商標が「欺瞞性を帯びない」とどのように証明するか 中国と台湾の食品及び医薬品に関する商標審査実務の比較

Vol.142(2024年6月27日)

 食品と医薬品はいずれも食品の安全性及び医薬品使用の安全性等に関わるため、消費者の生命及び体の健康に関わる重要なテーマである。そのため、中国国家知識産権局は食品及び医薬品分野の商標審査において、一般的な商標よりも厳格に審査を行う。これについては、以前Wisdom News Vol. 115「中国・台湾における医医薬品商標に関する審査実務の比較」において、中国と台湾の医薬品商標登録に関する商標法の規定及び審査実務に関連する事例を紹介した。
 中国国家知識産権局は、特に「原材料又は効能等を表示する説明的文字」及び「消費者に混同誤認を生じさせる欺瞞的標識」等の審査に対し非常に厳格であるが、出願人が商標デザインを行う際に、発音、暗示、識別力、欺瞞性について把握することは難しく、欺瞞性に関連する拒絶理由通知が出された場合、その拒絶理由を解消する方法は不明確である。
 一方、台湾商標法及び台湾特許庁の審査基準は、どのような文字が「公衆にその商品又は役務の性質、品質又は産地を誤認、誤信させる虞があるもの」に該当するかという基準について不明確であるが、その他の主務官庁、又は個別の商品のネーミングや商標に関する明確な基準を有し、これらの基準はいずれも台湾特許庁が商標審査を行う際に参酌される。
 本文では、台湾特許庁及び中国裁判所の食品又は医薬品の商標審査における誤認及び欺瞞性等の規定に関する事例をさらに紹介し、その判断基準について説明する。

欺瞞性の条項に対する中国裁判所の審査標準及び事例紹介

(1) 商標の文字の説明性判断における消費者の知識レベル及び認知能力の参酌必要性について

(登録第44824177号)
第33類
果実酒(アルコールを含む)、ワイン、リキュール(飲料)、濃縮されたアルコール飲料、アルコール飲料(ビールを除く)、果実酒、米を原料とする酒、黄酒、焼酎、白ワイン
事件番号:(2022)京行终1898号驳回复审行政诉讼
 

事例概要

中国の瀘州老窖股份有限公司(以下、「瀘州老窖公司」)は、100年の酒造技術の歴史を持つ蔵元を前身とした酒造メーカーである。同社は1573年に建造された国宝「窖池群」で作られる白酒ブランド「国窖1573」で知られ、「国窖1573」は中国の国家級有形文化遺産と国家級無形文化遺産にも登録された。

瀘州老窖公司は、2020年3月に中国国家知識産権局に「国窖班」商標を出願したが、当局は、「当該商標を指定商品において使用した場合、商品の品質特徴について消費者に誤認を生じさせやすい」という理由により拒絶査定を下した。瀘州老窖公司は決定を不服とし、拒絶査定不服審判及び行政訴訟を提起した。中国国家知識産権局及び一審裁判所は、いずれも原査定を維持する決定が下されたが、二審では原判決が覆された。

 

二審の見解

  1. 商標の文字が説明性を有するか(つまり記述的なものであるか)を明確にする場合、公衆の知識レベル及び認知能力を参酌すべきである。
  2. 「国窖」の文字全体には、「果実酒(アルコールを含む)、ワイン」等の商品の説明は含まれず、指定商品の品質や特性について公衆に誤認を生じさせるとは考え難い。
  3. 「国窖」は、瀘州老窖公司が1573年に建造した「国宝 窖池群」に由来し、当該文化遺産は国に保護され、瀘州老窖公司を示す唯一の出所であるため、それを商標としても、商品の品質や特性について消費者に誤認を生じさせない。
  4. 瀘州老窖公司は既に第33類の「酒類」商品のブランドとして「国窖」を使用しており、多数の登録商標を有し、中国馳名商標として認定されているため、高い市場知名度を有する。また、消費者の「国窖」に対する認知は安定したものである。以上から、瀘州老窖公司と「国窖」は唯一の対応関係を有するため、それを商標としても、商品の品質や特性について消費者に誤認を生じさせない。
 

(2) 記述的意義を有する商標の欺瞞性に関する判断について

(登録第44050872号)
第29類
羊の粉乳、羊乳、固形乳、バターミルク、牛乳、粉乳、牛乳製品
事件番号:(2021)京行终7854号驳回复审行政诉讼
 

事例概要

中国の大手乳業メーカー内蒙古伊利实业集团股份有限公司(以下、「伊利公司」)は、長年にわたり乳製品を専門に販売し、「中国式の健康」を経営理念の核心として続々と中国式健康食品である「骨能膳底」及び「心活」を配合したブランドシリーズ商品を販売し、いずれも商標権を取得していた。

