中国 記載要件に関する判例(ポリケイ酸ナトリウム調製方法事件)

Vol.19(2014年7月3日)

事件の概要

発明の名称を「ケイ酸ナトリウムの調製方法」とする特許権(本件特許)に対して新規性違反、進歩性違反及び記載要件違反を理由として無効審判が請求され、審理の結果請求棄却審決が下された。本件はその審決取消訴訟である。一審及び二審のいずれにおいても、本件は有効であると認定されている。以下では記載要件違反の部分について紹介する((2006)一中行初字第1023号、(2007)高行終字第221号)。

本件発明の内容

以下に本件請求項1に係る発明(本件発明)の内容を示す

硅砂と炭酸ナトリウムを1:(1.75~1.85)(重量比)で混合し、混合粉料を溶鉱炉で2~3.5時間加熱し、温度950℃~1100℃で制御し、脱水熔聚させ、聚合反応を行うことにより生成されたポリケイ酸ナトリウムを冷却、粉砕を経ることで調製されることを特徴とする、磁器解膠剤を用いるポリケイ酸ナトリウムの調製方法。

裁判所の見解

専利法第26条第3項は、明細書で十分に発明の内容を開示することを求めている。「ケイ酸ナトリウムは新しい化学製品であり、本発明において化学構造の定性分析データやスペクトル図表が開示されていないため、明細書記載の方法に基づき調製された製品がケイ酸ナトリウムであると確定するのは困難である」と審判請求人は主張する。ここで本件発明の請求対象は、磁器解膠剤を用いてポリケイ酸ナトリウムを調製する方法であり、製品(ポリケイ酸ナトリウム)そのものではない、と認定した。

審査指南における化学方法発明の開示の規定によれば、物質の調製方法であれその他の方法であれ、化学方法発明は何れも、当業者が明細書で開示された方法に基いて発明を実施する際に当該発明における技術問題を解決できるようにするために、明細書において使用する原料物質・技術工程・技術条件を開示しなければならず、必要であれば目的物質の機能に対する影響も開示しなければならない。一方で、当該方法を用いて調整される製品の化学構造に関する定性分析データとスペクトル図表については、開示することは必須とはされていない。本件発明の明細書では最終調製物を調製する際に使用する原料・原料配合比・温度・時間等の技術数値が提供されており、さらに具体的な実施例と調製物の試験対象数値も開示されている。つまり、当業者は創造性の労働を要することなく請求項1・2で請求されている技術内容を実施することができる。よって、本発明は専利法第26条第3項の規定を満たす。

弊所コメント

化学分野の発明に関して、「中国専利審査指南」では明細書が発明内容を十分に開示しているかという点について、「化学製品発明」と「化学方法発明」では特別に異なる規定を設けている。化合物発明について「中国専利審査指南」の規定は次の通りである。「明細書では化合物の化学名称及び構造式(各種官能企・分子立体構造等を含む)又は分子式を説明しなければならない。化学結合の説明は当業者が当該化合物を確認できる程度に明確でなければならない。さらに、保護を請求する化合物が明確に確認されるために、発明が解決しようとする技術問題に関する化学・物理機能数値(例えば各種定性又は定量資料やスペクトル図表等)も記載しなければならない。」(第二部第十章第3.1)

これに対し化学方法発明について「中国専利審査指南」の規定は次の通りである。「物質の調製方法であれその他の方法であれ、化学方法発明は何れも、当業者が明細書で開示された方法に基いて発明を実施する際に当該発明における技術問題を解決できるようにするために、明細書において使用する原料物質・技術工程・技術条件を開示しなければならず、必要であれば目的物質の機能に対する影響も開示しなければならない」(第二部第十章第3.2)。

記載要件に関し、「化学製品発明」と「化学方法発明」では異なる基準を設けている点は、他国とは異なる中国独自の特徴である。従って、中国において記載要件違反を主張する場合には、発明の対象が「化学製品発明」と「化学方法発明」なのかをきちんと見極めたうえで、審査基準に沿った主張を展開する必要がある

 

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