台湾 包袋禁反言(出願経過参酌)に関する判例(改良型信号灯事件)

Vol.22(2014年11月3日)

本件は包袋禁反言(審査経過参酌)に関する判断が示された事件である。本件が適用される2004年当時の専利侵害鑑定要点には禁反言に関し、「特許権者が出願から権利維持過程において放棄又は排除した事項について、禁反言を適用する。」「特許権者が行った補充、補正、訂正が特許性と関連がある場合は禁反言を適用し、特許性と関連がない場合は禁反言を適用しない」と規定されている。ここで、「特許性と関連がある」とは何を指すのか、新規性や進歩性に限り記載要件は含まれないのかといった点については明確に規定されていないため、裁判所は各事例において異なる判断をすることが見られている。本件において裁判所は、禁反言の適用は特許権者が行った補充、補正、訂正が特許性と関連があり且つ特許請求の範囲が減縮された場合に限り、新規性や進歩性のみならず記載要件違反を克服するために行った補正等も特許性と関連があると認める、という見解が示されている。

事件の概要

「改良型信号灯」の登録実用新案を有するX(原告)は、「三色LED手提げ信号灯」を製造販売するY(被告)に対し、侵害行為の差止め及び損害賠償を請求した。一審判決では被告Yが製造販売する製品のうち2件のみがXの実用新案権を侵害すると判断したため(2010年度民専訴字第196号)、原告Xは一審判決を不服として、控訴した。本件はこの二審判決である(2011年度民専上字第53号判決)。二審判決では一審判決と同様の結論ではあるが、禁反言の適用について一審判決とは異なる見解が示されている。

本件考案の内容及び被疑侵害品との比較

被告Yは本件一審審理中にXの本件実用新案に対し無効審判を請求した。無効審判の審理中に原告Xは、請求項2の内容で請求項1を限定する訂正を行っている。訂正前及び訂正後の内容は以下の通りである。

請求項 訂正前 訂正後
1 ・・・・・・前記制御回路には第一電圧スイッチ及び第二電圧スイッチが設けられ、前記第一電圧スイッチは緑光LED組と電池の間に設けられ、前記第二電圧スイッチは白光LED組と電池の間に設けられる事を特徴とする、改良型信号灯。 ・・・・・・前記制御回路にはトランジスタ及びもう一つのトランジスタが設けられ、前記トランジスタは緑光LED組と電池の間に設けられ、前記もう一つのトランジスタは白光LED組と電池の間に設けられる事を特徴とする、改良型信号灯。
2 前記第一電圧スイッチ及び前記第二電圧スイッチはトランジスタであってもよい、請求項1に記載の改良型信号灯。 -

本件考案の内容と被疑侵害品との相違点は主に以下の2点である。本件考案と被疑侵害品とでは以下の特徴G及びHが相違するが被疑侵害品は本件考案の均等範囲に属するという点に関し、原告被告の双方はいずれも争っていない。しかし、被告は特徴Hについては禁反言が適用されることから均等侵害は構成しないと主張した。

特徴 本件考案 被疑侵害品
G 管体の外側表面上にLED組を制御できる複数個のボタンが間隔をあけて設けられており、前記ボタンは赤光を制御する赤スイッチ、緑光を制御する緑スイッチ、白光を制御する白スイッチであり、それぞれのボタンは制御回路と電気連結されている 管体の外側表面上にLED組を制御できる3個のボタンが間隔をあけて設けられており、前記ボタンは赤光を制御する赤スイッチ、緑光を制御する緑スイッチ、白光を制御する灰色スイッチであり、それぞれのボタンは制御回路と電気連結されている
H 回路制御にはトランジスタ及びもう一つのトランジスタが設けられ、前記トランジスタは緑光LED組と電池の間に設けられ、前記もう一つのトランジスタは白光LED組と電池の間に設けられる 回路制御には第一電圧スイッチ及び第二電圧スイッチが設けられ、前記第一電圧スイッチは緑光LED組と電池の間に設けられ、前記第二電圧スイッチは白光LED組と電池の間に設けられる

知的財産裁判所(二審)の見解

禁反言の意義及び要件について

特許は公告制度の公示性を通じ公衆に特許権の範囲を知らしめることを要するものであり、出願から権利保護過程において行われた補充、補正、訂正、意見書及び答弁書提出による限定又は排除が特許性と関連があり且つクレームの減縮であるならば、公衆への信頼感が生まれるため、信義誠実の原則により特許権者は特許侵害訴訟において均等論適用という名目により既に放棄した部分を再度主張することは許されない。よって、「禁反言」は均等論の阻却事由である。

禁反言原則の適用は、権利者が行った補充、補正、訂正、意見書及び答弁書提出等が特許性と関連があり且つクレームの減縮である場合に限る。特許性と関連があるという点に関し、これには先行技術を克服するもの及び特許査定に関するその他の要件(実施可能要件、記載要件等)が含まれ、その認定は権利者による補充、補正、訂正、意見書及び答弁書提出等で説明した理由に基づき、特許性と関連があるか否かを具体的に判断する。その理由の説明が不明確な場合は、特許性と関連があると推定し、特許性とは関連がないと権利者が証明した場合には、禁反言は適用しない。また、権利者による補充、補正、訂正、意見書及び答弁書提出が特許性と関連があったとしても、特許請求の範囲の減縮ではない場合も、禁反言は適用しない。

