台湾商標法 最新改正草案の概要

台湾専利法が今年11月1日に施行されたばかりであるが、台湾特許庁では現在商標法改正の検討を進めている。2018年から検討が開始されており、専門家会議や公聴会実施などを経て、改正案の概要が徐々に固まってきている。そして先日、最新の改正案の内容が公表されたため、以下に重要な事項の概要を紹介する。なお、あくまで改正草案であり現在もまだ意見募集をしていることから、今後また内容変更の可能性があることをご了承いただきたい。

【代理人資格】(第6条)

現行規定 改正草案
国内に住所を有しなければならない。 商標代理人は国内に住所を有しなければならない。また商標代理業務執行を専業とし、以下のいずれかを満たす場合に限る。
  1. 弁護士、又はその他法により商標代理業務を執行できる。
  2. 商標登録出願及びその他手続きに関する事務の専門知識を有する。
前項商標代理人の登録条件、管理施策、登録の抹消又は取消及びその他関連事項に関する規定は主務機関が定める。

商標に関する手続きは出願人自ら行うこともできるが、代理人を選定することも可能である。現行規定では商標の代理人について、国内に住所を有することのみを条件としており、弁理士や弁護士以外の者も商標の代理人となることができる(なお専利の場合、代理人資格を有する者は専利師、弁護士及び専利師法施行前に専利代理人証書を所持する者に限られている)。極端に言えば、商標について何ら知識のない者でも、商標に関する代理人となることができるのが現状である。これは、商標を専門とする資格が存在しないことに起因すると思われる。なお、日本の弁理士に相当する資格は台湾では専利師であるが、専利師はあくまで特・実・意の「専利」を専門とする資格であり、専利師法においても商標については触れられていない(専利師試験においても商標は試験科目に含まれていない)。

改正草案では商標の代理人となることができる者は、弁護士や会計士など、商標代理業務を行うことができると法律で規定されている者か、商標に関する専門知識を有する者に限る、とされた。こうした者の具体的な条件については、まだ明らかにされていない。

【加速審査】(第19条第8項)

現行規定 改正草案
なし 商標登録出願において、即時に権利を取得する必要があると認められる場合、出願時に事実及び理由を明らかにしなければならない。この場合、商標専属期間は加速審査を行うことができる。

現在、商標には日本の早期審査のような審査期間を短縮する方法は存在しない(専利にはPPHや加速審査AEPが存在する)。改正草案では、権利の即時取得が必要な場合は、申請により加速審査が行われることが規定された。具体的な要件については未定だが、台湾特許庁公布の資料には権利の即時取得が必要な場合の例として、侵害訴訟を提起されたため権利取得を要する場合や、商品の販売に対応する特殊な需要がある場合、が挙げられている。なお、今回追加される加速審査の申請には、庁費用の納付が必要であることが改正草案第104条に規定されている。

【Nominative fair use】(第36条第1項第2号)

現行規定 改正草案
なし 商業取引の慣習に符合する誠実且つ信用できる方法で、商品又は役務の使用目的を示すために、他人の商標を使用し他人の商品又は役務を示す必要がある場合。ただし、その使用の結果、関連消費者に混同誤認を生ずるおそれがある場合は、この限りでない。

商標権の効力が及ばない範囲は第36条に規定されているが(日本商標法第26条に相当)、ここにNominative fair useに関する内容が追加された。改正草案では第三者が商標権者の商品役務について言及するために、商標権者の商標を使用する場合、混同誤認の虞がないない限りは、商標権の効力を受けない、と規定されている。

【無効審判の除斥期間対象】(第58条第2項)

現行規定 改正草案
第30条第1項第9号、第11号に該当し悪意でされたもの
  1. 第4条、第29条第1項第2号及び第30条第1項第1号から第8号
  2. 第30条第1項第9号、第11号に該当し悪意でされたもの
  3. 第57条第2項に基づき無効審判が請求されたもの

現行規定では、一部の無効理由について5年間の除斥期間が定められている。今回の改正草案では、5年間の除斥期間の対象となる無効理由が大幅に追加されている。追加された無効理由は以下のとおりである。

  • 外国人の権利の享有(第4条)
  • 商品役務について慣用されている商標(第29条第1項第2号)
  • 商品役務の機能を発揮するために必要なもののみからなる商標(第30条第1項第1号)
  • その他公益的理由(第30条第1項第2~8号)
  • 他人の著作権、特許権又はその他の先の権利を侵害し、判決によりそれが確定した場合(第57条第2項)

日本では主に私益的な無効理由が除斥期間の対象となり公益的な無効理由は除斥期間の対象とならないのであるが、台湾の今回の改正草案では公益的な無効理由のほとんどが除斥期間の対象となっている。

【異議申立てについて】

これまでの会議や公聴会の資料によれば、異議申立てを廃止し無効審判に一本化するという方向で改正案の作成が進められていたが、今回公布された内容において異議申立ては廃止されずに残っている。説明資料によると、台湾特許庁では拒絶査定後の行政不服制度の見直し(訴願の廃止)、無効審判の当事者審理制への移行を検討しており、現時点で異議申立てを廃止すると、行政不服制度見直しや当事者審理制への移行との整合性が取れなくなる恐れがあるため、異議申立ての廃止を見送ったとされている。

なお行政不服制度の見直し(訴願の廃止)、無効審判の当事者審理制移行の詳細については、後日また紹介する予定である。

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