月以内に答弁をしなければならない。期限内に応答がされなかった場合、予め理由を説明し期限の延長がされた場合を除き、直接審理が進められる。

 

専利審査基準第五編第一章3.2(改正後)

特許権者は台湾特許庁から通知を受け取った際に限り、受動的に答弁書、補充答弁書又は意見書を提出することができる(3.2)。

審判請求人が提出した無効理由若しくは証拠、又は審判請求後3ヶ月以内に補充提出された理由若しくは証拠は、特許権者に送達しなければならない。特許権者は通知送達後1ヶ月以内に答弁書を提出しなければならない。期限内に応答がされなかった場合、予め理由を説明し期限の延長がされた場合を除き、直接審理が進められる(3.2.1)。

無効審判請求から3か月後、台湾特許庁が必要があると認めるときは、特許権者に答弁書の補充提出を求める通知がされ、特許権者はこの通知送達後1ヶ月以内に、答弁書を提出することができる。期間経過後に提出された答弁書は、予め理由を説明し期限の延長がされた場合を除き、斟酌されない。特許権者からの補充答弁書について、審理を遅延させるおそれがある場合やその事実証拠が明確である場合、台湾特許庁は答弁書を斟酌せず直接審理を進めることができる。(3.2.2)。

訂正請求の時期的制限

改正前の専利法及び審査基準では、無効審判における訂正請求の時期的要件について特に規定されていなかった。改正専利法においては、無効審判中の訂正請求の時期的要件について、3つの場合に限ると規定されている。

専利法第74条第3項(改正追加)

無効審判の審理中、特許権者は答弁通知の期間内、補充答弁の期間内又は意見書提出期間内に限り、訂正を行うことができる。ただし特許権が訴訟に係属している場合はこの限りでない。

上記に言う「意見書提出期間」とは、訂正請求を認めない旨の通知で指定された期間のことを指す。また、上記3つの期間いずれにおいても通知送達後1ヶ月であり、期間経過後の訂正の請求は受理されない(専利審査基準)。

専利審査基準第五編第一章3.4.1(改正後)

特許権者は無効審判の審理中に、訂正の請求ができる期間は以下のとおりである。

(1)答弁通知の期間内、補充答弁の期間内又は訂正請求を認めない通知に係る意見書提出期間内
特許権者は通知送達後1か月以内に訂正の請求を行わなければならない。期間経過後の訂正の請求は、期限の延長が認められた場合を除き、受理されない。

(2)係争専利が民事又は行政訴訟に係属している間

改正法への対応策

無効審判請求人の対応策

改正後の専利法及び審査基準では、無効審判請求人による理由又は証拠の補充提出期限について明文規定されるようになった。従って、無効審判を請求する際には、予め関連証拠を十分に準備しておく必要がある。

なお無効審判の審決が下された後においても、一定条件下で新たな証拠を提出することができる。即ち、審決に不服で行政訴訟を提起した場合、知的財産案件審理法第33条第1項の規定により、口頭弁論終結前に新たな証拠を提出することができる1

ここで注意すべきは、台湾特許庁による訂正の審理に関し、無効審判又は民事訴訟が係属している場合に比べ、無効審判又は民事訴訟が係属していない場合は訂正が認められやすい傾向にある。よって民事訴訟提起を行う場合、先行技術の調査を行ったうえで、想定される相手からの無効の主張やそれに対する訂正の態様を十分に検討し、必要であれば訴訟提起前に自発的の訂正を行うことも考慮する必要がある。

特許権者側の対応策

改正法下では、無効審判請求人は審判請求後3 ヶ月以内に新たな理由又は証拠を補充提出できる。ここで、無効審判が請求されてから、台湾特許庁が無効審判請求書を特許権者に送達するまでの期間はおよそ半月である。審判請求書送達後、特許権者に与えられる応答期間は1 ヶ月であり、もしこの1 ヶ月の期間内に答弁書を提出した場合、無効審判請求人は特許権者の応答内容を確認したうえで、新たな理由又は証拠を補充提出できる可能性があり、これは特許権者に不利となる。よって、特許権者は審判請求書を受領した際には、期限内に応答するのではなくまず応答期限の延長(1 ヶ月延長)を行い、延長後の期限満了の直前に答弁書を提出するという策が考えられる。この場合、無効審判請求人が答弁書を受領した際には既に審判請求から3 ヶ月が経過しているか又は3 か月経過直前のため、新たな理由又は証拠を補充提出することは困難となる(後に訂正請求や証拠調査、釈明権行使がされた場合を除く)。

次に、今回の改正により無効審判中の訂正請求ができる時期が列挙されるようになった。以前は特に時期の制限なく訂正の請求が可能であったが、改正法下では訂正請求の可能な時期を逃さないよう留意しなければならない。

無効審判が係属していない期間は、特許権者はいつでも訂正を行うことができ、これは法改正前後で変化はない2。ここで注意すべきは、台湾特許庁による訂正の審理に関し、無効審判又は民事訴訟が係属している場合に比べ、無効審判又は民事訴訟が係属していない場合は訂正が認められやすい傾向にある。よって民事訴訟提起を行う場合、先行技術の調査を行ったうえで、想定される相手からの無効の主張やそれに対する訂正の態様を十分に検討し、必要であれば訴訟提起前に自発的の訂正を行うことも考慮する必要がある。

[1] 知的財産案件審理法第33条第1項「商標権の取消、廃止又は専利権の取消に関する行政訴訟において、口頭弁論の終結前に当事者が同一の取消又は廃止理由について新たな証拠を提出した場合、知的財産裁判所はその証拠を斟酌しなければならない。」

[2] 台湾では訂正審判という制度は存在せず、無効審判係属に関わらず一律に「訂正(の請求)」と呼ばれる。

キーワード:特許 台湾 無効審判 訂正

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