しかし、伊利公司が2020年2月に新シリーズ商品のブランドとして出願した「纾糖膳底」商標は、「『纾』という字は『解消、緩和』という意味を有し、『纾糖膳底』商標を指定商品において使用した場合、商品の品質や特性について消費者に誤認を生じさせやすい」という理由により拒絶査定が下された。伊利公司は決定を不服とし、拒絶査定不服審判及び行政訴訟を提起した。中国国家知識産権局及び一審裁判所は、いずれも原査定を維持する決定を下したが、二審では原判決の一部が覆された。

 

二審の見解

  1. 商標の文字が記述的意義を有する場合、欺瞞性を帯びるかどうかを判断するために、各指定商品を確認すべきである。
  2. 「纾」という字は確かに「解消、緩和」という意味を有するが、伊利公司が提出した産業協会の証明資料及び専門機関による製品評価の報告書によると、同社製品の纾糖膳底粉乳は、実際にブドウ糖と炭水化物の消化吸収を緩やかにする作用を有し、食後の血糖値を低くする、血糖値の改善など、血中の糖分をコントロールする効果があることが分かった。従って、本件商標「纾糖膳底」は確かに糖分の吸収を緩やかにするという意味を有するため、本件商標を「羊の粉乳、羊乳、固形乳、バターミルク、牛乳、粉乳、牛乳製品」等の指定商品において使用したとしても、欺瞞性を帯びない。
  3. 一方、本件商標のその他の指定商品、つまり「果物と野菜を主原料とするスナック、肉、食用海藻エキス、魚(生きているものを除く)、果実の缶詰、果実の漬物」等の指定商品については、欺瞞性を帯びると認定されたため、原判決が維持された。
 

(3) 外国語文字商標における欺瞞性の判断について

(登録第28053967号)
第5類
医薬用製剤、医療用栄養補助剤、ミネラルからなる栄養補助剤…等
事件番号:(2020)京行终2878号驳回复审行政诉讼
 

事例概要

薬剤耐性菌に対する抗生物質の研究開発を行う世界的なバイオ医薬品企業であるEntasis Therapeutics(以下「Entasis社」)は、2017年に同社の名称をデザインしたロゴを中国国家知識産権局に出願した。しかし当局は、英文字「ENTASIS」は「凸状の」という意味を有し、第5類の「医薬用製剤」等の指定商品において使用した場合、当該商品の効能や用途について消費者に誤認を生じさせやすいため、欺瞞性を帯びると認定し、拒絶査定を下した。Entasis社は決定を不服とし、拒絶査定不服審判及び行政訴訟を提起した。中国国家知識産権局及び一審裁判所は、いずれも原査定を維持する決定を下したが、二審では原判決の一部が覆された。

 

二審の見解

  1. 外国語文字商標は文字の意味により誤認を生じさせ欺瞞性を帯びるかどうかは、辞書に載っている意味を基準とすべきである。
  2. Entasis社が提出した≪ロングマン医学辞典≫等の医学専門辞書にはいずれも「entasis」の単語は収録されていなかった。また、Entasis社が提出した総合英中辞典において、「entasis」の単語は記載されていたが、その解釈は「【建築】円柱の分割線、円柱中央部のふくらみ」であり、拒絶査定通知及び拒絶査定不服審判の決定で言及された「凸状の」という意味ではない。
  3. 審判の前に提出された辞書に基づき、本件商標の英文字「ENTASIS THERAPEUTICS」は既存の英文字ではなく、仮に後ろの英文字「THERAPEUTICS」が「治療」の意味を含んでいたとしても、「医薬用製剤」等の指定商品の効能や用途について、関連公衆に誤認を生じさせるとは考え難いため、欺瞞性を帯びないと認定された。

誤認を生じさせる虞のある文字に対する台湾特許庁の審査基準及び事例紹介

台湾衛生福利部の定める≪不実、誇張、誤解を招く、又は医療的効能があるとされる食品や関連製品の表示、宣伝及び広告に関する認定基準≫1の第4条第2項前段において、「食品の一部に『健康』の文字がある場合、当該食品は誤解を生じさせやすいものとして認定される。」と定められている。また、台湾特許庁は商標の審査を行う際にこの基準を適用する。以下は近年の審査実務2をまとめたものである。

 

台湾特許庁が出した拒絶理由の例

1. 食品を指定商品とする案件について、当該商品の名称に含まれる「健康」の2文字を削除するよう求めた。

例:「健康酢」は「酢」と補正しなければならない。

 

