台湾 英字商標の類否判断に関する最高行政裁判所判例(D&R事件)

Vol.39(2017年5月10日)

【事件経緯】

台湾の化粧品会社A2010127日に「化粧品、美白化粧品、洗顔料、アイクリーム」等を指定商品とする「D&R」商標(以下、係争商標)を台湾知的財産局に出願し、登録された。これに対しフランスの化粧品会社は、自らが有する「DIOR」商標(以下、引用商標1)及び「迪奧」商標(以下、引用商標2)に基づき、登録時商標法第23条第1項第12号の規定(他人の著名な商標若しくは標章と同一若しくはは類似のもので、関連公衆に混同誤認を生じさせるおそれがあるもの、又は著名な商標若しくは標章の識別力若しくは信用を損なうおそれがあるもの。)に違反するとして異議申立てを行った。知的財産局による審理の結果、登録を維持する決定が下されたため、異議申立人はこれを不服とし、訴願を提起したが訴願も棄却された。そこで異議申立人は知的財産裁判所に行政訴訟を提起すると、知的財産裁判所は台湾特許庁とは異なった見解を示し、訴願決定及び知的財産局による異議申立て不成立処分を取消す判決を下した。化粧品会社Aはこの決定を受け最高行政裁判所へ上告するも、最高行政裁判所は知的財産裁判所の判決を維持し、最終的に「D&R」商標は登録が取り消された。

 

 

係争商標

引用商標1

引用商標2

化粧品、美白化粧水、洗顔料、アイクリーム、(略)。

各種香水、脂粉、美容クリーム、ボディーパウダー等化粧品

各種香水、脂粉、美容クリーム、ボディーパウダー等化粧品

 

本件の争点は、係争商標「D&R」が引用商標「DIOR」及び「迪奧」と類似するか否かである。

 

【知的財産局及び訴願審議委員会の見解】

  1. 係争商標と引用商標1DIOR」を比べると、両商標の称呼に関し、関連消費者は区別することができる。一方、外観は係争商標がアルファベット4文字で、引用商標1はアルファベット2文字の間に符号が挟まれていることより、外観が関連消費者に与える印象は両商標で明らかに異なる。よって類似の程度は極めて低い。
  2. また、係争商標と引用商標2「迪奧」は、外観が関連消費者に与える印象はそれぞれ異なり、最後の文字の読み方も明らかに異なる。よって、一般的知識、経験を有する消費者が商品購入時に一般的注意を払う際、又は取引時にそれを呼ぶ際、出所が同一又は出所は異なるが何らかの関連を有すると誤認する可能性は高くない。よって、両商標の類似の程度は極めて低い。

 

【知的財産裁判所、最高行政裁判所の見解】

  1. 係争商標と引用商標1DIOR」を比べると、1文字目と最後の文字はアルファベット大文字の「D」及び「R」であり、「D」と「R」の間に挟まれたものが「IO」か「&」で異なる。両商標は我が国国民が慣れ親しんだものではない外国文字からなり、両商標の外国語文字部分の1文字目と最後の文字が同一であることにより、一般的知識、経験を有する消費者に対し混同誤認を生ずる。
  2. 称呼の面からみれば、一般的知識、経験を有する消費者にとって、引用商標1DIOR」は続けて呼ぶこともでき、或いは1文字ずつ分けて「D」、「I」、「O」、「R」と呼ぶこともできる。これに対し、係争商標「D&R」は、「D」、「and」、「R」と呼ぶこともできる。分けて読んだ場合、多少の違いはあるものの、D」、「I」、「O」、「R」と「D」、「and」、「R」は類似し、引用商標1DIOR」が著名商標であるため一般消費者は分けて呼ぶことはないことを認めたとしても、「D」「and」、「R」はもう一つの引用商標2「迪奧」の発音と類似することより、外観、称呼、観念のいずれにおいても、係争商標「D&R」と引用商標1DIOR」及び引用商標2「迪奧」は類似するものである。

 

【弊所評論及び分析】

台湾知的財産局による「混同誤認審査基準」によれば、商標の類否判断は、商標全体の外観、観念又は称呼等により商標を全体観察した場合に商品又は役務の消費者に与える影響に基づかなければならない、とされている。台湾実務ではこれまで「全体観察理論」が厳格に採用されており、本件においても台湾知的財産局、訴願審議委員会もこの原則を厳格に採用している。しかし、知的財産裁判所及び最高行政裁判所では、これまでにあまり見られない、緩やかな「全体観察理論」が採用されており、この流れは注目すべきである。よって商標登録出願を行う者は、出願前の調査時にこの流れに注意し、調査対象を広げることに注意しなければならない。


 

 

キーワード:商標判決紹介 台湾 商標類否 

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