台湾 「他人商標の意図的な模倣」(30条1項12号)の認定基準(SHACMAN事件)

Vol.60(2019年8月29日)

ドイツ自動車メーカー「曼卡車與公車股份有限公司(MAN Truck & Bus AG)」は、中国自動車メーカー「陝西重型汽車有限公司(Shaanxi Heavy Duty Automobile Co., Ltd.)」による商標登録に対して、自己の商標に類似する商標についての悪意の出願であるとして異議申立てを行った。台湾特許庁、訴願委員会及び知的財産裁判所いずれの審理においても、当該出願は悪意の商標出願であると認定され、登録は取り消された。商標出願が「悪意」であるという事実をどのように認定するかについて、現行の審査基準では明確に規定されていないが、本判決では悪意の認定に関する基準が示された。

事件経緯

陝西重型汽車有限公司(商標権者、原告、以下「陝西社」)は「SHACMAN」商標を台湾特許庁に出願し、2015年12月1日に登録された。その後、本件商標権に対して曼卡車與公車股份有限公司(異議申立人、参加人、以下「曼卡車社」)より異議申立てがされ、台湾特許は当該登録を取り消した。その後、訴願委員会及び知的財産裁判所も台湾特許庁の見解を維持する決定を下した。

係争商標と引用商標

  本件商標 引用商標
登録日 2015年12月1日 1993年3月1日
権利者 陝西重型汽車有限公司 曼卡車與公車股份有限公司
商標

指定商品 第12類
陸上の乗物;自動車;乗物用シャシー;自動車用エンジン;タイヤ;バスなど。
第82類(改正前)
トラック;バス;バス及び各その部品;乗り物用エンジン;ボート用エンジン。

知的財産裁判所の見解

両商標の類似程度について、全体又は要部の外観、称呼及び観念のいずれにおいても、隔離観察によれば通常の知識経験を有する消費者に両商標は同一又は類似商標であると連想させ、出所が同一である又は関連すると混同誤認を生じさせるおそれがあることから、両商標は相当に類似する商標といえる。

関連消費者の両商標に対する認知度について、曼卡車社が提出したカタログ、モーターショーのメディア報道記録、全国自動車コンテナ貨物運送業会員名簿等の証拠資料により、曼卡車社は引用商標を使用した大型バス、大型トラック及び関連部品等の商品を台湾で継続して販売している事実は十分に認められ、また我が国の関連業者及び消費者に普遍的に認知されている事実も認められる。

陝西社による出願が悪意か否かについて、曼卡車社が提出したメディア報道資料によれば、陝西社と曼卡車社の技術協力について報道発表した記事が複数あり、本件商標の登録前に両社の間には既に商業上の取引があったことが確認できる。つまり、陝西社は当時曼卡車社の引用商標の存在を知っていたと認めることができる。また、曼卡車社が提出したインターネット記事には、「陝西社がTGAシリーズの製品を発表したが、製品写真にあるように遠くから見ればそれは曼卡車社MAN TGAシリーズのモデルそのものである」と記載されており、これは即ち中国の関連消費者は陝西社が生産した商品を引用商標権者の商品と関連づけており、混同誤認が生じていたことがわかる。さらに陝西社の商品販売資料には「ドイツMAN技術による軍用車両の品質は安全で信頼できる」等の言葉が掲載されており、陝西社が台湾において引用商標の信用にただ乗りし商品の宣伝公告に利用しようとしていたことは明らかである。

以上より、陝西社による出願は関連消費者に商品の出所の混同誤認を引き起こすおそれがあることを明らかに知りながら、さらには関連消費者に商品の出所の混同誤認を引き起こさせる意図をもってされたものであり善意の出願ではない。

弊所コメント

台湾では、先行登録商標と類似するものは登録できないという要件に関して、台湾商標法第30条第1項第10号に規定されているが、その内容及び認定基準は日本のそれと少々異なる。商標法第30条第1項第10号では、「同一又は類似の商品又は役務について、他人が使用している登録商標、又は他人が先に出願した商標と同一又は類似のもので、関連する消費者に混同誤認を生じさせるおそれがあるもの」は登録できない、と規定されている。また同号の判断において考慮すべき要素して、審査基準には「(1)商標の類似程度、(2)指定商品役務の類似程度、(3)商標の識別力、(4)先行権利者の多角化経営の程度、(5)混同誤認が実際に生じたか否か、(6)関連消費者の両商標に対する認知度、(7)後願出願人による出願は善意か否か、(8)その他」の8項目が挙げられている。台湾特許庁における審査や裁判所における審理における商標法第30条第1項第10号の認定では、この8項目について検討されることになる。

このうち「(7)後願出願人による出願は善意か否か」(以下、「悪意の出願」)に関して審査基準では「関連消費者に混同誤認を生ずることを明らかに知っていた場合や混同誤認を生ずることを意図した出願が該当する」と掲載されているに過ぎず、判断基準について詳細な説明はされていない。

本判決は「悪意の出願」の認定について一定の基準を示したものであり参考に値する。即ち、「悪意の出願」につちえ判断する際には、両商標の知名度を参酌しなければならないことに加え、出願人が出願前に当該先行商標を知っていたか否か、先行商標の信用にただ乗りしたか又は意図的に混同誤認を生じさせたという実際の状況があるか否か等も詳細に検討しなければならないとした。また本件において裁判所は、従来に比べ上記8項目のうち「悪意の出願」を重視して認定を行っている点も参考にすべきである。今後も30条1項11号の判断において、この「悪意の出願」が重視される傾向が続くのか、注視する必要がある。

キーワード:商標 判決紹介 台湾 商標類否

 

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