2. 商標が「健康」の2文字を含む場合、誤解を生じさせる虞があり、台湾商標法「公衆にその商品の品質を誤認、誤信させる虞があるもの」の規定に違反するため、当該文字を削除するよう求めた。

例:商標に含まれる「健康シリアル」の文字は削除しなければならない。

弊所コメント
 食品及び医薬品のマーケティングと販売のために、関連業者は商品の効能又は成分に関連する文字を使用したり、暗示的な意味の文字や発音を採用して商標をデザインする傾向があり、そうすることで消費者の認識やブランドの知名度が得られ消費者の購買意欲を高めようとするが、中国においてこのような「説明性」、「暗示性」を有する商標を出願した場合、欺瞞性の条項に違反しやすく、出願段階で拒絶査定が下される可能性がある。
 但し、中国の司法審査実務は中国商標法第10条第1項第7号の欺瞞性に関する条項の判断方法について、より明確且つ厳格な基準を有する。
 
 例えば上記1つ目の「国窖班」商標の事例について、商標の文字が欺瞞性を帯びるかどうかは、すなわち「関連公衆が誤認するかどうか」であるため、最初に当該文字が既定の記述的意義を有するかどうかを確認するべきである。もし単に作られた語であって、それ自体が如何なる説明的性質を有さない場合、商品の品質、特性について公衆に誤認を生じさせにくいと考える。
 2つ目の「纾糖膳底」商標の事例については、仮に当該文字が既定の記述的意義を有したとしても、各指定商品を対象に欺瞞性を帯びるかどうかについて詳しく審査を行うべきである。また、「誇張、不実」に該当する可能性がある記述に対しては、信頼できる第三者機関が作成した報告書を証拠として提出することで、欺瞞性の拒絶理由を解消できる可能性がある。欺瞞性の条項の主旨は、公衆が誤った認識により間違えて商品を購入してしまうことを防ぐ点にあるため、「公衆の知識レベル及び認知能力により誤認が生じるかどうか」は、このような拒絶査定案件における重要な争点の一つであり、ブランドの知名度、又は商標の文字の意義に関する客観的な証拠もまた拒絶査定を解消する理由となり得る。出願人が欺瞞性に関連する拒絶査定を受けた場合、不服審判の段階及びその後の行政訴訟において上記の判断基準を参考とし、商標代理人に相談して証拠の準備を行うことで、拒絶査定理由を解消できる可能性を高めることができる。
 
 台湾の商標審査実務については、台湾特許庁が近年まとめた≪不実、誇張、誤解を招く、又は医療的効能があるとされる食品や関連製品の表示、宣伝及び広告に関する認定基準≫に加え、実務上の化粧品、頭髪用製品等の商品については、台湾衛生福利部の定める≪虚偽、誇張又は医療的効能があるとされる化粧品の表示、宣伝、広告に関する認定基準≫3を参考にできる。この基準は、商標に前記基準に違反する文字を含んではならないことを要求するが、関連する規定に違反した場合、出願が拒絶されるだけでなく、これらの基準に違反する文字を実際に使用することによって、法律に抵触する可能性があるため十分に注意しなければならない。
 

[1] ≪不実、誇張、誤解を招く、又は医療的効能があるとされる食品や関連製品の表示、宣伝及び広告に関する認定基準≫、全国放棄資料データベース:

https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawAll.aspx?pcode=L0040140&kw=%e9%a3%9f%e5%93%81%e5%8f%8a%e7%9b%b8%e9%97%9c%e7%94%a2%e5%93%81%e6%a8%99%e7%a4%ba%e5%ae%a3%e5%82%b3%e5%bb%a3%e5%91%8a%e6%b6%89%e5%8f%8a%e4%b8%8d%e5%af%a6%e8%aa%87%e5%bc%b5%e6%98%93%e7%94%9f%e8%aa%a4%e8%a7%a3%e6%88%96%e9%86%ab%e7%99%82%e6%95%88%e8%83%bd%e8%aa%8d%e5%ae%9a%e6%ba%96%e5%89%87

[2] 2022年8月31日台湾特許庁業務座談会

[3] ≪虚偽、誇張又は医療的効能があるとされる化粧品の表示、宣伝、広告に関する認定基準≫

https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawAll.aspx?pcode=L0030099&kw=%e5%8c%96%e7%b2%a7%e5%93%81%e6%a8%99%e7%a4%ba%e5%ae%a3%e5%82%b3%e5%bb%a3%e5%91%8a%e6%b6%89%e5%8f%8a%e8%99%9b%e5%81%bd%e8%aa%87%e5%a4%a7%e6%88%96%e9%86%ab%e7%99%82%e6%95%88%e8%83%bd%e8%aa%8d%e5%ae%9a%e6%ba%96%e5%89%87

 

 

 

 

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