商標「品質誤認」についての近年の判決(台湾及び中国)

Vol.65(2020年3月5日)

商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標は登録を受けることができないと日本商標法第4条第1項第16号に規定されているが、同様の規定は台湾及び中国に存在する。台湾商標法第30条第1項第8号「公衆に商品又は役務の性質、品質又は産地を誤認させるおそれがある商標」、中国商標法第10条第1項第7号「欺瞞性を帯び、公衆に商品の品質等の特徴又は産地について誤認を生じさせやすいもの。」と規定されている。

日本の上記規定は、商標と指定商品役務との間に不実な関係があると、需要者に誤認を生ずることになるため、公益的不登録事由として本規定が設けている。いずれの国においても公益的不登録事由は比較的厳格に適用される傾向にあるが、具体的な判断基準については国によって相違がみられる。今回は台湾及び中国における、いわゆる「品質誤認」の規定に関して判断が示された近年の判決を紹介する。

台湾

事件概要

本件は、「品質誤認」(商標法第30条第1項第8号)等を理由として下された拒絶査定、訴願棄却決定の取消しを求めた行政訴訟事件(知的財産裁判所)である1。本件商標は下表に示すように、王冠と盾が上下に配列され、盾には白の楕円系の中に黒色の動物が描かれ、また白い横長リボンの中に「酷咖啡」という文字が記されている。ここで中国語の「酷」は「クールな」という意味であり、「咖啡」はコーヒーの意味である。指定商品は第30類の茶、ココア等であり、コーヒーは指定されていない。

商標
指定商品 第30類
茶、ココア、米、キャッサバ粉及びサゴヤシ、小麦粉及び穀物の調製物、パン、洋菓子及びキャンデー、氷菓、砂糖、蜂蜜、シロップ、酵母、塩、調味料、氷

知的財産裁判所見解

商標法第30条第1項第8号規定の適用については、商標そのものと指定商品との関連性から、判断することが必要である。つまり、商標全体の外観、観念又は称呼を観察し、それらと指定商品又は役務との関連性、及び市場取引の実際の状況を合わせて考慮し、指定商品又は役務の消費者における認識、感知を基準とする。

本件商標の文字「酷咖啡」について、この言葉はコーヒー商品に対して称賛を表す意味であり、関連消費者は通常この言葉を商品又は役務の出所標識とはみなさず、一般消費者からすればコーヒー商品以外を形容するものとしての認知は存在しない。よって、本件商標は指定商品「茶、ココア…」そのものの性質、品質又は産地とは直接関連するものではなく、商標として使用された場合、公衆に商品又は役務の性質、品質又は産地を誤認させるおそれがある。

中国

事件概要

本件も台湾同様、「品質誤認」(商標法第10条第1項第7号)等を理由として下された拒絶査定、復審拒絶決定の取消しを求めた行政訴訟事件(北京知的財産裁判所及び北京高級人民裁判所)である2。本件商標は「优酸乳」という簡体字にロゴが付加されたものである。ここで「酸乳」とは「soured milk」の意味であり、「优」は「優」の簡体字であり、意味は日本語の「優」同様である。そして「优酸乳」は出願人が販売するヨーグルト飲料の名称である。指定商品は第29類及び第32類を指定して、区分毎に出願がされている。

審査では「品質誤認」ではなく識別力不備により拒絶されたが、復審において「品質誤認」が追加で指摘されるとともに、復審においても拒絶となった。その後一審(北京知的財産裁判所)では本件商標が識別力を有し、「品質誤認」の規定にも該当しないと認定され、二審においても一審の認定を維持する見解が示された。

商標
指定商品 第32類
ビール;果実飲料;植物飲料;セルツァ炭酸水;クヴァス(ノンアルコール飲料);純浄水(飲料);乳酸飲料(果汁を成分として、ミルクを成分としないもの);ミネラルウォーター(飲料);飲料水;アルコール分を含有しない飲料;アイソトニック飲料;プロテインを豊富に含むスポーツ用飲料;乳清飲料

