台湾 著名商標の認定に関する最高裁判例(RAVAGLIOLI事件)

 
 

Vol.58(2019年6月5日)

   著名商標の保護に関し、台湾商標法第30 条第1 項第11 号前段において、商標が「他人の著名な商標又は標章と同一又は類似のもので、関連する公衆に混同誤認を生じさせるおそれがあるもの」である場合は登録することができない、と規定されている。
「著名商標」の認定判断については、これまでも実務において論争の的となることが多い。「最高行政裁判所107(2018)年度判字第446 号行政判決」においても、知的財産裁判所と最高行政裁判所の間でその判断が分かれ、商品の属する分野の認定、商品価格と著名性の関連性、完成品の著名程度が高ければ当該製品に付属する部品についても著名であると認めてよいか否か、という点のいずれにおいても、両裁判所は異なる見解を示したことから、本事件は注目を浴びている。

 

事件経緯

   日泉有限公司(商標権者)は、1993 年6 月30 日に「拉威RAVAGLIOLI 及び図」商標(以下、「係争商標」)について「ジャッキ」等を指定商品として出願し、1994 年2 月1 日に第00631275 号として登録された。しかし、RAVAGLIOLI S.p.A.(審判請求人)より、係争商標が、自己の先登録商標「RAVAGLIOLI」等4 件(以下、「引用諸商標」とする)と商標及び指定商品が同一又は類似であり、関連消費者に混同誤認を生じさせるおそれがあるとの理由で、無効審判が請求された。
   知的財産局及び経済部による審理の結果、引用諸商標は「著名商標」ではないと認定され無効審判請求は棄却された。その後請求人は知的財産裁判所に行政訴訟を提起しその結果、知的財産裁判所は引用諸商標が「著名商標」であるとする判断を下した。しかし、最高行政裁判所は、知的財産裁判所の判決はあまりにも軽率で関連審査基準を正確に適用していないとし、知的財産裁判所の原判決を破棄し、知的剤裁判所に差戻す判決を下した。
 

係争商標と引用諸商標

  係争商標 引用諸商標
登録日 1994年2月1日 (台湾では未出願)
権利者 日泉有限公司 RAVAGLIOLI S.p.A.
商標

指定商品 第7類
ジャッキ…等
第7類
自動車修理工場用空気ポンプ;自動車用ホイスト…等

 

各裁判所の見解

  知的財産裁判所 最高行政裁判所
商品の属する分野の判断 両商標の指定商品「自動車修理」関連商品は、大型自動車修理工場業者等のみ消費する可能性がある。よって、「特殊自動車製造又は機械修理の分野」が「著名」の認定基準となる。

(1) カタログ等の証拠資料から、引用諸商標の指定商品が「特殊」自動車製造又は機械修理の分野に属すると判断するには不十分である。

(2) 関連業界団体への書簡や関連商品分野の専門家による意見等の証拠を詳細に調査しなければならない。
商品価格及び商品の希少性と商標の著名性の関連性

(1) RAVAGLIOLI S.p.A の製造する商品は特殊自動車修理機械の分野であり高単価商品に属する。売上量や売上高が多くないからといってその著名性を否定してはならない。

(2) 著名商標は希少性に伴うことがある。商品の品質や特殊性により、数量が少ないが価格が高いものであるが、こうした品質や特殊性がまさに当該特殊分野の関連消費者に知られ著名となるのである。

(1) 商標権者が大量の資金、精力及び時間を投入し、商標が商品又は役務の出所をより示すようになり、著名商標に達したからこそ、当該著名商標に更なる保護を与えなればならない。

(2) 商品役務の価格又は希少性は、著名商標の形成と必然的関連性は有さない。商標権者による商標に対する大量の資金、精力及び時間の投入や宣伝があったか否かを、詳細に調査しなければならない。
完成品が著名であれば、付属する部品も著名であると認めてよいか否か RAVAGLIOLI S.p.A が提出した証拠により、ランボルギーニ等自動車(完成品)が著名であることが証明される。よって、特殊自動車修理の分野においても著名商標に属する。
(1) 完成品の商品が著名であったとしても、付属する部品商品又はバックエンド部品の商品も著名となるわけではない。
(2) RAVAGLIOLI S.p.A が指定商品において著名な完成品を提要していたことをもって、商標が著名に達したと認定してはならない。
   

弊所分析

   本判決において、最高行政裁判所は「著名商標の認定」について、知的財産裁判所が採用した曖昧な見解に対し、以下のような明確な指摘を行った。
  商品が属する分野の認定
  商標の著名程度の認定においては、指定商品が属する分野の消費者の認知により判断するため、商品がどの分野に属するのかは非常に重要となる。関連業界団体への書簡や関連商品分野の専門家による意見等の証拠を詳細に調査しなければならないとし、カタログ等資料のみを証拠として、当該商品がどの分野に属するかを判断してはならない。
  商品役務の価格又は希少性と商標の著名性の関連
  商品が高額で希少性を有していることのみをもって、商標の著名程度が高いと認定することはできず、商標権者による商標に対する大量の資金、精力及び時間の投入や宣伝があったか否かによらなければならない。また、関連する実際の使用証拠を詳細に調査し、上述の事実が存在するか否かを判断しなければならない。
  完成品と部品の著名性
  完成品の商品が著名であることと、付属する部品商品の著名程度は連動しない。完成品の商品が著名であれば、付属する部品商品又はバックエンドの部品商品も必然的に著名となるわけではない。
 
  本件最高行政裁判所判決が確立した基準は非常に注目すべきものである。商標の著名性認定において、商品価格が高額であるという主張はもはや有利な論点ではなくなった。今後は商標権者が大量の資金、精力及び時間を投入し当該商標の宣伝を行った点を、実際の使用証拠に基づき立証することが、著名商標認定に役立つことになる。
 
 

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