台湾 地模様商標の識別力に関する判例(松本澤地模様事件)

Vol.22(2014年11月3日)

日本において地模様からなる商標は原則として商標法第3条第1項第6号に該当するため登録を受けることができない。台湾も同様に地模様からなる商標は自他商品識別力を有しないとされ、原則として登録を受けることができず、使用による識別力を獲得した場合は例外的に登録が認められる。本件は地模様商標の識別力に関する事例であるが、使用による識別力も認められなかった事例である。

事件の概要

Xは指定商品を18類の「財布、かばん」等として以下の本件商標を出願したところ、本件商標が人々に与える印象は単なる装飾に過ぎず識別力を有さず、また使用による識別力の獲得も認められないとれ、拒絶査定が下された。本件はその取消訴訟である。最終的に裁判所は拒絶査定を維持する判決を下した(知的財産裁判所2014年度行商訴第29号)。

本件商標 本件商標が付されたかばん X関連企業の登録商標1 X関連企業の登録商標2 X関連企業の登録商標3

知的財産裁判所見解

識別力について

本件商標は、デザイン化された菱形の図4つが上下左右にそれぞれ配置されて1つの大きな菱形を構成するものである。左の菱形は黒地で白色の図、その他は白地で黒色の図であり、上下の菱形の柄は同じである。商標全体としてみればデザインが施された装飾性の図形でありこれが指定商品に使用された場合を考慮するに、革商品又は傘は、線(ストライプ)、幾何学模様又は柄図形を外観デザインとしていることは一般的であり、消費者は通常これを商品外観の装飾又は背景と見なすのであり、商品を表彰する標識とは認識しないことから、本件商標は識別力を有しない。

Xは、「本件商標を構成する各菱形部分について、Xの関連企業が指定商品第18類とし出願し登録されていることから、本件商標を構成する各菱形部分については識別力を有することを意味する(1066756、1066757及び1066758号)。本件商標はこれら登録商標の組み合わせであるため、本件商標も識別力は有する。」と主張する。しかし、ある商標に識別力があるか否かは、商標全体の外観が消費者に与える印象により総合判断すべきであり、商標が複数の異なる単一図形で構成されている場合、たとえ各単一図形そのものが識別力を有するとしても、これら各単一図形を組み合わせた後の商標は必ずしも識別力を有するとは限らず、その逆もまた然りである。例えば、識別力を有する単一の柄の図形複数個を、連続して無制限に並べることで組み合わせた商標について、たとえ単一の図形に識別力があったとしても、組み合わせた後の柄は商品の外観の装飾である又は背景と消費者に見なされることから、識別力を有しない。本件商標を構成する一部である図形が登録されているという事実は、本件商標が識別力を有しないという判断の妨げにはならない。

使用による識別力獲得について

Xの提出した資料によれば、商標が付された手提げ袋等商品の外観には、本件商標のみならず他の柄の図形も付されている。言い換えれば、本件商標は使用されている革商品等商品の外観の一部分にすぎず、他の部分と比較しても本件商標が要部であるとは認め難い。例を挙げれば、消費者がある柄は有名ブランド「GUCCI」の商標であると認識したとしても、その一部分の「G」を見ただけで当該商品の出所が「GUCCI」であると連想できるわけではない。

Xは、「LV、GUCCI、COACH、BURBERRYなどはいずれも特定の柄又は図形が商標登録されており、提出された使用証拠の数量も多くはない」と主張する。しかしXが挙げた例はいずれも長い歴史を有する世界的有名ブランドであり、消費者の当該ブランドに対する注目度は本件商標とは異なる。また関連使用証拠が消費者に抱かせる印象及び関連使用証拠とブランドの相関程度も異なる。使用による識別力を獲得したか否かは、証拠の数量により論じ得るほど単純なものではない。

弊所コメント

本件は地模様商標の先天的な登録困難性を示した事例といえる。原則としては、地模様商標はそもそも識別力を有さず、使用による識別力を獲得しなければ登録を受けることができない。使用による識別力獲得の立証においても通常の商標に比べ困難を伴う。なぜならば、地模様商標を商品等に付したとしても、それは出所を示す標識として機能しておらず単なる装飾に過ぎないため消費者に支配的な印象を残すとはいえないと認定されやすいためである。

本件では地模様を構成する部分的な図柄については登録を受けていることを主張しているが、地模様商標全体の識別力認定の判断に資するものとはなっていない。また本件の地模様商標は世界的著名ブランドとは言い難いこともあり、使用による識別力獲得も否定されている。本件の事例からわかるように、地模様商標の出願を検討する場合には、識別力の点で困難性が存在することを改めて認識すべきである。

キーワード:商標 判決紹介 台湾 識別力

登入

登入成功