台湾におけるプロダクト・バイ・プロセスクレーム解釈の現状及び将来の方向性

Vol.27(2015年9月1日)

プロダクト・バイ・プロセスクレーム(product by process claim、以下PBPクレーム)の解釈をめぐっては、長い間議論がなされてきた。即ち、クレームに記載された製造方法に限定されない「物同一説」、クレームに記載された製造方法に限定される「製法同一説」の2つの考え方が存在している。日本では2015年6月5日、PBPクレームの記載要求及び権利範囲解釈に対し多大な影響を与える最高裁判決が出された(平成24年(受)第1204号)。

台湾においては、今年8月14日から計8回にわたり台湾各地で知的財産局主催の「専利侵害鑑定要点」改正案の公聴会が開かれた。この公聴会においてもPBPクレームの権利範囲解釈に対して新しい見解が見られたため、以下に紹介する。

(知的財産局は2004年に「専利侵害鑑定要点」の改正案を制定し、司法院も各裁判所へ審理の参考にするよう公文を出したが、この改正案に対し各業界から様々な意見が出たため、今年改めて改正案の制定を行った)

 

【現行の専利審査基準】

現行の「専利審査基準」では発明の新規性や進歩性の有無を判断する場合(発明の要旨認定)のPBPクレームの解釈について、以下のように規定されている。

「物の発明について、その製造方法以外の技術特徴を以って特許請求の範囲を十分に特定できない場合に始めて製造方法を以って物の発明を特定できることになる。製造方法を以って物の特許請求の範囲を特定する際に、当該製造方法の製造ステップとパラメータ条件などの重要な技術特徴、例えばスタート物、用量、反応条件(例えば温度、圧力、時間など)を記載すべきである。製造方法を以って物の特許請求の範囲を特定する場合、その特許を受けようとする発明は、特許請求の範囲に記載される製造方法によって与えられた特性を有する物そのものでなければならない。即ち、製造方法を以って物の特許請求の範囲を特定するものについて、それが新規性又は進歩性を備えるか否かは製造方法により決められるのではなく、物そのものにより決められる。」(2013年版「専利審査基準」2-1-34頁)。

つまり、その製造方法以外の技術特徴を以って特許請求の範囲を十分に特定できない場合に製造方法を以って物の発明を特定しているクレーム(以下、「真正PBPクレーム」とする)については、「物同一説」を採用し、新規性・進歩性判断において製法は考慮されず、物そのものにより決定される。

【2004年版専利侵害鑑定要点】

まず、この専利侵害鑑定要点は司法機関である裁判所が行政機関である台湾特許庁に対して作成を依頼したものだが、裁判所に対する法的拘束力はない。裁判所はあくまで専利侵害鑑定要点を参考にすることができる、という位置付けである。

台湾特許庁作成の「専利侵害鑑定要点」では、PBPクレームの解釈(技術的範囲の解釈)について、以下のような簡単な記述にとどまる。「製造方法により物の特許請求の範囲を特定する場合、その特許権の範囲は原則的に、特許請求の範囲に記載された製造方法によって与えられた特性を有する最終物に限定しなければならない。」(「2004年版専利侵害鑑定要点改正案」第33頁)。

一見すると「発明の技術的範囲は製造方法により製造された物に限定されるものとして解釈・確定されるべき」というようにも読み取れるが、一方で「特性を有する最終物」に重点を置けば、特性を基準とし製造方法は必ずしも同一である必要はない、とも解釈できる。

つまり、この規定は記載が過度に簡略なためクレームに記載された製造方法に限定されるか、それとも製造方法は問わずその物と特性が同一である物と解釈されるかについて、明確に規定していない。結果として、裁判所が各事件においてPBPクレームを解釈する際に、異なる判断基準が存在することとなっている。

(知的財産局は「2015年版専利侵害鑑定要点改正案」において、この「2004年版専利侵害鑑定要点改正案」の規定は真正PBPクレームであれ不真正PBPクレームであれ一律に「物同一説」を採用したものである、即ち権利範囲は製法の制限を受けない規定である、と記載している)

 

【知的財産裁判所判例】

侵害訴訟においてPBPクレームがどう解釈されるかについて、実際の判決を紹介する。

(知的財産裁判所2011年民専訴第25、26号判決)

知的財産裁判所は判決において、「請求項1、9は製造方法により物の特許請求の範囲を特定したものであり、専利侵害鑑定要点第33頁記載の内容を参考にすれば、その特許権の範囲は原則的に特許請求の範囲に記載された製造方法によって与えられた特性を有する最終物に限定しなければならない、そして係争専利の明細書内容によれば、…(略)…、請求項1、9の『電気めっき方式』は特許範囲を限定する一要件としており、当該要件は被告製品の『陽極処理方式』とは異なる。」と述べた。つまりクレームに記載された「電気めっき方式」が考慮され、別の方法「陽極処理方式」で製造された被告製品は原告の特許権を侵害しない、と認定されている。

