不使用取消審判の「指定商品/役務の範囲」について(台湾及び中国)

Vol.62(2019年11月25日)

登録商標は使用されることを前提としており、一定期間使用されていない商標は不使用取消審判により取り消されるという点は、台湾及び中国も同様である。不使用取消審判においては、登録商標と使用されている商標(使用商標)が同一か否か(商標の同一性)について度々争点となるが、これに加え実際に商標が使用されている商品役務(使用商品役務)と指定商品役務との関係性についても、実務上非常に重要な争点である。

今回は台湾及び中国における、不使用取消審判の「指定商品/役務の範囲」に関する現在の認定を検討する。

台湾

台湾特許庁の規定

台湾特許庁作成の「登録商標使用の注意事項」において登録商標の使用に関する内容が規定されており、そこでは商品役務の範囲に関して次のように記載されている 。

「指定商品役務のうち、実際に使用されている商品役務のみならず、これと『相当する性質』又は『同一性質』を有するものについても、使用していると認定することができる。これは商品役務の内容、専門技術、用途、機能等が同一であるか否か、取引の慣習上、一般公衆が同一の商品役務であると認めるか否か、といった観点に基づき判断する。また指定商品役務と使用商品役務が上位下位概念、包含関係、重複関係にある場合、使用商品役務は指定商品役務に含まれると認定することができる。」

そして例として、化粧品という上位概念の商品が指定されているが、実際の使用商品がパウダーファンデーション、アイシャドウといった下位概念の具体的なものである場合、それは指定商品(化粧品)の使用である、というものが挙げられている。

指定商品役務が積極表示のような具体的なものである場合には、当該具体的商品役務について使用されていることを要する、とも規定されている。

司法院の2019年決議

台湾司法院(台湾の最高司法機関)の2019年度「知的財産法律座談会」決議では、以下の見解が示されている。

「どの範囲まで指定商品役務の使用と認定するかに関し、使用商品役務と『同一性質』の商品役務に限るとするのが妥当である。『同一性質』について、台湾特許庁規定の類似群6桁が同一のものに属する商品役務については、原則として性質が同一であると認定することができる。具体的な判断については、商品役務の用途、機能、材料、製造方法又は実際の製造販売形態及び提供者等の客観事実を総合的に考慮する。ここで、商品役務の『類似』という概念を援用すると、使用商品役務の範囲を拡張し過ぎることになるため、適切ではない。」

つまり、使用商品役務と類似する商品役務の範囲まで広げるのではなく、あくまで『同一性質』を有する商品役務に限って、使用の事実を認めるとされている。なお司法院は直接案件の審理を行うことはないが、位置付けとしては最高司法機関であることから、司法院の見解は各裁判所(知的財産裁判所、最高行政裁判所、最高裁判所等)へ一定の影響力を持つ。

関連判例

今年下された最高行政裁判所の判決 においても、上記決議と同様の見解が採られている。この事件では「ドライフルーツ、ケーキ、パン、ビスケット、キャンディー」を指定商品とする商標に対し不使用取消審判が請求されたところ、権利者が実際に使用していた商品は「ケーキ」のみであった。ここでドライフルーツ以外の商品はいずれも同一の類似群(6桁)に属する。台湾特許庁での審理によって登録が取り消されたところ、知的財産裁判所の一審では、「ケーキ」における使用をもって、「ドライフルーツ、パン、ビスケット、キャンディー」における使用も認定して、登録を維持した。ところが、二審である最高行政裁判所は「ケーキ」と「ドライフルーツ、パン、ビスケット、キャンディー」とは『同一性質』の商品ではないと認定し、一審判決を破棄し知的財産裁判所へ差戻す判決を下した。

本件において最高行政裁判所は、不使用取消審判における権利者による使用と侵害場面における侵害者による使用との違いについて以下のように述べている。

「侵害者による使用において、同一商品役務に限らず類似する商品役務もその対象となる。これは、侵害行為から商標権者を漏れなく保護するという観点から、商標の権利範囲の拡張という形式を採らざるを得ないことに基づく。しかしもし不使用取消審判における権利者による使用においても、このような権利範囲の拡張という形式を採ることは、法定依拠に欠き適当ではない。」

