台湾商標 混同誤認の判断における商標併存事実に関する判例 (KSS事件)

 
 

Vol.56(2019年3月22日)

   商標の類似程度が高く、また指定商品についても同一又は高度に類似する二つの商標について、両商標が市場において併存している事実が関連消費者によって認識され混同誤認を生じさせないものであることを証明できれば、その商標は登録を取り消されないことになる。知的財産裁判所は「知的財産裁判所106(2017)年行商訴字第69 号民事判決」において、「商標併存事実の認定」に関する詳細な見解を示すとともに、台湾特許庁に比べ寛容な立場を採った。以下に紹介する。

事件経緯

   健和興端子股份有限公司(商標権者、原告)は、2014 年6 月6 日に「K.S」商標(以下、「係争商標」とする)を第9 類「電線管、電気コネクター、端子(電気用のもの)」等を指定商品として出願し、審査を経て第01701643 号商標として登録された。しかし、凱士企業股份有限公司(異議申立人、参加人)から、係争商標は自己の複数の先登録商標「KSS」以下、「引用諸商標」とする)と商標及び指定商品が同一又は類似であり、関連消費者に混同誤認を生じさせるおそれがあるとの理由で異議申立てがされたところ、台湾特許庁は係争商標の取消し決定を下した。庁の見解を維持し、訴願は棄却された。続いて商標権者は行政訴訟を提起したところ、知的財産裁判所は台湾特許庁と訴願委員会の認定を覆し、訴願委員会による取消決定及び台湾特許庁による原処分を取消す判決を下した。結果として、係争商標の指定商品「端子(電気用のもの)」についての登録は維持されることとなった。

係争商標と引用諸商標

  係争商標 引用商標
登録日 2015年4月16日 1997年2月16日等
権利者 健和興端子股份有限公司 凱士士企業股份有限公司
商標 The Subject Mark

The Subject Mark

 

    

     

 

指定商品 第9類
端子(電気用のもの)
第9類
配電盤、配線ダクト、端子等

 

台湾特許庁及び訴願会の見解

   台湾特許庁は原処分において、(1)引用諸商標は著名商標であると台湾特許庁から認定されてお(2)商標権者が提出した商品関連文書に記載された図には、係争商標が付されているのは端子関連商品の一部のみであるため、商標権者の収益及び売上金額において係争商標が付された商品が占める割合がどれほどか算定することはできないこと、(3)製品モデル番号や会社名等としての態様で係争商標が付されているが、これは商標としての使用にはあたらないこと等に基づき、係争商標が関連消費者に熟知されているとは認め難く、両商標が市場において長年併存してきたという事実を証明することはできないと判断した。

知的財産裁判所の見解

   知的財産裁判所は、商標権者が提出した資料である製品認証文書、展示写真、輸出申告書、新聞広告等のいずれもが、商標権者が1981 年から現在に至るまで係争商標を使用し続けてきたことを証明するに足る証拠となるとし、また、経済部統計の国内端子商品における販売総額によれば、2004年から2015 年の間、係争商標の端子商品は国内市場の7-10%を占めていることから、係争商標は長期の使用により設定登録日前に関連消費者に十分に熟知されていたと認識できる、と判断した。
   
   この他、両商標が「端子」関連商品において使用されていた期間は現在まで20~30 年を経過しており、商標権者と異議申立人の双方は長期に渡り同じ展示会に出展していたことや両商標が展示資料の同一頁に記されていたこと、加えて経済日報(新聞紙)において両者の広告が同時に掲載されるものも多数あったこと等を認定した。さらに、異議申立人も1992 年以前から、商標権者から係争商標が付された端子商品を継続して購入しており、両商標の市場における併存が長期に渡っていると認識できることから、関連消費者に両商標の出所が異なると区別させるには十分であり、混同誤認が生じる虞は無いと判断した。

弊所分析

   本判決において、商標併存事実の認定について、知的財産裁判所は台湾特許庁に比べ寛容な立場を採っていることが分かる。本件において台湾特許庁は、一部の証拠に関し商標としての使用には該当せず会社名称の使用に該当すると判断した。一方知的財産裁判所は、係争商標が長期的に使用され設定登録日前に一定の市場占有率を有していたことや両商標が市場において長期併存していた事実を認め、混同誤認の虞は無いと判断した。このように裁判所は「商標併存事実」の判断において、「商標の使用」に対し比較的寛容な見解を採っており、今後もこの傾向が続くのか、注意する必要がある。商標権者は関連市場、関連消費者の認知度を証明する各種商標使用証拠を適切に管しておくべきであり、これは商標併存事実の証明に有益である。
 
 
キーワード:商標 判決紹介 台湾 商標類否

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