また、特許権の均等範囲を完全に保護しつつ権利者が放棄した範囲が不合理に判定されることを防止するために、禁反言の阻却範囲は権利者が限定又は排除した部分に限られる。ここで、限定や排除がされていない均等範囲についての有利な事実(補充、補正、訂正、意見書及び答弁書提出等を行った当時においては予測不可能である均等範囲《例えば新興技術》や、補充、補正、訂正、意見書及び答弁書提出等の理由と均等範囲の関連性が相当低い、権利者が当時該当均等範囲を記載することに合理的期待ができない)については、権利者が立証責任を負う。

Xによる訂正について

原告Xが訂正を行った際には、訂正申請書、訂正の対象となる明細書及び実用新案登録請求の範囲が記載された書類のみが提出されており、訂正の理由については提出されていない。しかし、Yによる無効審判請求書において、訂正前請求項1の電圧スイッチという特徴及び訂正前請求項2のトランジスタという特徴は先行技術で開示されていると指摘されている。原告Xは後に答弁を提出したうえで、訂正を行っている。このことから、原告Xは先行技術を克服し進歩性欠如と認定されないように訂正を行ったことは明らかである。

「実用新案技術評価書を請求を行った後に、台湾特許庁から『請求項1と請求項2には重複する内容があるため、請求項2で請求項1を限定してほしい。』という通知が来た。本件の訂正は台湾特許庁によるこの通知を受けてしたものであり、実用新案登録請求の範囲をより明確にして実施例と一致させるために行ったに過ぎない。よってこの訂正は特許性とは関連がないものである。」と原告Xは主張する。

しかし、「実用新案登録請求の範囲をより明確にして実施例と一致させる」という点も特許要件に属するものであるから、当該訂正は特許性と関連があり、さらに実用新案登録請求の範囲の減縮に該当するものである。また訂正により電圧スイッチをトランジスタへと限定しており、これは権利範囲の減縮である。また本件明細書には「第一電圧スイッチ361、第二電圧スイッチ362はトランジスタであってよい。」と記載されていることから、電圧スイッチとトランジスタは上位下位概念の関係にあることがわかる。よって原告Xの主張は認められない。

原告Xによる均等論の主張について

原告Xは訂正によって「電圧スイッチ」(上位概念)を「トランジスタ」(下位概念)へと限定していることから、「トランジスタ」以外の他の「電圧スイッチ」を排除している。被疑侵害品は「緑ボタンスイッチ」(第一スイッチ)及び「灰色ボタンスイッチ」(第二スイッチ)等の「電圧スイッチ」を使用し、緑及び灰色のスイッチの押下動作によりスイッチをオン又はオフにさせて、緑光及び白光LED組と電池の間の回路をオープン又はクローズさせるものであり、「トランジスタ」を使用して緑及び灰色のスイッチの押下動作によりトランジスタに圧力低下(0.7ボルト)を発生させ、緑光及び白光LED組と電池の間の回路をオープン又はクローズさせるものではない。原告Xは「トランジスタ」以外の他の「電圧スイッチ」を排除しているのだから、禁反言原則に基づき放棄した部分を再度主張するということは許されない。

弊所コメント

本件が適用される専利侵害鑑定要点では、禁反言に関して特許性と関連がある権利範囲の減縮を対象とすると規定されているが、「特許性と関連がある」という点については具体的な規定がされておらず、その解釈が問題とされている。本件では「特許性と関連がある」とは特許要件と関連があるもの、即ち新規性、進歩性に加え明細書等の記載要件も含まれると判断している。

また判旨では禁反言の主張が制限される事情として、3つの事情(均等物は出願時に予見できなかった、均等物と無関係、均等物を記載することに合理的期待ができない)を挙げており、またこの3つの事情は権利者が立証責任を負うとしている。ここで挙げられた3つの事情は米国のFestoo最高裁判決で示された均等論の推定を覆す反証と実質的に同一と思われ、本件ではフレキシブルバーの原則が採用されている。なお本件は後に最高裁判所へ上告されているが、その請求は棄却され本件は確定している(最高裁判所2013年度台上字第2165号)。

台湾では2016年に従来の専利侵害鑑定要点が改訂され、名称も「専利侵害判断要点」へと変更されている。改定後の「専利侵害判断要点」では禁反言においては、補正や訂正等が特許性(記載要件等も含む)と関連があり且つ権利範囲の減縮に該当する場合に限り禁反言が適用されると規定されている。さらに上述した米国のFestoo最高裁判決で示された均等論の推定を覆す3つの反証も明文規定されている。

キーワード:特許 判決紹介  台湾 機械 侵害

 

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