台湾 「他人商標の意図的な模倣」(30条1項12号)の認定基準に関する判例(鐵基事件)

Vol.20(2014年8月8日)

商標法第30条第1項第12号(「同一又は類似の商品又は役務について、他人が先に使用している商標と同一又は類似のもので、出願人が該他人との間に契約、地縁、業務上の取引又はその他の関係を有することにより、他人の商標の存在を知っており、意図して模倣し、登録を出願した場合。」)の適用において、他人の商標は先に使用されていることが条件であるが、登録商標である必要はない。本件では他人の商標はかつて登録商標であったが異議申立を経て取消が確定していた場合、当該商標の使用は正当的な使用行為であり、30条1項12号における先使用に該当するか否かが主な争点となった(知的財産裁判所2013年行商訴第32号)。

事件の概要

Xは2007年4月2日に「鐵基」商標(本件商標)を出願し、登録を受けた。その後、Yは本件商標に対し、自身が先に使用する「鐵基IRON-BASED」商標及び「立安鐵基LIAN IRON-BASED」商標(両社合わせて引用二商標)によって商標法第30条第1項第12号の規定に該当するとして無効審判を請求したところ、取消審決が下された。本件はその無効真剣津取消訴訟事件である。ここでXは本件商標出願時に既に別の登録商標「鐵枝」(X所有商標)を有していた。そして引用二商標は本件商標の出願前は登録商標であったが、Xによる異議申立(X所有商標を引用商標とした)を経て本件商標の登録時には取消が確定していた。

本件において、本件商標と引用二商標の商品役務は高度に類似していたことから、本件の争点は主に(1)両商標は類似するか、(2)Yによる先使用は正当な使用行為であり30条1項12号の先使用に該当するか、(3)Yの出願行為は意図的な模倣に該当するか、である。

本件商標(X) 引用二商標(Y)

知的財産裁判所見解

商標類否について

本件商標と引用二商標を比較すると、何れも同一の中国語「鐵基」を有し、この「鐵基」部分について、フォントは一般的に使用される中国語フォントであり、特殊なデザインも施されていないため、外観、観念及び称呼の何れにおいても同一である。引用二商標には外国語「IRON-BASED」又は「LIAN IRON-BASED」文字が含まれるが、商品製造業者が同一文字の前後に異なる文字を組み合わせて別シリーズの商品名とすることは度々見られ、これは特に薬品業界においても同様である。よって関連消費者が両商標を観察したときに、それぞれが表彰する商品の出所が同一業者又は関連業者であると誤認し、混同誤認を生ずる恐れがある。

引用二商標における「IRON-BASED」又は「LIAN IRON-BASED」に関し、これはその字義からすれば中国語「鐵基」の直訳、又は直訳に中国語「立安」の音訳を加えたものである。よって関連消費者が引用二商標を観察したときに、外国語部分は中国語部分の強調であると見なすと思われる。よって、中国語「鐵基」二字が引用二商標の要部となる。よって本件商標と引用二商標では外国語部分が異なるものの、要部はいずれも「鐵基」であることから、両商標は高度に類似する。

Yの先使用について

Xは2006年10月17日にYに対し内容証明郵便を送付し、YがXの同意を得ることなく、本件商標と同一又は類似である商標を薬品関連の商品に使用していること、テレビCM等で「立安鐵基丸」を販売していることを指摘し、Yが実施に販売していた商品の写真も添付していた。このことより、Yは内容証明郵便を受け取る前に既に引用二商標を使用していた、本件商標の出願日(2007年4月2日)前に引用二商標を既に使用していたがわかる。

「引用二商標に対して、Xは自己の登録商標第792436号「鐵枝」の模倣であると主張し、異議申立てを行い審理を経て取消が確定している。よってYの使用は合法的な先使用ではなく不正競争による商標権侵害行為に属すため、Yによる使用は第30条第1項第12号における先使用には該当しない」とXは主張する。

他人の商標権を侵害する非合法的な先使用は当然に第30条第1項第12号で保護する範疇にはない。しかし先使用者が他人の商標権を侵害しているか否かは、民事裁判所による侵害判決確定を基準としなければならない。異議申立てと民事侵害訴訟では保護する対象が異なり、また民事責任における他人の商標権侵害では主観的に故意又は過失が必須である。従って、他人の登録商標に類似するという理由で異議申立て等を経て登録が取消されたとしても、取消前の当該商標の使用行為は、主観的には台湾特許庁による登録査定の効力を信頼したものであるから、民事侵害責任が必ずしもあるとは限らない。行政機関により登録が取消されたという理由のみを以って、その後の使用行為は常に民事侵害責任があると推論することはできない。本件において、引用二商標の取消公告日は、本件商標の出願日より後であるため、引用二商標は本件商標出願時においては有効且つ合法的に存在しており、またYが合法的に使用していた商標である。

意図的な模倣について

「Yの引用二商標はXが有する登録商標第792436号「鐵枝」の模倣であり、台湾特許庁も引用二商標と「鐵枝」商標は類似であると認定して異議申立てによる取消が確定しているため、Xには本件商標の出願に主観的に模倣の意図はない」とXは主張する。

XがYに対し内容証明郵便を送付していることから観れば、Xは本件商標出願前にYの存在を知っていたのは明らかである。Yが製造販売する「立安鐵基丸」薬品は2006年に衛生署へ申請され薬品許可証が取得されている。Xは同じく薬品製造業者として同業者が生産する商品について、特に注意しているはずである。そして「立安鐵基丸」の許可証発効日は2006年12月1日であり、これは本件商標の出願日である2007年4月2日よりも前である。Xは本件商標出願日より前にYが製造販売する商品の存在を知っており、それと同一の中国語「鐵基」を使用して本件商標を出願しており、自らの創意によるものとは言い難く、模倣の意図があるのは明らかである。

弊所コメント

本件において「立安生技」が「引用二商標」を登録出願した時点で、「寶慶薬品」の「鐵枝」商標を模倣した意図は相当明らかである。「寶慶薬品」は「引用二商標」に対し異議申立てを行い異議が成立しているが、後に「寶慶薬品」が「鐵基」商標登録を進めたところ、失敗してしまっている。知的財産裁判所の見解によれば、「寶慶薬品」敗訴の重要なポイントは、「立安生技」が「鐵基」文字を薬品へ使用した行為は、「合法的使用」ではなく侵害行為に属することを証明する民事確定判決を提出できなかったことにある。商標権の行使が違法か否かは、民事判決の認定を基準としなければならず、類似商標に該当し知的財産局に取り消されたとしても、使用行為が違法使用に該当すると推定することはできない、とも知的財産所は指摘している。本件で、「寶慶薬品」は「立安生技」による「引用二商標」の出願行為について異議申立てを行ってはいるが、「立安生技」による「鐵基」文字の使用について侵害責任を追及するための起訴を提起していない。結果的に後日「鐵基」商標の登録の進行が暗礁に乗り上げてしまった。よって、侵害者が商標権者の商標を模倣し出願し且つ既にその商標を使用している場合、後日侵害者が自身は「合法的な先使用者」であると主張し、権利者による商標登録の妨げとなるような事態を防ぐためにも、民事侵害行為の責任も合わせて追及する必要がある。

キーワード:商標 判決紹介 台湾 商標類否

 

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