台湾 指定商品の類否判断に関する判例(諾得事件)

Vol.34(2017年2月15日)

【事件経緯】

台湾諾得有限会社(以下「諾得会社」とする、商標権者、原告)は20081027日に「ステンレス洗濯槽・可動式シャワーヘッド」等を指定商品とする「諾得」商標を知的財産局に登録出願し、登録された。その後、天良生物科技企業股份有限公司(以下「天良会社」とする、無効審判請求人、訴訟参加人)は、「諾得」商標に対し評定(無効審判)を請求した。無効事由は次の通りである。登録時商標法第23条第1項第12号、13号及び14号、並びに現行商標法第30条第1項第10号、11号及び12号の規定(即ち「同一又は類似の商品又は役務について他人が使用している登録商標又は他人が先に出願した商標と同一又は類似のもので、関連する消費者に混同誤認を生ずる虞があるもの。」、「他人の著名商標又は標章と同一又は類似のもので、関連公衆に混同誤認を生ずる虞があるもの、又は著名商標又は標章の識別性又は信用を損なう虞があるもの。」、「同一又は類似の商品又は役務について、他人が先に使用している商標と同一又は類似のもので、出願人が該他人との間に契約、地縁、業務上の取引又はその他の関係を有することにより、他人の商標の存在を知っており、意図的に模倣し登録出願した場合。」)。

 

知的財産局による無効審判の審理の結果、係争商標の登録は取消された。「諾得会社」はこれを不服として訴願を提起したが、訴願委員会は知的財産局の見解を維持し、訴願は棄却された。そこで「諾得会社」は知的財産裁判所に行政訴訟を提起したところ、知的財産裁判所は訴願会及び知的財産局の見解を覆した。知的財産裁判所は、係争商標の指定商品と引用諸商標が使用されている商品とを比較すると、両者の機能、用途、販売ルート、生産主体に大きな違いがあり、且つ係争商標の出願は代理店であるオランダ企業の浄水器「Norit」によるものであり、引用商標を利用する悪意が存在したとは言えないと認定し、訴願の決定及び原処分を取消す判決を下した。

 

【係争商標と引用諸商標の比較】

係争商標

引用商標

登録01364198商標

登録0057521001271201商標

商標権者: 諾得会社

商標権者: 天良会社

       

                   

1類:包帯、氷枕、綿棒、面皰圧出器。

11類:ステンレス洗濯槽、可動式シャワーヘッド、固定式シャワーヘッド、蛇口、止水栓、二口蛇口、混合水栓、給水栓、ろ過蛇口、ウォーターサーバー、浄水器、浄水機、逆浸透膜浄水器、ウォーターサーバーカートリッジ、浄水器カートリッジ、給湯器、ガス給湯器、電気給湯器、太陽熱温水器、ガスコンロ。

32類:ビール、炭酸水、ジュース、ミネラルウォーター、蒸餾水、スポーツ飲料、酢飲料、仙草茶、洛神茶、野菜ジュース、電解質飲料、電解イオン水、総合植物性飲料、青草植物茶、青草植物ティーパック、青汁、生姜湯、健康醋、氷糖燕の巣ドリンク。

 

【争点】

本事件の争点は、(1)商品類否の判断について、(2)善意の商標出願であるか否かが著名商標と混同誤認を生ずる虞の判断に影響を与えるか否か、である。

 

【知的財産局及び訴願審議委員会の見解】

知的財産局及び訴願審議委員会が係争商標は公衆に混同誤認を生ずる虞があるとして登録を取消した理由は、以下の通りである。

 

  1. カプセル、胃腸薬等商品を表示する引用商標の信用、名誉は既に国内関連消費者に熟知されており、著名の程度に達している。
  2. 係争商標と引用諸商標はいずれも同一の中国語「諾得」を有し、通常の知識、経験のある消費者が購入時に通常の注意をもって接すれば、これらの出所が同一である又は出所が同一ではないが何らかの関連を有すると誤認する可能性は極めて高く、類似の程度が極めて高い類似商標に該当する。
  3. 「諾得」は中国語において特定の意義を有さず、使用する商品との関連性は無い。引用諸商標は天良会社による長期間の広告販売により著名の程度に達している。また中国語「諾得」の2文字を以って商標登録されているものを調べると、諾得会社及び第三者の諾得科技株式会社を除くと、その他はいずれも天良会社が有する商標である。これより、多数の第三者が普遍的に商標として使用したことで識別力が弱まったとは認められず、引用諸商標は相当高い識別力を有するといえる。
  4. 諾得会社が提出した関連使用証拠は大部分の日付が係争商標の登録日より後であるため、係争商標が諾得会社により長期に渡り広範に使用されたことで、登録時に関連消費者に熟知されていたと認めるには不十分である。

