中国 化学分野発明の専利審査指南改正 2021年1月15日施行

Vol.81(2020年12月30日)

中国国家知識産権局は2020年12月14日に、専利審査指南第2部第10章(化学分野発明について)の改正を公布した1。改正内容は2021年1月15日より正式施行される。今回の改正内容について、その改正ポイントを紹介する。

補充提出された実験データについて(第2部第10章3.5)

現行専利審査指南において、出願人は実験データを補充提出することができるが、補充提出された実験データで証明される技術効果は当業者が特許出願で公開された内容から得られるものでなければならない、と規定されている。今回の改正では、医薬品に係る出願で実験データが補充提出された事例が2つ追加されている。以下にそのうちの1つの事例を示す。

例1

特許請求の範囲において化合物Aが請求され、明細書において化合物Aの製造実施例、血圧低下作用、及び血圧低下活性を測定する実験方法が記載されているが、実験結果のデータは記載されていない。後に出願人は化合物Aの血圧低下効果を示すデータを補充提出した。当業者からすれば、出願当初の記載により化合物Aの血圧低下作用は公開され、補充提出された実験データで証明される技術効果は、出願書類によって得ることができる。注意すべき点は、進歩性の要件を審査する際においても、当該補充提出された実験データを合わせて審査しなければならない。

中国専利審査指南第2部第10章3.5

化合物の進歩性について(第2部第10章6.1)

「化合物の進歩性」を判断する際の重点について、より詳細な説明が加えられている。具体的には、以下の内容が規定されることとなった。

(1)化合物発明の進歩性を判断する場合、保護を求める化合物と従来技術のうち最も近い化合物との間の構造の相違、及びこの構造の改造により得られる用途及び/又は効果により発明が実際に解決する技術課題を確定しなければならない。これを基礎として、当該構造の改造により上記技術課題を解決する技術的教示を従来技術全体が示しているか否か判断する。注意すべきは、当業者が従来技術を基礎として、上記技術課題を解決するために、理に適う分析、推理又は有限の試験によって当該構造の改造を行うことで、保護を求める化合物を得ることができる場合、従来技術には技術的教示が存在すると認定する。

(2)発明が従来技術のうち最も近い化合物に対して行う構造の改造によって得られる用途及び/又は効果は、既知の化合物の異なる用途を得ることであってよく、既知の化合物のある方面の効果に対する改善であってもよい。化合物の進歩性を判断する際、こうした用途の変更及び/又は効果の改善が予期せぬものである場合、保護を求める化合物は明らか(容易)ではないことを示しているため、進歩性を有すると認定しなければならない。

(3)説明すべき点として、化合物の進歩性を判断する際、保護を求める技術方案の効果が既知の必然的趨向によりもたらされるものである場合、当該技術方案は進歩性を有しない。例えば、従来技術である殺虫剤A-Rにおいて、RがC1-3のアルキル基であり、アルキル基Cの原子数の増加に伴って殺虫効果が高まると指摘されているとする。ここで出願に係る発明の殺虫剤はA-C4H9である場合、殺虫効果は従来技術と比べて明らかに向上する。しかし従来技術では殺虫効果を高める必然的趨向が指摘されているため、当該発明は進歩性を有しない。

中国専利審査指南第2部第10章6.1

また進歩性判断する事例が5つ追加された。以下に例5を示す。

例5

従来技術(Va)

R=OH、R=H、R=CHCH(CHである。

出願に係る発明(Vb)

式中、R及びRはH又はOHから選ばれ、RはC1-6アルキル基から選ばれる。またR=OH、R=H、且つR=CHCHCHCHである具体的な化合物(Vb1)が含まれる。(Vb1)の抗B型肝炎ウイルス活性は(Va)に比べ明らかに優れている。

