台湾 クレーム解釈に関する判例(微型混合器事件)

Vol.23(2014年12月19日)

【事件経緯】

係争専利は「微型混合器」発明特許である。出願人(原告)である「国立成功大学(以下、「成功大学」)は知的財産局へ発明特許出願を行ったが、進歩性を有しないと認定され、拒絶査定された。「成功大学」は経済部訴願会へ訴願を提起するも棄却されたため、知的財産裁判所へ行政訴訟を提起した。知的財産裁判所は請求項3及び請求項4(請求項4は請求項3の従属項)に関しては進歩性を有すると判断したため、全てについて拒絶という知的財産局による処分及び訴願会による決定を覆し、「成功大学」勝訴の判決を下した((2013年)102年度行専訴字第66号判決)。

 

 

【係争専利の技術内容】

係争専利は微型混合器であり、請求項は計13項、そのうち請求項1は独立項でありその他は従属項である。請求項3、請求項4は第二実施例(2)を要約したものである。

係争専利は、簡単な菱形流路と邪魔板の設計を利用し、流体が通るときに複数個の渦流を発生させることで、非常に良い混合効果を有し、低レイノルズ数下で良好な混合効果を奏する微型混合器を提供することを目的とする。

 

【知的財産局による拒絶査定の意見】

知的財産局は、引例1、引例2を組み合わせることで係争専利の請求項1~請求項13は進歩性を有しないと証明できると認定した。

 

【引例1】は台湾第89210648号「多液混合インジェクションガンの混合構造」実用新案であり、主要な図面を以下に示す。

【引例2】は台湾第93139866号「微型混合器」発明特許であり、主要な図面を以下に示す。

知的財産局が拒絶査定を下した理由は以下の通りである。

 

  1. 引例1の「窪み混合槽」は係争専利の「菱形流路」に相当する。流路は流体に流動性を提供するために能動型又は受動型の混合器に使用される。技術分野に属する通常知識を有する者にとって、これは公知技術である。よって引例1は係争専利の菱形流路の構造を開示している。
  2. 引例2の明細書において開示されている「邪魔板は流体に渦流を発生させ混合効果を有する」という点は、係争専利の「邪魔板」に相当する。「第一邪魔板は大部分の流体を第二菱形流動の左隅部へと引導し、第二邪魔板は大部分の流体を第三菱形流動の右隅部へと引導し、右隅部、左隅部の流量は小さい」という係争専利の明細書記載に依れば、係争専利の「邪魔板」も流路の交差部に設けられることがわかる。つまり、引例2の微型混合器は菱形流路に関する構造については開示していないが、引例2では邪魔板、主流路、次流路等技術特徴について説明されている。よって係争専利の請求項1から請求項13は、当業者が引例1及び引例2を基に容易に完成することができるものであり、進歩性を有しない。

 

【知的財産裁判所見解】

知的財産裁判所は引例1と引例2を組み合わせたとしても、係争専利の請求項3、請求項4は進歩性を有しないとは証明し難いと認定した。その理由は以下の通りである。

 

  1. 係争専利の請求項3、請求項4は発明の効果について記載されていないが、請求項で限定された構造の特徴は、明細書の該当請求項の説明部分に記載されている内容に対応する発明の効果を当然に有する。

 

係争専利の請求項3、請求項4はレイノルズ数及び関連効果についての記載がないが、請求項3、請求項4は第二実施例(明細書14ページ)を要約したものであり、且つ知的財産局の審査では専利法第26条(記載不備、実施可能要件)に違反していないと認定された事実がある。係争専利の請求項3が限定する構造特徴は、明細書14ページの請求項3、請求項4及び第二実施例の説明部分に記載されている内容に対応する発明の効果を当然に有する。

 

  1. 引例1、引例2の組合せは係争専利の請求項3、請求項4で奏される効果を開示していない。

係争専利の明細書第14ページの「本発明第二実施例の微型混合器を利用し混合した時の平面図である図4を参照すれば、そのレイノルズ数は10である。本発明第二実施例の微型混合器を利用し混合した時の平面図である図5を参照すれば、そのレイノルズ数は20である。図4及び図5において、前記主入口41には黒色液体を注入し、この黒色液体はインクと水が混合されたものであり、その比率は約120である。前記側入口42には透明の液体を注入し、この透明の液体は水である。前記出口45は混合後の液体を流出する。4からわかるように、レイノルズ数が10のときに混合効果は大幅に上昇する。図5からわかるように、レイノルズ数が20のとき、流体は良好な混合効果を有するようになる。という記載より、係争専利の第二実施例は、レイノルズ数が10のときに混合効果が大幅に改善し、レイノルズ数が20に上昇したときに流体は良好な混合効果を有するようになることを開示している。つまり、係争専利請求項3が菱形流路の数を三個と限定した場合、上述の効果が得られることになる。但し、引例1はレイノルズ数と混合高価の記載が全くなく、引例2明細書第7ページで「レイノルズ数が低いときは混合効果が比較的良くなる」と記載されているのみであり、引例1、引例2は組み合わされたときに、レイノルズ数が1020の場合に混合効果が生じることは開示していないため、この効果は予期できないものであると認定すべきである。係争専利の請求項3、請求項4は容易に完成できるものではなく、引例1、引例2を組合せにより請求項3、請求項4は進歩性を有しないことを証明することはできない。

 

 

【本所分析及び戦略提案】

 

台湾専利法第58条第4項は「発明特許権の範囲は、特許請求の範囲を基準とし、特許請求の範囲の解釈時には明細書及び図面を参酌することができる。」と規定する。実務上特許請求の範囲の解釈において明細書及び図面の記載を参酌することができるか否かについて、長年にわたり論争されてきた。本件では、裁判官が進歩性の判断において以下のように述べている。発明の認定は特許請求の範囲を基準とするが、進歩性判断では発明全体を対象としつつ、該発明を理解するため明細書、特許請求の範囲、図面及び出願時の通常知識を参酌することができる。よって、係争専利の請求項3、請求項4の解釈において請求項に発明の効果が記載されていないことを理由として、該効果は進歩性審査で考慮すべき内容ではないと認定してはならない。また、進歩性審査において請求項に記載されている技術手段、解決しようとする課題及び達成される効果を考慮することは、「読み入れ禁止原則(明細書の記載を請求項へ読みいれることを禁止)」と関係はない。

近頃、台湾知的財産裁判所は特許請求の解釈において、明細書及び図面の内容を解釈依拠とする傾向が良く見られる。以前は、無効審判請求人は特許請求の範囲のみを解釈の依拠とする論点を提出し、明細書で記載される効果を有しないため進歩性を否定するという主張をすることがよくあった。しかし、今回の実務見解の変更という流れを受けて、無効審判請求人は上記のような論点を提出する場合、慎重に考慮しなければならない仮に専利法第26条(記載要件、実施可能要件)に違反すると予め主張できるのであれば、裁判所が明細書の内容を請求項に読み入れる可能性を排除できる可能性がある

 

参考1係争専利

1:第一実施例の参考図

2:第二実施例の参考図

3:第二実施例において、邪魔板の作用により発生する渦流の分布図

 

参考2引例1

2:立体分解図

3:混合桿表面展開図

4:別の実施例における混合桿表面展開図

 

参考3引例2

1:第一実施例の参考図

2:混合流体が邪魔板の作用により発生する渦流の分布図

4:第二実施例の参考図

购物车

登入

登入成功