台湾 英字商標の類否判断に関する判例(A star Bones事件)
Vol.49(2018年5月10日)
文字商標をデザインする際、商品又は役務と高度に関連する文字を用いて自身で創作する又はその他の意味が含まれる文字を組み合わせて一つの文字商標とすることがよく見られる。しかし、商品又は役務と高度に関連する文字を商標の一部とした場合、先に出願又は登録された商標と同一又は類似するいう状況が生じる可能性がある。このような場合、商標を既に長期に渡り使用した結果、消費者に熟知され、消費者が各商標を明確に区別できる証拠を提出することで、登録されることがある。「知的財産裁判所105(2016)年行商訴字第143号行政判決」では、商標の類似及び使用証拠の判断について、見解が示された。
【事件経緯】
台湾愛邦仕実業有限会社は2013年8月14日に「A star Bones及び図」商標(以下、「係争商標」とする)を第31類の「トウモロコシ粉;飼料用魚粉;畜舎での肥育に用いる飼料;家禽用飼料;家畜用飼料;家畜用飼料;飼料用粉ミルク;犬用飼料;猫用飼料;飼料;ペットフード」等を指定商品として出願し、2014年4月16日に登録された。しかし、米国企業・天然聚合物國際股份有限公司(NATURAL POLYMER INTERNATIONAL CORPORATION)から、係争商標と自社先行登録商標「N-Bone」(以下、「引用商標」とする)は同一又は類似であり指定商品も類似するため、関連消費者に混同誤認を生じさせるおそれがあるとして、無効審判が請求された。知的財産局による審理の結果、無効審決が下され、係争商標の登録は取り消された。係争商標出願人はこれを不服とし訴願を提起したが、経済部はこれを棄却した。その後、係争商標出願人は行政訴訟を提起するも、知的財産裁判所は原告の訴えを棄却した。
係争商標 | 引用商標 | |
---|---|---|
登録日 | 2014年4月16日 | 2014年1月16日 |
権利者 | 台湾愛邦仕実業有限公司 | 米国企業・天然聚合物國際股份有限公司(NATURAL POLYMER INTERNATIONAL CORPORATION) |
商標 | ![]() |
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指定商品役務 | トウモロコシ粉;飼料用魚粉;畜舎での肥育に用いる飼料;家禽用飼料;家畜用飼料;飼料用粉ミルク;犬用飼料;猫用飼料;飼料;ペットフード等。 | 飼料;犬用ビスケット;畜舎での肥育に用いる飼料;ペットフード;動物用噛み餌;キャットフード;犬用飼料。 |
【知的財産裁判所の見解】
- 原告は、「Bone」という文字について、これは骨という意味で、動物用噛み餌の形等の特性を説明するための文字として業界で多用されており、独創性は有さず、識別力も極めて弱いため、両商標が類似するか否かの主な判断材料にしてはならないと主張する。しかし、両商標が類似するか否かは、商標全体で観察すべきで、各部分に分離して観察するのではない。さらに、両商標はいずれも動物用噛み餌等を指定商品としていることから、関連消費者が関連商品を購入する際、「Bone」が表す意味に自然と注意が払われる。この事情を無視して「A ★ star」、「N-」のみを取り出し、両商標が類似するか否かを論断することはできない。
- 係争商標の「★star」には商品又は役務が優良という意味を有し、原告もこの暗示的意義については否定していない。「A」、「★star」のいずれに関わらず、係争商標と「Bones」との関連性を断つことはできない。係争商標と引用商標の頭文字は「A」、「N」で相違するとしても、両者の称呼は [e]、 [εn]で類似し、関連消費者に係争商標と引用商標がライセンス関係にある、又は同一の商標権者のシリーズ商標であるという印象を生じさせやすい。よって、両商標は類似すると認定しなければならない。
- 係争商標の「A ★star」自身には商品の品質が優良であるという意味を有するが、「Bones」と結びつくことで、Aクラスの「Bones」の意味を連想することができる。引用商標にある「N ─」と「Bone」が結合された結果、これは完全に独自に創作された言葉である。よって、引用商標は強い識別力を有する。
- 原告は審理中に商品カタログ及び出荷表等の資料を提出したが、商品の外観に係争商標が使用されているものの、商品カタログの毎頁右上には「v 2016-2」の文字が記されている。原告はその他の商品カタログを提出していないが、2016年2月から係争商標を使用し始めた可能性がある。これは、経済部知的財産局による無効審決の時期(2016年3月31日)と非常に近く、関連消費者がこの短い期間内で係争商標を熟知するとは認め難い。
【弊所分析】
二文字の商標が類似する場合、出願人は通常、それぞれが表す意味、称呼の相違を主張するが、このような主張は必ずしも知的財産局又は裁判所から認められるとは限らない。
台湾の「混同誤認のおそれ審査基準」の規定によれば、「外国文字の商標において、その文字の意味が我が国国民に普遍的に熟知されていない場合、文字の称呼及び外観の比較を重視すべきである」、また「アルファベットの外国文字において、先頭のアルファベットは外観と称呼において、全体の文字に比べ、消費者に与える印象に極めて大きな影響を与え、類似判断における比準は重くなる」(「混同誤認のおそれ審査基準」第8頁~第9頁参照)となる。これにより、アルファベット商標の類似判断において「文字の称呼」及び「外観の比較」に重点が置かれていることが分かる。
本件係争商標と引用商標の外観及び観念はいずれも異なり、両商標の先頭のアルファベットも「A」、「N」で異なる。しかし裁判所は、先頭のアルファベットの称呼が類似し、また「A ★star」、「N ─」がいずれも「Bone(s)」との関連性を断つことができないため、関連消費者に係争商標と引用商標がライセンス関係にある、又は両商標がシリーズ商標であるという印象を生じさせやすいとし、両商標は類似であると判断された。外国文字商標の比較においては、先頭のアルファベットの称呼及び全体の称呼に相当な比重が置かれていることが分かる。
ここで、長期広範な使用により、消費者が係争商標を熟知しているという証拠を提出できれば、原告の主張立証に役立つ。本件係争商標出願人はカタログ等の証拠を提出したものの、その使用時期が無効審決の時期と非常に近く、裁判所は関連消費者がこの短い期間内に係争商標を熟知するとは認め難いと判断した。商標の使用証拠は、紛争中において消費者が熟知している、又は混同誤認を生じさせるおそれはないことを証明する強力な証拠となる。よって、単に商標を商品の外観に使用するだけでなく、時期が記載されたカタログや売り上げ伝票にも使用することで、訴訟においては有利な証拠となる。