台湾 著名商標の類否判断に関する判例(三井MITSUI事件)

Vol.21(2014年9月11日)

不登録事由の1つとして台湾商標法第30条第1項第11号にはて「他人の著名な商標又は標章と同一又は類似のもので、関連公衆に混同誤認を生じさせるおそれがあるもの、又は著名な商標又は標章の識別力又は信用を損なうおそれがあるもの。」と規定されている。本号は著名商標保護を趣旨とした規定であり、商品役務の類否は問われないが、これは著名の程度に連動するものと解されるのが一般的である。本件では日本の三井物産の著名商標により30条1項11号が適用された事例であり、著名商標の認定や本号の適用に関する判断基準が示されている(知的財産裁判所2013年行商訴字第154号)。

事件の概要

Xは指定商品を35類の「食品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、飲料の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」等として以下の本件商標を出願したところ、「三井住友」、「三井農林Mitsui Norin」・「三井銘茶Mitsui Green Tea」等の先行商標(以下「引用商標」)により30条1項11号が適用され拒絶査定が下された。本件はその取消訴訟である。最終的に裁判所は拒絶査定を維持する判決を下した。

本件商標 引用商標

知的財産裁判所見解

引用商標の著名性について

「引用商標」の商標権者である三井物産は有名な日本企業グループの一つであり、台湾で20件以上の商標権を保有している。三井物産は各雑誌において貿易企業ランキングで上位に位置しており、また引用商標は複数の訴願決定書や裁判所判決において著名商標であると認定されている。したがって引用商標は我が国の関連業者及び消費者に普遍的に認定されている著名商標であると認められる。

Xは、「引用商標が著名であると認定された訴願決定書及び判決が下され時期は2004年12月3日、2007年8月31日、1990年3月15日であり、これらは本件商標の出願日である2010年11月19日とは少なくとも3年以上の期間の差がある。著名商標の著名性は時間の経過とともに変化するはずで一定期間が経過した決定書や判決は引用すべきでない」とは主張する。しかし、「著名商標の著名程度に関し、継続的に使用されていないという状況であっても、相当の期間が経過し、かつ市場の商品の入れ替わりにより、徐々に関連消費者の印象から消えていくのであり、短期間に商標が著名から非著名に変化したと断定できるものではない。」(最高行政裁判所100年度判字第1140号判決意旨参照)。ここでいう相当の期間とは、事例に合わせて観察しなければならず、一般的にはある程度の長い時間が経過して初めて消費者の印象から消えていくことになる。更に引用商標の指定商品役務は多岐に渡ることに加え、「三井」等文字の商標も市場で使用されており、消費者の印象から消失したとは認定し難い。

商標の類否について

本件商標における「三井」という文字はデザインが施され独特の形象が付されたフォントであるが、関連消費者は観察時にそれが「三井」という二文字であると識別することができる。よってこのような特殊なデザインによる文字であっても、中国語の範囲を超えて図形概念のレベルまで達しているとは認められない。引用商標は「農林」及びアルファベット「Norin」部分、又は「銘茶」及びアルファベット「Green Tea」部分を有するが、これらの文字は指定商品役務に対し記述的であるという印象を容易に消費者に与える。一方、両商標において関連消費者が最も注目する部分は「三井」及び「MITSUI」である。従って、時と場所を異にして観察する隔離観察及び全体観察によれば、関連消費者は本件商標と引用商標とが同一系列の商標であるという連想を抱き、商品又は役務の出所が同一である又は同一ではないが関連があると誤認する恐れがあり、両者は類似商標である。

指定商品役務について

Xは、「本件商標の指定商品は第35類の「食品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、飲料の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」等であるのに対し、引用商標「三井農林Mitsui Norin」の指定商品は第30類・第32類、「三井銘茶Mitsui Green Tea」の指定商品は第30類であり、両者は完全に異なることから関連消費者にも混同誤認を生じない」と主張する。

商標が表彰する各商品又は役務が混同誤認の恐れを生じるか否かの判断は、商標の著名程度及び識別力と密接な関係があり相互に影響し合う。商標がより識別力を有しより著名であればあるほど、区分を超えて保護される商品範囲はより広くなり、混同誤認のおそれが生じると認定しやすくなる。逆に、著名性が低い商標であれば、区分を超えて保護される範囲は狭くなる。三井物産は多角化経営を進めていることを鑑みれば、「食料本部」・「食品事業本部」の業務には本件商標の指定商品役務「食品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供、飲料の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」が実質的に含まれることを意味する。従って、本件商標と引用商標が指定する商品役務は異なるが、本件の引用商標は著名性が高い著名商標に属し、その著名性に基づけば保護される商品範囲は自ずと比較的広範にならなくてはならず、実際に指定された商品区分に限られることはない。

弊所コメント

商標が著名か否かは国内消費者の認知を基準としなければならない。国内消費者がその商標の存在を普遍的に認知することができるのは、通常は国内で広範に使用された結果である。商標が著名であると主張する場合は原則として、該当商標の国内使用に関する関連証拠を提出しなければならない。しかし、我が国で未だ使用されていない又は我が国での実際の使用状況が広範ではないとしても、該等商標が国外で広範に使用されたことにより築かれた知名度が我が国へも達していると客観証拠で明らかにされる場合は、著名商標と認定されうる可能性がある。商標の知名度が我が国へも達しているか否かについては、商標が使用された地域範囲が我が国と密接な関係にあるか、例えば経済貿易や旅行において頻繁な関わりがあるか、文化・言語が近いか等の要素を考慮し総合的に判断される。該当商標の商品が我が国での販売を通じ新聞雑誌で広範に渡り報道される又は中国語インターネットで広範、頻繁に論じられる等も、該等商標の知名度が我が国へも達しているか否かについての参考要素となり得る。

本件では出願された商標の指定役務は食品の小売り等であり、引用商標の指定商品役務と区分は異なっていたが、裁判所は引用商標権者が台湾で幅広い業務において商標を使用していたこと、三井物産の台湾HPに記載の組織構成(食料本部、食品事業本部)及び当該部の紹介ページを検討した上で、食品の小売り業との関連性を認定している。仮に他人の著名商標と自身の商標が類似するが商品役務はそこまで類似しないか微妙な場合であっても、本件の事例のように引用商標の知名度が高ければ高いほど、類似と判断される商品役務の外縁が広がることが予想されるため、注意が必要である。

キーワード:商標 判決紹介 台湾 商標類否 商品役務

 

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