台湾 英字商標の類否判断に関する判例(ESS事件)

Vol.46(2017年12月22日)

外国語文字の商標をデザインする際、スローガンとなる言葉の頭文字を組み合わせたり、又は企業名や商品名の重要なアルファベットを組み合わせて、商標とすることがよく見られる。このようなアルファベット商標において、一般的にアルファベット2文字や3文字の商標は重複性が高く、同一又は類似という状況が生じやすい。以下にアルファベット商標の類否判断に関する判例を紹介する(知的財産裁判所2017年行商訴第5号)。

事件の概要

日本企業株式会社 イー・エス・エスが有する、第3類「化粧品;ボディソープ」等を指定商品とする登録商標「」(以下、「本件商標」とする)に対し、米国企業EOS PRODUCTS, LLCから本件商標は自社の先行登録商標2件「」・「」と商標及び指定商品が同一又は類似であり関連消費者に混同誤認を生じさせるおそれがあるとして異議申立てがされたところ、台湾特許庁は異議申立人の主張を認め取消決定を下した。本件はその取消訴訟である。最終的に知的財産裁判所は原告の訴えを棄却し、取消決定を維持する判決を下した。

本件商標 引用商標1 引用商標2
化粧品、石鹸、洗顔石鹸、洗顔フォーム等。 化粧品、唇用化粧下地、口紅、ハンド及びボディ乳液等。 口紅、リップ、薬用リップ、ハンドジェル、先願フォーム等。

知的財産裁判所の見解

本件商標はアルファベット「ESS」3文字から構成され、単純な文字商標に属する。引用商標1はアルファベット「EOS」から構成される単純な文字商標である。引用商標2はアルファベット「e」と「s」、そしてこれらの間にアルファベット「o」の上下が一部くりぬかれた図形が配置されて構成されるが、当該上下がくりぬかれた「o」は外観上、一般的なアルファベット「o」と容易に認識することができることから、引用商標2も「eos」の単純な文字商標と認定することができる。

本件商標と引用商標2件はいずれも左から右に横書きされた3文字のアルファベットで構成され、頭文字は大文字又は小文字で書かれたアルファベットのE、最後の文字は大文字又は小文字で書かれたアルファベットのSであることを共通とする。全体の外観からみるに、3件の商標はいずれも対称感が感じられ、極めて類似した印象を与えるものである。称呼に関し、3文字の真ん中の文字が異なるため3件の称呼は若干異なる、しかし一般消費者の観点から観察すれば、本件商標と引用商標が付された商品の出所が同一又は類似であると誤認するおそれがあると認められる。

本件商標は「Enzyme」(酵素)、「Skincare」(スキンケア)、「System」(方法)という3つの語の頭文字をとって商標としたものであるが、引用商標は「evolution of smooth」の略語であることから、本件商標と引用商標では観念が全く異なると、原告は主張する。しかし、「ESS」と「EOS」はいずれも固有の単語ではないことから、消費者は主観的な観念のみによって商標を観察することはなく、商標全体の外観、観念及び称呼により商品の出所を識別する。よって原告の主張は認められない。

また原告は、本件商標の商品は日本系商品、引用商標の商品はアメリカ系商品であるため、消費者は両者を区別できないということはない、と主張する。しかし、商品製造業者は異なる市場へ向けた販売に対応するため、欧米版及びアジア版の化粧品やスキンケア商品を製造販売する状況がよくある。即ち、生産された商品はそもそも様々な特徴を有しており、消費者は異なる需要に応じ各性質、特徴を同時に有する製品を消費する。本件において、商標の指定商品はいずれも一般美容スキンケア商品であり、販売ルートもほぼ同一である。日本商品・アメリカ商品という相違があっても、その相違により消費者に混同誤認を生じさせる虞がないといえるまでには至らない。

さらに、原告は本件商標と引用商標は市場において併存しているという事実が存在し、関連消費者に対し混同誤認を生じさせるおそれはないとも主張する。ここで、商標に対する消費者認知度は、商標が登録される前における実際の使用状況に係る証拠により判断しなければならない。ところが、原告が提出した証拠の中には、係争商標の登録日前に係る使用証拠は一部存在するものの、そのほとんどは会社名、企業グループ名称として現され、商標として使用されているとは認められない。

弊所コメント

「アルファベット商標」の類否に関し、それぞれの商標の意義・観念の相違という点から非類似を主張したとしても、台湾では通常こうした主張が認められることは多くない。

台湾「混同誤認のおそれ審査基準」の規定によれば、「外国文字の商標において、その文字の意味が我が国国民より普遍的に熟知されている場合、文字の称呼及び外観の比較を重視すべきである」、また「アルファベットの外国文字において、外観と称呼において、先頭のアルファベットは全体の文字に比べ、消費者に与える印象に極めて大きな影響を与え、類似判断における比重は重くなる」(「混同誤認のおそれ審査基準」第9頁参照)。つまり、アルファベット商標の類否判断においては「文字の称呼」及び「外観の比較」に重点が置かれていることが分かる。

本件商標と引用商標について、観念は非類似であるが、頭文字及び最後の文字が同一であること、特にデザインが施されていないこと、本件商標の台湾における多量の使用実績が立証されなかったこと等に基づき、裁判所は本件商標と引用商標が類似し混同誤認が生ずると認定している。もしアルファベット商標の非類似を主張する側からすれば、台湾では登録段階の商標類否の判断においても混同誤認の観点が重視されることから、単に外観、称呼及び観念の非類似を主張するのみではなく、例えば本件商標の台湾での高い著名性や、台湾での長期広範にわたる使用実績、そして本件商標と引用商標が併存しており混同誤認は生じていないという事実を証明する関連証拠を提出できるかが重要となる。

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