台湾商標 商標権侵害に関する判例(TutorABC侵害事件)
Vol.51(2018年7月12日)
既存の単語は一定の条件の下、商標登録を受けることができる。しかし、商標権を行使する際、既存の単語に独占権があると無制限に主張できるわけではない。この点に関し、「知的財産裁判所105(2016)年民商訴字第9号民事判決」において裁判所は、商標の使用により関連消費者に生じる混同誤認の程度に重きを置いて判断し、商標権侵害を構成するか否かを認定しなければならないが、一部の文字が同一ということのみをもって後願の出願の悪意を主張してはならず、また意識的又は故意等の事実を認定してもならない、と商標権侵害の判断基準を示した。
【事件経緯】
原告・麥奇數位股份有限公司は、2006年8月4日に「TutorABC」、「TutorABC 及び図」及び「TutorABC」商標(以下、「原告商標」とする)を第35、41、42類等を指定役務として出願し、これら原告商標3件は2007年9月1日、2007年9月16日にそれぞれ登録となった。一方、被告・威爾斯美語股份有限公司は2012年8月20日に「Tutor Well 最好的線上家教網及圖」商標(以下、「被告商標」とする)を同一区分を指定役務として出願し、被告商標は2013年5月16日に登録となった。
原告は、被告商標が原告商標と類似し、関連消費者に混同誤認を生じさせるおそれがあること、また、被告は悪意を持って「Tutor」系列の商標を出願したことを主張し、被告を相手に民事訴訟を提起した。その結果、知的財産裁判所は原告勝訴の判決を下した。
原告商標 | 被告商標 | |
---|---|---|
登録日 | 2007年9月1日 2007年9月16日 |
2013年5月16日 |
権利者 | 麥奇數位股份有限公司 | 威爾斯美語股份有限公司 |
商標 | ||
指定商品役務 | 第35類 広告の企画・デザインの製作代理、広告及び広告物の配達等 第41類 書籍、雑誌及び文献等の出版、調査、予約及び翻訳等 第42類 書籍の編集等 |
第35類 広告企画、広告デザイン等 第41類 書籍、雑誌及び文献の編集、出版、調査、予約及び翻訳等 第42類 電子計算機のプログラムの設計・作成又は保守等 |
【知的財産裁判所の見解】
裁判所は侵害の判断に当たり、以下の6つの観点から検討を行っている。(1)両商標の識別力及び類似程度、(2)指定商品役務の類似程度、(3)原告は多角化経営を行っているか否か、(4)混同誤認が実際に生じたか否か、(5)関連消費者の両商標に対する認知度、(6)被告による商標の使用は善意か否か。
(4)混同誤認が実際に生じたか否かに関して、原告は、被告「TutorWell」が提供する役務を原告「TutorABC」によるものであると消費者が実際に誤認したことを示す確かな証拠を多数提出している。例えば、原告「TutorABC」が運営するフェイスブックページに、セールス電話の態度が悪いと苦情の書き込みがあったが、そのセールス電話を調査したところ実際は被告「TutorWell」によるものであった。また、被告はこの混同誤認の事実に関する反論も行わなかったことから、両商標は使用において確かに混同誤認を生じていたと認定する。
(5)関連消費者の両商標に対する認知度に関して、被告は、消費者がオンライン英語学習サービスの比較に関する資料をソーシャルメディアにて投稿・共有しているという資料を提出し、関連消費者は両商標を区別できることを証明しようとしたが、当該役務を必要とする関連消費者いずれもがウェブサイト上で各サービスの比較を行うとは限らず、関連消費者が被告商標を熟知していると推論することはできない。
(6)被告による商標の使用は善意か否かに関し、「Tutor」と被告の会社名は全く関連がないにも関わらず、「TutorWell」商標を使用するのは被告に盗用の悪意があると主張する。しかし、被告の会社名「威爾斯」と「Well」はある程度の関連があると認めるべきであり、また「Tutor」はもともとオンライン英会話学習サービスと関連がある文字であるため、被告がTutorとWellを組み合わせ新語としオンライン英会話学習サービスの商標として使用することは、正当合理的であると認められ、盗用の悪意があるとは認められない。
まとめると、原告商標と被告商標はいずれも中級の識別力を有するが、両商標の類似程度も中級であり、両者はオンライン英会話学習サービスの出所を示すものとして使用され、指定役務区分も同一である。また、関連消費者の原告商標に対する認知度は高いのに対し、被告商標に対する認知度には限りがあり、関連消費者は両者を確かに区別できるとは認定し難い。加えて、上述したように実際に混同誤認が生じた事実が多数あり、たとえ被告による「TutorWell」文字の選択に盗用悪意の意図があったとは認められないとしても、「TutorWell」の使用は関連消費者に混同誤認を生じる恐れが確かに存在することから、商標法第68条第3項の商標権侵害を構成する。
【弊所分析】
本件で原告勝訴となったポイントは、関連消費者が被告商標と原告商標を混同誤認していたという事実を証明する証拠を多数提出したことにある。一方、被告が提出した証拠では被告商標が関連消費者に広く熟知されていることを証明することができなかった。よって裁判所は、被告による商標の使用は消費者に混同誤認を生じており、被告による原告の商標権侵害を認定した。既存の単語を商標とする場合、「混同誤認が生じた事実」、「関連消費者の認知度」が侵害訴訟において重要な争点となる。