台湾 結合商標の類否判断に関する判例(太平洋SOGO事件)

Vol.45(2017年10月13日)

事件の概要

台湾では「太平洋」の名称を使用する百貨店が二つ存在している。、一つは台湾企業(豊洋興業株式会社)が経営する「太平洋百貨」、もう一つは日本企業のそごうからライセンスを受けた「太平洋崇光百貨」が経営する「太平洋SOGO百貨」である。両者間において先日商標権紛争が起こり、最終的に最高行政裁判所により「太平洋SOGO」商標権を取り消す判決が下された。

株式会社そごうは2008年1月3日に「太平洋SOGO」商標(以下、「係争商標」とする)を「百貨店;スーパーマーケット;コンビニエンスストア;ショッピングセンター;テレビショッピング;インターネットショッピング」等を指定商品役務として出願し、審査を経て登録された。その後2009年12月24日に本商標権は株式会社そごう・西武に移転された。

一方、「豊洋興業株式会社」は2件の「太平洋PACIFIC」商標(以下、引用商標1、引用商標2とする)を引用し、係争商標に対し無効審判を請求した。係争商標と引用商標は類似し関連消費者に混同誤認を生じさせるおそれがあり、且つ引用商標の識別力を損なうおそれがあると主張した。知的財産局による無効審判審理の結果、係争商標は無効にすべき審決が下された。後の経済部、知的財産裁判所及び最高行政裁判所も同様の見解を示した。

  係争商標 引用商標1 引用商標2
登録日 2008年10月1日 1998年8月1日 2005年4月16日
商標
指定商品役務 百貨店;スーパーマーケット;等 百貨店;スーパーマーケット テレビショッピング;インターネットショッピング

本件の争点は結合商標の類似判断においてどのように要部認定を行うか、である。

知的財産裁判所・最高行政裁判所の見解

商標の類似判断における要部認定

商標のデザインには要部とその他の部分が存在するが、商標が識別力を有するか否かの判断時においては、分離観察をしてはならず、商標全体の外観を総合判断しなければならない。一方、二つの商標が類似か否かを判断する際には、消費者の基準又は注意力を判断依拠とすることができる消費者が記誦又は識別する部分が商標全体の要部である場合、商標全体における要部を類似判断の依拠とすることができる。

係争商標と引用商標の類否判断

係争商標は、デザインが施された円の中に2つの相対する三角形が配置された左部の図形、右上部の中国語「太平洋」、右下部にはアルファベット「SOGO」、が組み合わされたものである。引用商標は、太平洋を象徴する図形、単純な横書き中国語「太平洋」及び横書きアルファベット「PACIFIC」が上下に組み合わされたものである。この「PACIFIC」は中国語で太平洋の意味であることから、引用商標において消費者の注意を引く識別力を有する要部は中国語「太平洋」である。係争商標と引用商標ではアルファベット及び図形は異なるが、我が国は中国語を公用語としており、一般消費者は自らが熟知している中国語でこれら商標を認識及び称呼するはずであり、中国語部分がこれら商標の要部である。係争商標と引用商標を比較すると、中国語「太平洋」が関連消費者の注意を引く顕著部分であり、外観及び称呼においてもこれらがシリーズ商標であると連想させるものである。よって係争商標と引用商標の類似程度は高い。さらに引用商標は係争商標よりも先に出願されたものである。我が国では先願主義を採用していることから、係争商標に与える保護は相対的に大きなものでなければならない。

引用商標の認知度

無効審判請求人が1994年から1997年、2000年から2008年に経営した百貨店「太平洋百貨(豊原店等)」の販促活動のチラシや広告、「聨合報」、「自由時報」等の新聞広告において、引用商標が用いられていた。また、2003年から2007年にかけて経営する「太平洋百貨(豊原店)」の広告費用は毎年1500万台湾ドル以上に上る。そして請求人が提出した財務諸表によれば、1年当たりの営業収入は15億台湾ドル以上に達している。これら事実を総合判断するに、係争商標の査定当時、引用商標は百貨店等にかかる役務を表彰する使用態様において、我が国関連消費者に相当熟知されていたと認められる。

一方、係争商標の出願人が提出した証拠では係争商標が国内消費者に既に熟知されていることを証明できない。よって引用商標のほうが関連消費者に知られているのであるから、引用商標に大きな保護を与えて当然である。

弊所コメント

台湾では商標の要部認定原則として、消費者の習慣上最も印象深い顕著な部分を要部として認定することが通常である。本件の結合商標の類似判断に関し、台湾特許庁、知的財産裁判所及び最高行政裁判所のいずれも、同様の認定基準を採っている。ただし、要部認定は認定する者の主観による部分も大きい。仮に本件商標の要部が「SOGO」という文字であると認定された場合、引用商標とは類似を構成しなくなる。従って結合商標を出願する場合、出願前の調査は特に注意深く行わなければならず、権利取得後もその使用態様に注意しなければならない。

 

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