中国 実施可能要件に関する事例(ピペリジンブタノール誘導体事件)

Vol.21(2014年9月11日)

中国専利法第26条第3項前段では「明細書は発明又は実用新案に対し、その属する技術分野の技術者が実施できるよう、明確かつ完全な説明を行わなければならない」という実施可能要件が規定されている。そして専利審査指南第二部分第2章第2.1.3第(5)では実施委可能要件を満たさない例として、「明細書に具体的な技術方案が記載されているが実験証拠が示されておらず、当該方案は実験結果により裏付けられてはじめて成立する場合。例えば、既知の化合物の新規用途の発明について、通常は該用途と効果を裏付ける実験証拠を説明書に記する必要がある。さもなければ、実現できるとの要件を満たさない。」と規定されている。本件は明細書で発明を得るための理化学パラメータ又は薬理実験データが開示されていない場合、実施可能要件違反に該当するか否かが争点となった事例である。

事件の概要

本件は発明の名称を「α-(アルキルフェニル置換基)-4-(ヒドロキシジフェニルメチル基)-1-ピペリジンブタノール誘導体、その製造並びに抗ヒスタミン剤、抗アレルギー性剤、及び気管支拡張剤としての使用用途」とする特許出願の拒絶査定に対する復審決定である。争点は本願発明が専利法第26条第3項及び第4項の規定を満たすか否か、である。審査では本願発明は実施可能要件を満たさないとして拒絶査定が下されたが、その後の復審において専利復審委員会は拒絶査定を取り消す決定を下した。

国家知識産権局の見解

本願発明は審査指南第二部分第十章第4.1節における化学発明の充分な開示の要求を満たしていない。本願明細書では通式上の化合物の一般製造方法についてのみ記載されており、実施例においても製造方法及び使用する試剤が提示されているに過ぎない。一方本願発明によって得られる製品の、理化学パラメータ又は薬理学実験データは全く示されていない。つまり、本願発明は審査指南第二部分第二章第2.1.3(5)で規定する「明細書に具体的な技術方案が記載されているが実験証拠が示されておらず、当該方案は実験結果により裏付けられてはじめて成立する」という状況に属する。よって、当業者は当該技術法案が成立するかどうか確認できないことから、本願明細書は本願発明の通式化合物及び列挙された具体的化合物が十分に開示されていると認めることはできない。

専利復審委員会の見解

化学発明では、当該化学製品の確認、製造及び用途を明細書で開示しなければならず、開示の程度は発明の属する技術分野の技術者が実施できる程度を基準とする。明細書で部分的な技術内容が欠けていたとしても、明細書が十分に開示されていないことには必ずしもならない。明細書で開示された内容を基礎として発明の属する技術分野の技術者が持ち合わせている現行技術及びその具体的知識、方法を結合し、総合的に考慮した上で認定を行わなければならない。

本願発明は抗ヒスタミン剤、抗アレルギー性剤、気管支拡張薬として用いられる4-ヒドロキシジフェニルメチル基ピペリジンブタノール誘導体に関する。明細書の第20頁には、本願発明の化合物は抗ヒスタミン剤、抗アレルギー性剤、気管支拡張薬として用いることができ、米国特許US4254129及びUS4254130により該用途の依拠として支持されることが記されている。米国特許US4254129明細書の実施例3は、4-[4-[4-(ヒドロキシジフェニルメチル基)-1-ピベリジニル基]-1-ヒドロキシブチル基]-α、α-ジメチルフェニル酢酸を製造する具体的実施例である。本願発明の明細書第23頁の最終段落では、化合物におけるAがH、R1が―COOHである、つまり実施例2の化合物4-[4-[4-(ヒドロキシジフェニルメチル基)-1-ピベリジニル基]-1-ヒドロキシブチル基]-α-メチルフェニル酢酸が最良であると記載されている。本願発明における最良の化合物と米国US4254129で示された既知の化合物との違いは、既知化合物の化学式ではα位は2つのメチル基に結合されているのに対し、本発明化合物の化学式のα位は1つのメチル基に結合されている。但しα位に結合されているメチル基は反応過程において反応には参加せず、フリーデルクラフツアシル化作用時に最初に選択される原料のみと関連がある。従って、本分野の一般技術者からすれば、現行技術で開示されている4-[4-[4-(ヒドロキシジフェニルメチル基)-1-ピベリジニル基]-1-ヒドロキシブチル基]-α、α-ジメチルフェニル酢酸を製造する方法を応用し、本発明の最良化合物4-[4-[4-(ヒドロキシジフェニルメチル基)-1-ピベリジニル基]-1-ヒドロキシブチル基]-α-メチルフェニル酢酸を製造することが可能である。また、本発明の化合物のAが―OHである場合は、米国特許US4254129明細書の実施例8で示された化合物に対応し、本発明化合物との違いは上記と同じである。よって、本分野の一般技術者からすれば、本発明で開示された内容を基礎として、上記の現行技術を結合することでAが―OHである場合の本発明化合物を製造することができる。そして本分野の技術者は、R1が―COOHである本発明の化合物を製造できることを基礎とすれば、R1が―CH2OH又は―COO(C1-6)アルキル基である本発明の化合物は、本分野の技術者は既に知っている技術知識と一般の技術手段を採用することで完成することができる。本発明の明細書では得られる産物の理化学パラメータは開示されていないが、本分野の通常技術者は明細書で開示された内容を基礎とし、既知の現行技術を組み合わせれば本発明の化合物を製造することが可能である。従って、明細書で部分的な技術内容が欠けていたとしても、本分野の通常技術者が本発明化合物を製造できずその程度を確認できないということにはならない。

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