台湾 氏の類否判断に関する最高行政裁判所判例(DR.HU事件)

Vol.43(2017年8月21日)

【事件経緯】

台湾の化粧品会社は2011年5月4日に「胡博士DR.HU﹠DEVICE」商標(以下、「係争商標」とする)を「顔用パック、化粧品」等を指定商品として出願し、審査を経て登録された。しかし、別の台湾の化粧品会社から係争商標と「DR.WU」商標3件(以下、「引用商標」とする)は商標及び指定商品のいずれも類似し、関連消費者に混同誤認を生じさせるおそれがある等の理由で、異議申立てがされた。異議申立ての審理により登録を維持する決定が下されたが、異議申立人はこれを不服とし訴願を提起し、その結果経済部は台湾特許庁による登録維持決定を取消した。後に権利者は行政訴訟を提起するも、知的財産裁判所及び最高行政裁判所は経済部と同様の見解を示し、最終的に係争商標は登録が取り消された。

【係争商標と引用商標】

係争商標 引用商標1 引用商標2 引用商標3
顔用パック;化粧品;パーマ剤;ヘアカラー剤;ボディ用クレンザー。 スキンケア化粧品、顔用パック、目元専用パック、化粧水、乳液、洗顔フォーム、化粧品。 化粧品、ボディ用クレンザー、香料、ティーバック(入浴用)、マウスウォッシュ・マウススプレー。 化粧品、ボディ用クレンザー、香料、ティーパック(入浴用)、マウスウォッシュ・マウススプレー。

【経済部・知的財産裁判所・最高行政裁判所の見解】

  1. 係争商標と引用商標を比較すると、両商標の識別力を有する主な部分は「DR.HU」と「DR.WU」である。このうち「DR.」部分は我が国国民が熟知する「DOCTOR」の略であり識別力を有しない。よって係争商標と引用商標の比較対象は「HU」と「WU」の二文字になる。係争商標の「HU」の他に白文字の中国語「胡博士」が存在するが、この部分の文字は英字部分より小さく、また「胡博士」文字の意味を考えればこれは英字部分の直訳であることから、係争商標の英字部分が係争商標の要部である。
  2. 係争商標と引用商標の文字部分を比較すると、「H」と「W」が相違するのみで、称呼においてはいずれも母音は「U(ウ)」であり、称呼において両者の違いは大きくない。よって、全体観察、要部観察、或いは称呼比較のいずれにおいても、両者は類似し、且つ類似程度も高い。
  3. 引用商標の英字「WU」は中国語の氏「呉」の音訳であり、「呉」の姓は台湾においてありふれた氏でもある。しかし、異議申立人は引用商標を自ら生産する美容用品において幅広く使用し、有名な印刷媒体やテレビメディアによる当該商標を付した商品の広告・販売により、引用商標は著名となっている。よって、引用商標の本質がありふれた氏であることのみをもって、異議申立人の販売努力等を保護する必要はないと認定してはならない。
  4. 係争商標の権利者は、係争商標に係る指定商品の販売量、営業額、市場占有率、販売地域、市場分布又はその他販売事実を証明する具体的な証拠を提出していないことから、関連消費者に混同誤認を生じさせるおそれはないことを証明するに足りない。

【本所分析】

台湾の「商標識別力審査基準」には次の通り記載されている。「氏が商品又は役務に使用される場合、それは通常業者の氏を示すために用いられ、出所を表示するものではない。…(略)…。よって原則として、氏は識別力を有さず、商標として出願しても使用による識別力を取得しない限り、登録することはできない。」(4.6.1)。

数年前に著名なデザイナーである呉季剛がデザインの施されていない文字「MISS WU」を商標登録出願したものの拒絶査定となった。当時、台湾特許庁は次のようなコメントを発表した。「出願人は『MISS WU』商標の国外メディアにおける紹介及び販売に関する資料を提出したのみで、台湾市場における販売、使用に係る具体的証拠はなく、我が国の関連消費者が商品の出所を表示する標識であると認識でき、使用による識別力を取得したことを認定することはできないことから、拒絶査定とした。仮に出願人が台湾市場で今後『MISS WU』商標を継続的に使用し、我が国での販売関連資料を提出し、国内消費者が『MISS WU』商標は彼がデザインした者であることを知り、使用による識別力を取得したことを証明できれば、登録することができる」。

本件の事例において経済部及び裁判所が異議不成立とした理由も、権利者は使用による識別力を取得した事実を立証できなかった点にある。よって、今後台湾で氏を商標登録出願する場合、台湾での販売関連資料や使用による識別力を取得したことを証明する資料を前もって準備しておく必要がある。

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