一般式化合物(Vb)の保護を求める場合、(Vb)と(Va)の相違点はホスホリルアルキル基とアミノ酸残基との間の結合する元素が異なるのみであり、(Vb)は-S-、(Va)は-O-である。一般式化合物(Vb)は(Va)に対し、属する技術分野に対し他種の抗B型肝炎ウイルス薬を提供している。しかし、-S-及び-O-の性質は類似しており、同じ抗B型肝炎ウイルス活性を有する他の薬物を得るために、当業者であれば、結合する元素の置換を行い化合物(Vb)を得る動機が存在する、(Vb)は進歩性を有しない。

具体的な化合物(Vb1)の保護を求める場合、(Vb1)と(Va)の相違点は、上述した結合する元素のみではなく、Rにおける置換基も異なり、(Vb1)の抗B型肝炎ウイルス活性は(Va)に比べ明らかに優れている。従来技術においては、前記構造を置換することにより抗B型肝炎ウイルス活性を高める教示は存在しないため、(Vb1)は進歩性を有する。

中国専利審査指南第2部第10章6.1

モノクローン抗体に係る請求項の記載に関する改正(第2部第10章9.3.1.7)

モノクローン抗体に係る請求項の記載について、現行では該抗体を生じるハイブリドーマによる限定でよいと規定されているが、改正により構造的な特徴による限定であってもよいという内容が追加された。また事例が1件追加されており、以下に示す。

(1)アミノ酸配列のSEQ ID NO:1-3で示されるVHCDR1、VHCDR2、VHCDR3と、アミノ酸配列のSEQ ID NO:4-6で示されるVLCDR1、VLCDR2、VLCDR3とを含む、抗原Aのモノクローン抗体。

中国専利審査指南第2部第10章9.3.1.7

「遺伝工学に関する発明」の進歩性に関する改正(第2部第10章9.4.2)

生物技術分野の発明における進歩性の判断に関して、改正がされている。

判断過程において、異なる保護主題の具体的な現手尾内容によって、発明と従来技術のうち最も近いものとの間の区別特徴を確定し、発明において前記区別特徴が奏する技術効果に基づき、発明が実際に解決する技術課題を確定したうえで、従来技術全体が技術的教示を示しているか否かを判断しなければならない。これを基礎として、発明が従来技術に対し明らか(容易)であるか否かを判断する。

生物技術分野の発明の進歩性は、生物高分子、細胞、微生物個体など異なるレベルの保護対象に関わる。こうした保護対象を示す方法のうち、構造や組成など一般的な方法のほか、生物材料寄託番号など特殊な方法も含まれる。進歩性判断では発明と従来技術との構造の差異、関係性の近さ及び技術効果の予期可能性等を考慮しなければならない。

中国専利審査指南第2部第10章9.4.2

また改正では「遺伝子」、「組換えベクター」、「転換体」、「モノクローン抗体」に対する進歩性判断基準についてより詳細な説明が加えられている。例えば遺伝子については次の内容が追加されている。

ある構造遺伝子がコード化する蛋白質は既知の蛋白質と比べ、異なるアミノ酸配列を有し、異なる種類の機能又は改善する機能を有し、且つ従来技術では該配列の相違が前記機能の変化をもたらす技術的示唆について示されていない場合、該蛋白質をコード化する遺伝子に係る発明は進歩性を有する。

中国専利審査指南第2部第10章9.4.2

また「遺伝子」、「組換えベクター」、「転換体」、「モノクローン抗体」に加え、「ポリペプチド又は蛋白質」に関する内容が追加されている。

発明で保護を求めるポリペプチド又は蛋白質と、既知のポリペプチド又は蛋白質とでは、アミノ酸配列において相違点が存在し、異なる種類の機能又は改善する機能を有し、且つ従来技術では該配列の相違が前記機能の変化をもたらす技術的示唆について示されていない場合、該ポリペプチド又は蛋白質に係る発明は進歩性を有する。

中国専利審査指南第2部第10章9.4.2

[1] 391号公告。中国国家知識産権局の公布内容はhttps://www.cnipa.gov.cn/art/2020/12/14/art_74_155606.html

 

キーワード:特許 法改正 新規性、進歩性 中国 記載要件 化学 医薬

 

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