台湾 「反混同」に関する最高行政裁判所判例(澪MIO事件)

Vol.37(2017年4月5日)

「逆混同」(reverse confusion)とは、先願商標権者が市場において劣位にあり、後願商標権者(又は出願人、以下同様)が市場において優位又は著名である場合、先願商標権者が提供する商品又は役務の出所が後願商標権者によるものであるという誤った印象を消費者に生じさせ、混同誤認を招く恐れがある状態のことをいう。

「逆混同」概念は米国から唱えられたものであるが、台湾実務においては多くの論争がなされ、台湾司法裁判所もかつて2015年知的財産法律座談会上において逆混同に関して討論を行ったが、共通認識を築くには至らなかった。知的財産裁判所は、103年(2014年)行商訴字第137号判決において「逆混同」理論の適用を認めたが、最高行政裁判所は「逆混同」理論は先願主義に反するとし採用せず、当該知的財産裁判所判決は105年(2016年)判字第465号判決において覆された。

上記判決に係る事件は、日本の酒類製造メーカーである宝ホールディングス株式会社が台湾特許庁に登録出願した「 」商標(以下、係争商標とする)に関する。台湾特許庁は、係争商標と第三者である台湾人所有の登録商標第01372770号「」(以下、引用商標とする)とを比べると、いずれも外国語「MIO」を有し両者は類似商標に該当するとし、また、いずれも酒等を指定商品としており、関連消費者に混同誤認を生ずる虞があるため、商標法第30条第1項第10号の規定に反するとし、拒絶査定を下した。その後出願人は訴願を経て、知的財産裁判所へ行政訴訟を提起した。知的財産裁判所は、両商標の類似の程度は低いと判断しつつ、係争商標は出願人による商品の販売、公告宣伝等を経ることで指定商品において長期に渡り使用され、取引上既に出願人の商品の識別標識となっていると判断し、一般社会通念及び市場取引状態により、関連消費者は両商標が指定する商品の出所が同一又は同一ではないが関連するものであると区別することでできるはずであり、混同誤認の虞は生じないとし、訴願決定及び台湾特許庁の行政処分を取消す判決を下した。

係争商標と引用商標の比較

係争商標 引用商標
出願人:宝ホールディングス株式会社 権利者:呂国松
第33類:酒(ビールを除く) 第33類:果実酒、茅台酒、ブドウ酒、食前酒、アペリティフ、リキュール、甜酒、蒸留酒、アルコール分を含む飲料(ビールを除く)、バラ酒、白酒、酒(ビールを除く)、酒類(麦酒及びビールを除く)、赤ワイン、アルコール飲料(ビールを除く)、蜜酒、ピケット酒、山葡萄酒、醸造酒、合成清酒

台湾特許庁は知的財産裁判所の判決に不服とし、最高行政裁判所へ上告した。その結果、最高行政裁判所は知的財産裁判所の判決を取消した。最高行政裁判所は、台湾商標法は「先願主義」を採用しており、先願に係る登録商標が高い著名性を有していない又は関連消費者に普遍的に知られていないとしても、先願に係る権利者は法に基づき権利を主張することができる。原判決では、本件商標は引用商標より後に出願がされているが、本件商標は広告宣伝等により、引用商標に比べて関連消費者に熟知されているため、本件商標をより保護すべきであるとしているが、これは明らかに先願主義の原則に反する。また、後願にかかる商標の市場知名度により先願に係る登録商標の商標権を損なうことは許されず、市場の公平な競争を維持するため、豊かな資金力を有する企業が販売・広告能力により先願に係る登録商標を奪い取ることを防止しなければならない、と述べた。

弊所評論及び分析

知的財産裁判所は「逆混同」の理論を採用しようとしたが、最高行政裁判所は商標が関連消費者により熟知されているためより厚い保護を与えるのではなく、商標法が採る「先願主義」の原則を守り、たとえ先願登録商標は関連消費者にそれほど熟知されていなくても、先願登録商標を保護するものとした。したがって、商業戦略における最大利益を確保するため、商標は出来る限り早く出願することが必要となる。

キーワード:商標 判決紹介 台湾 商標類否

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