台湾 使用による識別力獲得に関する最高行政裁判所判例(双茶花事件)

Vol.19(2014年7月3日)

事件の概要

本件は使用による識別力獲得に関する事例である。Xは以下に示す本件商標を指定商品「茶葉、茶葉から製造される飲料」として出願し、審査では「ちゃか」文字についてディスクレーム(権利不要求)を声明し、かつ「双茶花」部分については使用による識別力を獲得したと認定された上で、登録となったものである。後にYは本件商標に対し「双茶花」部分は記述的文字でありまた使用による識別力も獲得していないという理由で異議申立を行った。この異議申立では、台湾特許庁は本件商標の「双茶花」部分は使用による識別力を獲得したと認定したが、後の訴願審議委員会、知的財産裁判所及び最高行政裁判所のいずれも、台湾特許庁とは異なる判断(使用による識別力は獲得していない)を下している(知的財産裁判所2012年行商訴字第159号、最高行政裁判所2013年判字第477号)。

本件商標と、商標権者による実際の使用態様を以下に示す。

本件商標 実際の使用態様

台湾特許庁の見解

本件商標が付された商品である緑茶等飲料のブランド「御茶園」は2001年から展開され、それ以降多くのメディアや雑誌等で「御茶園」ブランドの飲料が紹介されており、ある雑誌が行った調査によれば2006年から2009年の間には台湾の消費者が選ぶ飲料ブランドの第2位となっている。そして商標権者Xは2009年から本件商標に係る商品「御茶園双茶花」の販売を開始し、ボトルには「御茶園」が付されている他、ボトルの中央には目立つような態様で本件商標が付されている。本件ボトル下部には「緑茶」という文字が付されているが、本件商標とは明らかに区別できる態様となっている。これより消費者は「双茶花」が「御茶園」から新たに出された系列ブランドであると認識でき、出所を示す標識としても認識する。

また商標権者から提出された資料によれば、2009年から2010年の間に巨額な費用をテレビや雑誌などの広告宣伝費に投じていることが認められ、調査会社による消費者調査においてもボトル茶飲料において最も好印象な商品として、本件の「御茶園双茶花」は第3位となっている。よって本件商標は使用による識別力を獲得したと認められる。

知的財産裁判所湾の見

知的財産裁判所の見解について、「双茶花」は記述的であるか、及び使用による識別力を獲得したかという2点に分けて紹介する。

「双茶花」は茶関連商品において記述的か

Xは自然界には「双茶花」というものは存在せず、これは原告による造語であり、茶系の指定商品においては暗示的商標であり記述的ではないと主張する。ここで本件商標の文字「双茶花」についてみるに、これは二倍の茶花という意味を有し、茶花とは茶系飲料に添加される成分であることから、「双茶花」は茶系の指定商品においては成分に二倍の茶花が含まれるという説明、つまり商品成分の説明である。つまり本件商標は、消費者が想像を働かることや連想、推理を要すことで指定商品との関連を理解する暗示的商標ではなく、指定商品の性質や成分を示す記述的商標であると認められる。

またXの実際の使用態様に関し、ボトルの左側に「2倍茶花使用」と記されていることから、消費者は本件商標「双茶花」とこの「2倍茶花使用」とを結びつけることで、本件商標「双茶花」は「二倍の茶花」を指す、つまり「双茶花」は「御茶園」ブランドにおいて茶花成分が2倍の飲料であると認識することから、本件商標「双茶花」は出所を示す標識として機能していない。

使用による識別力獲得について

Xが提出した資料からは、Xが「御茶園」商標を付し、「御茶園」ブランドの商品を販売した事実は認めらられる。一部証拠においては「双茶花」が使用されてはいるが、証拠の内容において「茶花+茶花子、雙料更有效」「茶花+茶花子、雙料伺候」という点が強調されている。よって消費者は「双茶花」は「御茶園」商標が付された茶系飲料であり、その成分は二倍の茶花を含むと認識するに過ぎず、「双茶花」が商品の出所を示す標識であるとは認識しない。これより本件商標は長期広範にわたる使用により、茶系商品において識別力を獲得したとは認められない。

弊所コメント

本件の争点は「双茶花」という語が茶系商品において記述的であるかという点と、使用による識別力を獲得したかという点の2つである。前者に関し、台湾では従来から記述的と認定されやすい傾向が続いており、日本ではストレートで登録となるような商標も台湾では記述的と認定される事例が多数みられる。本件も「双茶花」という語が具体的な成分内容の説明であると認識させるか否かは微妙であると思われる。「双」という字は台湾で使用される繁体字でなく、仮に「双倍茶花」であれば茶花が二倍であるという直接的な説明であるという認定は理解できるが、「双茶花」の場合、必ずしも茶系商品の説明文字であるとは言えないと考えられる。ただ実際には台湾特許庁や裁判所は商品役務の直接的な説明でなく間接的な説明であっても、記述的であると認定する傾向には注意する必要がある。

キーワード:商標 判決紹介 台湾 識別力

 

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