つまり本件は、類似群を同じくする指定商品であっても、それらの一部の商品における使用は必ずしも同一類似群に属する他の指定商品の使用までも認められるわけではなく、両者の『性質』が同一か否かという観点から判断されることを示した事件である。

中国

指定商品役務について

中国では出願時の指定商品役務の審査はかなり厳格であり、「類似商品及び役務区分表」に規定の商品役務名称でなければ、補正通知を受けることが一般的である。したがって、指定できる商品役務名称の幅は比較的狭く、審査を経て実際に登録となった指定商品役務と、その後実際に使用する商品役務に差が生じる事態がよく見られる。権利者による使用の判断場面(不使用取消審判)において、指定商品役務と使用商品役務に差がある場合、一般的に台湾と比べて中国の認定は緩やかな傾向にある。即ち、使用商品役務の範囲は比較的拡張されることが多い。そして、実際の判断においては両者の物質属性、商業特性、社会通念及び「類似商品及び役務区分表」の規定等が総合的に考慮される

関連判例1

2017年の最高人民裁判所判決 において、「ある1つの指定商品において本件商標が使用されている場合、同一又は類似の商品においても使用されていると見なすことができる」という判断がされている。具体的には、本事件の指定商品は「ベビー服、水着、靴、運動靴、帽子、靴下、手袋(衣類)、ネクタイ」であったが、権利者から立証された事実は「運動靴」における使用のみであったところ、判決では「運動靴」における使用をもって、他の全ての指定商品における使用も認めた。つまり、ある指定商品における使用が類似する他の指定商品における使用まで拡張することを意味し、権利者の使用場面において指定商品役務をかなり拡大解釈したものと思われる。

関連判例2

2017年の別の最高人民裁判所判決 では、「容器入り飲料水」が「液体飲料」と同一商品に属するのか否かについての見解が示されている。判決では両商品を比較検討するに際し、物質属性において両者は同じ飲料用の液体に属する、本件の審理対象期間内に公布された《2007年国家飲料基準》において、「容器入り飲料水」は「飲料」タイプに分類されている、商業的特性及び社会通念からみれば、両者は市場販売ルートや消費対象において共通性を有する、《類似商品及び役務区分表》の分類により飲用水が飲料の一種であると示されている、という4つの観点から総合的に検討し、両者が同一商品に属し、「容器入り飲料水」の使用により、指定商品の「液体飲料」における使用を認定できる、と判断した。

弊所コメント

商標を出願する際は、実際に使用をしている又は使用を予定している商品役務を指定することが原則である。しかし、将来的に使用するかは未定だがもしかしたら使用するかもしれないという商品を含めるなど出願時の商品役務は幅広く指定されることが多く、また審査において指定商品役務名称の補正通知を受けないようにいわゆる規範名称を指定する、といった事情により、出願時に指定された商品役務と登録後において実際に商標が使用される商品役務とは、その範囲に差が生じることが往々にある。加えて中国のように指定商品役務の名称に柔軟性が認められない場合には、官庁の規定に沿うような名称を指定せざるを得ない。さらに、商標や商品役務の類否に関して特許庁に比べ裁判所は取引の実情や実際の消費態様等を重視するというような相違も見られる。

台湾では、今年8月に「登録商標使用の注意事項」の内容が改訂された。改訂前は指定商品役務の認定に関して、上述したような判断基準は特に規定されていなかったところ、今回の改訂により「使用商品役務と『相当する性質』又は『同一性質』を有するものについても、使用していると認定することができる」と規定されることとなった。これは司法院の決議内容に沿ったものと認められる。裁判所では具体的な取引の実情や市場の形態等をより重視する傾向にあるものの、その判断基準は台湾特許庁とそれほど大きな差異は見られないと思われる。また近年の判例を見ると、上で挙げた判例のみならず別の事件においても同様の見解を採るものが多く見られ、今後は確立した基準として形成されていくことが期待される。

一方中国については、一般的に指定商品の一部のものにおける使用に基づき、他の指定商品の使用も認める傾向がある。これは出願時における指定商品役務の記載要求が厳格であることに基づくと思われる。ただし、事件によっては使用商品役務と指定商品役務との関係性につき、様々な観点から詳細に比較検討した上で判断されることもあり、一概に中国は認定が緩いということもできないので注意が必要である。

 

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