 

係争商標の指定商品と、多角化経営を行う引用諸商標の権利者が引用諸商標を使用する薬剤、栄養補助食品、化粧保養品、飲料等の商品とを比較すると、これらはいずれも日用品又は生活用品であり、互いに補完又は依存関係を有するだけでなく、消費者の清潔衛生、健康等の要求を満たすという性質も有する。製造メーカーは医療、栄養補助食品及び健康商品についても多様多角化に生産する近年の状況に鑑みれば、一般社会通念及び市場取引状況により、これら商品の消費者群及び関連情報とも重複しており、商品にも関連性があることより、関連公衆にこれらの商標が同一の出所を表示するものであるか又は商標を使用する者の間に関連企業、ライセンス関係、加盟関係又はその他類似関係が存在していると誤認させ、混同誤認を生じさせる虞がある。

 

【知的財産裁判所見解】

知的財産裁判所は、引用諸商標が著名商標であること、係争商標と引用諸商標が高度に類似すること、引用諸商標は識別力を有すること、天良会社は引用諸商標を多種多様な商品又は役務に使用し多角化経営を行っている状況があることについては認めた。しかし、商品又は役務の類否及び類似の程度については、知的財産局及び訴願会の見解と異なり、係争商標が公衆に誤認混同を生ずる虞は無いと認定した。その理由は以下の通りである。

 

  1. 係争商標の商品(日用品、生活用品類)と、多角化経営を進める権利者が引用諸商標を使用する商品(薬品、食品及び清潔用品)とは、同一又は類似商品を構成しない。

 

係争商標の指定商品は浴槽設備、ウォーターサーバー設備等であり、その機能は消費者の家庭用品基本設備の需要を満たすことにある。一方で引用諸商標が使用される商品は、医薬品、栄養補助品、清潔用品及び食品であり、その機能は消費者の医療、栄養補給及び清潔の需要を満たすことにある。これら商品はいずれも消費者の日用品、生活用品として必要なものだが、その販売ルート、生産主体は大きく異なり、機能、用途にも相違がある。天良会社は多角化経営を行ってはいるが、事業を衛生関連、ウォーターサーバー又は給湯器、ガスコンロ等設備まで拡大している又はその準備をしていることを示す証拠は存在しない。従って関連消費者は家庭用品基本設備に使用される係争商標と、薬品、栄養補助品、清潔用品及び食品に使用される引用諸商標とを、関連性を持って結びつけることはせず、一般社会通念及び市場取引状況により、これら商品が同一又は類似であると認めることはできない。

 

  1. 係争商標の出願人は無効審判請求人である天良会社の引用諸商標を利用しようとする主観的悪意はない。

 

係争商標の「諾得」は、諾得会社が輸入する浄水器「Norit」の中国語訳から付けられたものであり、諾得会社は商品の販売広告においても「オランダオリジナル浄水器」、「オランダ世界レベルNorit諾得浄水器」、「オランダNorit諾得医療レベル浄水設備、国際赤十字指定使用」等の文字を付していた。ここには天良会社の引用諸商標を利用しようとする如何なる用語も見られず、製品がオランダからの直輸入であることを強調していることがわかる。しかし天良会社は台湾企業でありオランダ企業ではない。以上より、諾得会社は係争商標の出願において主観的に天良会社の引用諸商標を利用しようとする状況は認められず、係争商標の出願は悪意によるものではないと認定すべきである。

 

【本所分析及び戦略提案】

上記判決から、知的財産裁判所は商品の類否判断が知的財産局より厳格であり、指定商品と実際に多角化経営で使用される商品区分の境界線を曖昧にすることはしないことがわかる。また、知的財産局は「関連公衆に誤認混同を生ずる虞があるか否か、著名商標又は標章の識別力または信用名誉を減損する虞があるか否か」を判断する際、権利者の登録出願が悪意か否かの主観的判断の要件を特に取り上げていないのに対し、知的財産裁判所はこの要件をあえて指摘している。今後もし他人の登録商標に対し異議又は無効審判を請求する場合には、これらの判断点に注意する必要がある。


 

 

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