ただし注意すべき点として、本判決は製造方法が考慮された例の1つだが、製造方法が考慮されなかったという判決が下された例もある。

上述したように専利侵害鑑定要点はあくまで参考にとどまるため、判決ではPBPクレームへの解釈において統一的な判断は示されておらず、各事件における状況、クレームに記載された製造方法の内容・重要性により結果は異なるものとなっているの。

 

【公聴会における2015年版専利侵害鑑定要点改正案】

今年の8月14日に行われた公聴会で使用された資料から、PBPクレームの解釈について今後の改正方向性を窺い知ることができるため、以下に紹介する。

改正草案として、甲案、乙案、丙案の3つの案が提示されており、各案の概要は次の通り(「2015年版専利侵害鑑定要点改正案」第24~26頁)。/p>

甲案:原則は「製法同一説」、特別の事情がある場合は「物同一説」

特許権の範囲は請求項の記載を基準としなければならないため、請求項の権利範囲を認定する際は請求項に記載された文字を基準としなければならない。つまり、請求項を解釈する際、請求項に記載された文字は発明の特許権範囲を具体的に認定するものであると判断しなければならない。PBPクレームではその物の製造方法が記載されているのであるから、その物の権利範囲は、請求項に記載された製造方法以外の製造方法を利用して製造されたものは含まれず、請求項に記載された製造方法により製造された物に限定して解釈しなければならない

しかし、出願時に製造方法以外の技術特徴を以って特許請求の範囲を容易に特定できない又は不可能であり、製造方法によって物の発明を特定する必要がある場合、請求項には特定の製造方法が記載されてはいるがそれは単に物の発明を特定することが目的であるに過ぎないため、特許権の範囲は請求項に記載された特定の製造方法で製造された物に限定されず、請求項に記載された製造方法によって与えられた特性を有する物と同一の構造及び特性を有する全ての物を含まれなければならない。即ち、異なる製造方法で製造されてはいるものの同一の構造及び特性を有する物は、当該特許権の範囲に属する。

PBPクレームの出願時に製造方法以外の技術特徴を以って特許請求の範囲を容易に特定できない又は不可能であることを権利者が主張する場合、証拠を提出し証明しなければならない。権利者が上記事実を証明できない場合、特許権の範囲は請求項に記載された特定の製造方法で製造された物に限定される。

・乙案:一律に「物同一説」を採用

PBPクレームの解釈は、物の製造方法が記載されていたとしても、その特許権の範囲は請求項に記載された製造方法によって与えられた特性を有する物と同一の構造及び特性を有する全ての物を含まなければならず、製造方法の制約を受けない

・丙案:一律に「製法同一説」を採用

特許権の範囲は請求項の記載を基準としなければならないため、請求項の権利範囲を認定する際は請求項に記載された文字を基準としなければならない。つまり、請求項を解釈する際、請求項に記載された文字は発明の特許権範囲を具体的に認定するものであると判断しなければならない。

PBPクレームではその物の製造方法が記載されているのであるから、その物の権利範囲は、請求項に記載された製造方法以外の製造方法を利用して製造されたものは含まれず、請求項に記載された製造方法により製造された物に限定して解釈しなければならない

甲案は台湾特許庁による提案であり、甲案が採用される可能性が高くなっている

ただ、現在はまだ草案段階のためあくまで予定であり、今後の状況によっては別案が採用される可能性もある。

 

【今後の戦略提案】

第三者が異なる製法を用いて同一の物を製造したときに、発明を保護し産業の発達に寄与するという特許法の本旨から考えると、「真正PBPクレーム」については「物同一説」を採り特許権侵害を構成すると判断することが、理にかなっている。しかし台湾ではPBPクレームの発達・増加に伴い、「不真正PBPクレーム」が「真正PBPクレーム」よりも相当多いという事態になっている。よって、公聴会に参加したある裁判官は「製法同一説」を採用すべきであると主張していた。

「2015年版専利侵害鑑定要点」が公告されれば、おそらく甲案が採用されると思われる。即ち、原則は「製法同一説」、特別の事情がある場合は「物同一説」という基準になる。

ただし現在の実務において、侵害訴訟で被告より無効の抗弁を主張され、権利者である原告は訴訟中に自らの権利を防御するためクレームに記載された製造方法によって発明を特定する必要があるという事実を証明するという状況がよくある。よって甲案が採用されたとしても、権利者によるこの証明が成功すれば、結局は丙案(即ち「製法同一説」)と同じとなる。

このほか、出願段階における拒絶理由に対する意見書、無効審判における答弁書等の資料は特許請求の範囲を解釈する内部証拠ともなる。つまり、PBPクレームによる記載を採用し出願を行った場合、拒絶理由の意見書、無効審判の答弁書、侵害訴訟における無効の抗弁に対する反論のいずれにおいても、全面的な戦略性を検討しなければならない。

このほか、現時点で台湾知的財産局は専利審査基準中にあるPBPクレーム明確性用件に対して修正を行う、とは述べていない。本所も最新の動向を随時確認し、新たな進展があれば別途報告する予定である。

 

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