台湾特許庁が「権利不要求の声明についての審査基準」を公布、今年8月1日より施行

Vol.132(2023年8月31日)

台湾特許庁は2023年5月31日に改訂版「権利不要求の声明についての審査基準」を公布し、同年8月1日より施行するとした。新たな審査基準の内容において注目すべき点を以下にまとめた。

一、権利不要求を声明すべきか否かの判断について

新たな審査基準では、「権利不要求を声明すべきか否かの判断」に対して大幅な改正がなされており、商標中の識別力を有しない部分に「商標権の範囲に疑義を生じさせるおそれ」があるか否かで、権利不要求の声明要否が決まることが明文化された。要否判断の際に考慮されるポイントは以下の通りである。

1. 指定商品又は役務等を説明している商標中の識別力を有しない部分について、出願人が創作し使用している又は業者があまり使用しない文字の組み合わせであり、出願人が当該部分に対して単独で権利主張できると誤解する可能性があり、また消費者や競合する同業者に商標の当該部分が商標権を取得しているか否かについて容易に疑義を生じさせるものは、権利不要求を声明しなければならない。

2. 記述的名称及び普通名称以外のその他の識別力を有しない標識、例えば、姓氏、標語、熟語、流行語などの記述的でない文字は、一般的に業者が好んで使用する、又はそれを理由に権利化が望まれるものである。これらの標識が識別力を有しないと判断された場合、出願人が当該部分に対して権利主張ができると誤解するのを防ぐために、原則として権利不要求を声明しなければならない。但し、市場でよく見られる縁起の良い言葉や宣伝広告の用語について、商標権者が専用権を取得していないと消費者及び競争する同業者に疑義を生じさせない場合には、権利不要求を声明する必要はない。

3. 2文字以上のアラビア数字、型番、記号などで識別力を有しないと認定されたものは、原則として権利不要求を声明しなければならない。但し、数字が示す意味が明確であったり(例えば、規格、数量、時間、年代等)、又は業界でよく使用される縁起が良い、幸運を意味する数字で、商標権の範囲に疑義を生じさせるおそれがないと認定することができる場合は、この限りではない。

4. 商標における識別力を有しない部分が記される位置、その文字の大きさ又は占める割合が、出願人の当該部分について商標権取得を希望するか否かの判断に影響する可能性がある場合、例えば、商標中の識別力を有しない部分がデザインにより特に拡大又は強調され、当該部分の文字又は図形が権利取得されているか否かに疑義を生じさせるおそれがある場合は、権利不要求を声明しなければならない。但し、台湾特許庁が例示している「権利不要求の声明が不必要な状況」に該当する場合は、この限りではない。

二、新たに追加された権利不要求の声明が不必要な事例について

新たな審査基準ではここ数年の実務上の案件がまとめられ、多くの事例が新たに追加されている。

1.

当該商標は空気圧縮機、圧縮機、電力ポンプ、真空ポンプ、揚水機等の商品に付される。「AIR COMPRESSOR」は当該商標における指定商品の直接的且つ明確な説明である。なお、「AIR COMPRESSOR」が商標の目立つ位置に配置されているが、関連業者又は消費者に対して、商標権者が当該文字について権利を取得していると誤解させることはなく、商標権の範囲に疑義を生じさせるおそれがないため、権利不要求を声明する必要はない。

2.

当該商標はヘッドホン、イヤホン、インナーイヤー型イヤホン、無線ヘッドホン等の商品に付される。「Plug & Wireless」は当該商標における指定商品の直接的且つ明確な説明であるため、権利不要求を声明する必要はない。

3.

当該商標は紅茶、ティーバッグ、お茶等の商品に付される。商標中の「2」という一文字の数字は、同業者及び関連消費者に対して、商標権の範囲に疑義を生じさせるおそれはないため、権利不要求を声明する必要はない。

4.