一審(北京知的財産裁判所)の見解

本件商標「优酸乳」は業界での普通名称やよく見られる概念でもなく、出願人が経営する飲料ブランド名称にすぎない。出願人と本件商標との間には対応関係が形成され、本件商標が指定商品上に使用されたとしても、商品の原料、内容等の直接的な説明ではなく、本件商標は識別力を有する。また出願人から提出された証拠資料によれば、本件商標は指定商品上において高い著名度及び知名度を得ている。すなわち、本件商標は識別力を有するとともに、長期広範にわたる使用による識別力も得ていることがわかる。

「品質誤認」について、復審では品質誤認に該当することについて具体的な理由及び根拠が示されていない。通常商品の包装には通常商品の原料組成、具体的成分等の情報が示されており、商標そのもののみでは、本件商標が指定商品上に使用された場合は品質誤認を生ずると認定するには足りない。

二審(北京高級人民裁判所)の見解

本件商標「优酸乳」は業界での普通名称やよく見られる概念でもない造語であり、また出願人は乳製品等の指定商品において既に「优酸」という商標の登録がされていること等から、本件商標は指定商品の品質等を示す文字ではなく識別力を有すると認定できる。

「品質誤認」について、本件商標には「乳」という字が含まれるが、指定商品「乳酸飲料(果汁を成分として、ミルクを成分としないもの)」に対しては商品自身の属性に合う文字であり、公衆に対し商品の原料等特徴に誤認を生ずることにはならない。また「飲料水」など他の指定商品に対しても、公衆の通常知識に基づけば、公衆はこれら他の指定商品と乳製品を含む成分とを相互に連結させることもなく、商品の原料等特徴に誤認を生ずることにもならない。

弊所コメント

ブランドを幅広い消費者に認知されるために、ブランド名として商品の特徴や品質に関連する名称が採用されやすい。しかし、このような名称は記述的商標に該当するおそれや、場合によっては「品質誤認」の拒絶理由にも該当するおそれがある。

台湾では記述的商標「品質誤認」規定の適用に対し、台湾特許庁及び裁判所のいずれも比較的厳格な判断基準が採用されている。図形と文字を含む結合商標であっても、審査においては文字部分が抽出され、文字部分について指定商品に対して記述的か否か、品質誤認を生ずるおそれがあるか否かが判断されることになる。

指定商品に対し記述的であると認定された場合、台湾ではディスクレーム(権利不要求)制度が採用されているため、記述的であると認定された部分についてディスクレームを声明することで、当該拒絶理由は解消可能である。しかし、「品質誤認」についてはこの方法が使えないため、拒絶理由解消のためには指定商品の補正を行うか反論を行うことが必要である。よって商標に含まれる文字要素が指定商品に対し品質誤認のおそれが生じると指摘される可能性があるか否か、出願前に事前に検討することが好ましい。

中国では、商標法第10条第1項第7号「欺瞞性を帯び、公衆に商品の品質等の特徴又は産地について誤認を生じさせやすいもの。」という規定について、行政と司法の判断に乖離が生じていることが指摘されている3。本件においては、行政(復審審査段階)における品質誤認の認定に加え記述的商標という認定についても、司法段階で覆されている。本件の判決では審査及び復審の審査における条文解釈の不当拡張が指摘され、品質誤認の判断においては商標そのもののみを観察するのではなく、商品の包装等の商標の実際の使用態様や消費者の認知等を合わせて考慮すべきという見解が示されている。今後こうした司法機関による見解が蓄積されることで、行政機関も司法機関の見解を参考とし、より実態に沿った審査の運用が進められるかどうか、注目される。

[1] 知的財産裁判所106(2017)年度行商訴字第48 号

[2] 北京知的財産裁判所(2019)京73 行初791 号、北京高級人民裁判所(2019)京行終7252 号

[3] 岩井智子「中国の商標登録出願にかかる中間処理」知財管理Vol.68 No.2

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