台湾 立体商標の識別力に関する判例(VANS立体商標事件)

Vol.24(2015年3月13日)

事件の概要

スニーカーで著名なVans(以下「原告」とする)は2009年、第25類「ブーツ、靴」を指定商品とする「Checkerboard-Pattern Shoe(3D)」立体商標(以下の図の商標)を出願したところ、識別力を有さないとして拒絶査定が下された。本件はこの審決取り消し訴訟である。最終的に知的財産裁判所は拒絶査定維持という判決を下した(知的財産裁判所2014年行商訴第87号)。

本件の争点は、本件立体商標は識別力又は使用による識別力を有するか、である。

知的財産裁判所の見解

識別力について

係争商標図を調べると(原告は2012年年7月17日、「本商標は靴の表面及び靴後方の何れにも将棋盤のようなチェック柄が印された靴より構成されている。靴の点線部分は本商標の一部分には含まない。」と補正説明を行っている。)、白色と黒色が交互に並ぶ将棋盤のようなチェック柄より構成されている。この簡単で基本的な幾何図形は「ブーツ、靴」を指定商品とした場合、一般的社会通念上、装飾図という意味を有し、白黒二色が交互に並んだ簡単なチェック図という印象を消費者に与える。商標図全体を観察すれば、人に与える認知は靴の上に花柄が装飾された図というものである。加えて、同業者が靴類商品に各種線、幾何、チェックの図を外観のデザインとして用いる、又はその他日用品等商品に装飾性幾何図を用いることは度々行われており、一般的に消費者の注意を引き起こし難い。たとえ消費者の注意を引き起こしたとしても、それが商品又は役務の出所をを指示及び識別する標章と認識することは通常ないため、識別性を有せず、商標権範囲に疑義が生じる虞がある。つまり本件の図は、上記商品の関連消費者が商品を表彰する標章と認識し他人の商品又は役務と識別できるものであると認識するに足りない。よって、本件商標は識別性を有せず、現行商標法第29条第1項第3号で規定する不登録事由を有する。

係争商標は特殊なデザインが施された創作性商標であると原告は主張するが、係争商標の図は単純な黒色、白色が交互に並ぶ将棋盤のようなチェックの幾何図であり、関連消費者に与える印象は装飾図という認知にとどまる。これを「ブーツ、靴」という商品に使用することは、靴製造同業者が慣用的に用いるデザイン方法であり、その黒色、白色が交互に並ぶ幾何図は消費者の注意を引き起こすことは困難である。たとえ消費者が当該幾何図の存在に注意を引いたとしても、当該幾何図は靴の装飾に用いられていると認識し、それが商品又は役務の出所を指示及び識別する標識であるとは認識しないため、当然に創作性標識ではない。

使用による識別力について

原告が提出した製品目録及びアメリカのウェブサイト、日本のウェブサイト、アメリカニューヨークのファッション界のファッションショーの写真、動画、雑誌等これらの全てに係争商標図が見受けられる。しかし、これらは外国のウェブサイト、写真、雑誌、目録又は原告のオフィシャルサイトの資料であり、台湾において使用されている証拠ではない。さらに、原告はこれらの資料は我が国国民が容易に、広範囲、大量に接触することができる資料であることを立証していないため、係争商標は取引上商品の出所を表彰する識別標識であると国内消費者が認知しているものであるとは認定し難い。

本係争商標の靴は台湾の販売拠点において、簡単な白黒二色のチェック又は赤白二色が交互に並ぶ将棋盤のようなチェックの図に外国文字が併記されたものより構成組み合わさったであるが、全体的な使用方法が消費者に与える印象は、将棋盤のようなチェックについては装飾又は飾り付けの図に過ぎず、当該外国文字こそが商品の出所を示す標章である、というものである。つまり係争商標全体の使用方法は将棋盤のようなチェック図が特定の出所を示すものではない商標使用態様であり、関連消費者は係争商標を商標とは見なさない。

原告は、係争商標は黒色(カラーではない)ので出願されており、色の限定はされていない、原告が提出した色が異なる係争商標図を付した商品も商標同一性を有し、係争商標が実際に使用態様に属すると認められるべきである、また、係争商標はアメリカ、日本、ニュージーランド、韓国等の国において既に登録されており、我が国においても登録されない理由はない、と主張する。しかし、商標の保護に対し各国はて属地主義を採用しており、商標は登録された国のみで効力を有し、他国において登録された商標が当然に我が国で登録されるわけではない。各国の事情はそれぞれ異なり、商標法制度及び審査基準にも相違点を有するため、出願人が他国で並存登録された商標を本係争商標登録の有利な論拠として用いることに依拠がないことは明らかである。

弊所コメント

立体商標が登録されるためには、その他の商標と同様、当該立体商標が商品又は役務の出所を十分に示し、消費者が他人の商品又は役務と識別できなければならない。伝統的な平面商標に比べ、立体的形状が識別性を有するようになるのは容易でなはい。特にその立体的形状が商品そのものの形状又は商品包装容器の形状である場合、それは商品と密接又は緊密な関係があり商品の機能を提供するための形状又は装飾性を有する設計であると見なされる可能性が高い。

立体商標の識別力を判断する際には、消費者の認知を考慮するだけでなく、商品の特性をも考慮する必要がある。例えば靴商品、衣服商品等のように、多様化した設計が慣用的に用いられる場合、消費者は通常それを装飾性のデザインと見なし、出所を識別する標章とは見なさない。加えて、業界における使用状況も重要な考慮要素である。当該立体的形状が関連業者間で一般的に採用されるものである場合、当該立体的形状は出所を識別する機能がなく、識別性を有しないと認定されやすい。

次に使用による識別力に関し、参酌すべき要素として次のものが審査基準に挙げられている。(1)商標の使用方法、使用期間及び同業者による使用状況(2)販売量、営業額、市場占拠率(3)広告量、広告費用、販売促進活動の資料(4)販売地域、市場分布、販売拠点又は展覧会等陳列場所の範囲(5)各国における登録の証明(6)市場調査報告(7)その他使用による識別性を有すると認めうる証拠。

立体商標をデザインする際、商品そのものの形状又は商品包装容器の形状を避け、同業者が一般的に使用するものとは異なる独創性を有するものを選択すべきである。また、台湾において長期に渡り商標を使用し証拠を確立することも重要である。

キーワード:特許 判決紹介 台湾 識別力

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