当該商標はローヤルゼリー、ハチミツ等の商品に付される。商標中の「Propoliz」は出願人が「Propolis」から創造した非公式な綴りであり、「プロポリス」の意味を有する。「Propoliz」は当該商品の品質及び特性を直接的且つ明確に説明するものであるため、権利不要求を声明する必要はない。

三、権利不要求の声明が必要な事例について

1.

当該商標は電球、照明器具、電気ケトル、電気コーヒーサーバー、トースター等の商品に付される。商標中の「SMART LIFE SOLUTIONS」は「スマートライフの解決策」という意味で、商品マーケティングの意図がはっきりと示された広告用語であるため、権利不要求を声明しなければならない。

2.

当該商標は栄養補給品、ビタミン及びミネラルを含む栄養補給品、食事療法用でんぷん等の商品に付される。「CARDIO ENERGY」は心肺エネルギーという意味であり、当該商標における指定商品の用途又は関連する特性を説明するものである。商標中の「KARDIO ANERGI」は意図的に、語呂合わせからなる通常使用しない文字で表示しているため、権利不要求を声明しなければならない。権利不要求を声明する際には、「本件は『CARDIO ENERGY』の文字について商標権を主張しない」という声明を出す。

3.

当該商標は水着等の商品に付される。商標中の「DIVING」は当該商標における指定商品の用途を直接的且つ明確に説明するものである。しかし、商標中の目立つ位置に配置され、文字と図形の占める割合が大体同じであることから、商標権の範囲に疑義を生じさせるおそれがあるため、権利不要求を声明しなければならない。

4.

当該商標は自転車及びその部品、電気自転車及びその部品、電動アシスト自転車及びその部品等の商品に付される。商標中の「S2」は商品の型番であるため、権利不要求を声明しなければならない。

5.

当該商標は麺、インスタント麺調理食品、コーンミール、インスタント麺等の商品に付される。商標中の文字は「炸醤麺(ジャージャー麺)」はという意味の韓国語であり、台湾人が普遍的に熟知している外国語ではないため、権利不要求を声明しなければならない。権利不要求を声明する際には、「本件は『炸醤麺(韓国語)』の文字について商標権を主張しない」という声明を出す。

6.

本件は平面商標であり、当該商標は化粧品、スキンケア用品等の商品に付される。商標中の商品包装容器の図形は識別力を有さないため、権利不要求を声明しなければならない。

7.

当該商標は連続性を持つ図案からなり、スーツケース、レザーバッグ、財布、スーツケースカバー等の商品に付される。「LANCEL」は商品の出所を識別する文字であるが、この装飾用の連続性を有する図案は識別力を有さないため、権利不要求を声明しなければならない。

8.

当該商標は輸出入の代理、農産物の小売・卸売等の役務に使用される。商標中の「ehime」は日本語「愛媛」のローマ字表記であるため、権利不要求を声明しなければならない。

弊所コメント

今回公布された改訂版「権利不要求の声明についての審査基準」では、「商標中の識別力を有しない部分に権利不要求を声明すべきか否か」について、大幅な改正が行われている。

「権利不要求を声明すべきか否かの判断」は「商標権の範囲に疑義を生じさせるおそれ」の問題にかかわることから、新たな審査基準ではこの点に対して例を挙げて詳細な説明を行っている。また、台湾特許庁による近年の審査結果に基づき、商標中の識別力を有しない部分に権利不要求の声明が必要/不必要である場合について、実際の審査事例を交えて紹介している。

このほか、「商標中の識別力を有しない部分」が「権利不要求の声明が不必要」である時、商標登録原簿において、商標権の権利範囲外であることは記載されない。よって、権利不要求声明がされていないからと言って当該箇所が識別力を有していると誤解し、商標登録に関する戦略の作成や拒絶理由通知への対応にその影響が及ぶことのないよう、出願人は十分注意しなければならない。

キーワード:商標 法改正 台湾 商標類否

 

 

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