台湾「2017年版無効審判審査基準」改訂要点紹介

台湾知的財産局は2016年12月29日に「専利審査基準」の第五編無効審判部分の改訂版(以下、「2017年版無効審判審査基準」とする。)を公表し、この改訂版は2017年1月1日から施行されている。以下に今回の改訂要点を紹介する。

  1. 知的財産局による職権審理発動の態様を削減

    2014年の専利法改正時に「職権審理制度」を導入し、第75条に「特許主務官庁は、無効審判を審理する際、無効審判請求の声明の範囲内において、職権で、無効審判請求人が提出していない理由及び証拠を斟酌することができ、さらに、期限を指定して答弁するよう特許権者に通知しなければならない。期限を過ぎても答弁がない場合、ただちに審理する。」と規定されるとともに、審査基準において知的財産局が職権審理を発動できる5種類の態様が示された。今回の審査基準改訂では、審査官による職権審理の行き過ぎた濫用を避けるため、職権審理を発動できる態様として列挙されたものから(5)のみを残し、残りの4種類を削除した。即ち、確定した民事侵害訴訟判決において係争専利請求項の無効理由又は証拠が示されているとき、知的財産局は職権審理を発動できる、という態様のみが残された。例えば、無効審判請求人が係争専利請求項1は証拠1により進歩性を有しないと主張しているが、確定した民事判決において証拠1と証拠2の組合せにより同一専利請求項1は進歩性を有しないと認定された場合、知的財産局は証拠1と証拠2の組合せにより請求項1が進歩性を有しないことについて、職権審理を発動することができ、権利者に答弁を求めることができる。

  2. 例外的に訂正を認め無効審判請求棄却審決となる「数値限定発明」の例を示す

    知的財産局は2014年の専利審査基準改訂時に、「無効審判請求人が法定無効審判請求事由のうち以下に列挙したもので争う場合、係争専利について最新の公告版の専利権に瑕疵があり、当該公告版は確かに審査の誤りがあると判断された時、無効審判成立として無効審決としなければならない、ただし訂正により上述の瑕疵を治癒することを例外的に許可することで、専利権者は無効審判請求不成立の維持審決結果を獲得することができる」と規定した。

    • 特許又は実用新案登録出願において、出願時の明細書、特許請求の範囲、又は図面で開示された範囲を超えて補正がされた場合。意匠登録出願において、出願時の明細書又は図面で開示された範囲を超えて補正がされた場合。
    • 中国語書面に対して、出願時の外国語書面で開示された範囲を超えて補正がされた場合。
    • 出願段階における誤訳の訂正が、出願時の外国語書面で開示された範囲を超えている場合。
    • 公告後の誤訳訂正が、出願時の外国語書面で開示された範囲を超えている場合。
    • 特許又は実用新案の分割出願が、出願時の明細書、特許請求の範囲又は図面で開示された範囲を超えている場合。意匠の分割出願が、出願時の明細書又は図面で開示された範囲を超えている場合。
    • 特許又は実用新案の変更出願が、出願時の明細書、特許請求の範囲又は図面で開示された範囲を超えている場合。意匠の変更出願が、出願時の明細書又は図面で開示された範囲を超えている場合。
    • 特許又は実用新案の訂正が、出願時の明細書、特許請求の範囲又は図面で開示された範囲を超えている場合。意匠の訂正が、出願時の明細書又は図面で開示された範囲を超えている場合。
    • 特許又は実用新案の訂正によって、公告時の特許請求の範囲が実質的に拡大又は変更された場合。意匠の訂正によって、公告時の図面が実質的に拡大又は変更された場合。

    今回の審査基準改訂では、例外的に訂正を認め無効審判請求棄却審決となる「数値限定発明」の例を以下の通り示した。特許請求の範囲に某反応温度範囲が20℃~90℃と記載され、出願時明細書には20℃~90℃範囲内の特定値40℃、60度及び80℃が記載されていた。審査において出願人は特許請求の範囲の当該反応温度範囲を20℃~85℃へと補正を行い、審査の瑕疵により当該補正が認められ、専利権が設定登録・公告された。その後、第三者が公告された特許請求の範囲の反応温度範囲の上限85℃は新規事項の追加であり出願時明細書、特許請求の範囲又は図面で開示された範囲を超えているため専利法第43条第2項に違反するとして無効審判を請求した。ここで権利者が特許請求の範囲の当該反応温度範囲を20℃~80℃に訂正することを請求した場合、訂正後の反応温度範囲上限80℃は出願時明細書に記載されているため、この訂正は認められ、無効事由も訂正により解消されることになる。

    ここで注意すべきは、訂正が認められるか否かは、公告時の特許請求の範囲が実質的に変更又は拡大されているどうかも要件として判断される。

  3. 先にされた訂正が例外的にみなし取下げとならない状況を明確に規定

    専利法第77条第2項で「同一の無効審判審理期間に、2以上の訂正請求がある場合、先にされた訂正の請求は取り下げられたものとみなす。」と規定されている。今回の改正では、知的財産局が実務上発生した特殊な状況に対応できるようにするため、先にされた訂正の請求が取り下げられたものとみなされない2種類の例外態様を明確に規定した。

    1. 訂正が頁差換え形式ではない場合、提出された訂正に係る明細書、特許請求の範囲又は図面の内容に重複がなく、且つ衝突又は不明瞭もない場合(例:1月1日に明細書を訂正、3月1日に特許請求の範囲を訂正)

      原則として権利者の善意を探求し、意見が示されないときは、先にされた訂正と後にされた訂正を合併して、審理を進めなければならない。

    2. 訂正が頁差換え形式である場合、提出された訂正に係る明細書、特許請求の範囲又は図面の頁に重複がなく、且つ衝突又は不明瞭もない場合(例:1月1日に明細書第1頁から第5頁を訂正、3月1日に明細書第6頁から第10頁を訂正)

      原則として権利者の善意を探求し、意見が示されないときは、先にされた訂正頁と後にされた訂正頁のいずれに対しても、審理を進めなければならない。

  4. 外国語証拠又はインターネット資料証拠の立証責任を明確化

    今回の改訂では、証拠が外国語書証拠である場合、原則として抄訳を提出すればよいことが規定された。ただし、無効審判の審理において外国語証拠の全ての内容が必要であると考慮された場合、例えば進歩性の審理で、発明が解決しようとする課題、技術分野が同一又は関連するか否か、証拠を組合わせる動機についての教示又は提案等を考慮する必要がある場合、審理において一部のみを見て全体を判断することで誤解が発生しないよう、無効審判請求人に当該外国語証拠の全文中国語翻訳を提出するよう通知しなければならない。

    この他、インターネット資料証拠に関し次のように規定された。

    当事者が提出するインターネット資料は明確な公開日が記載されていなければならない、又は、情報を公開若しくは管理するウェブサイトが出す証明等その他の文書をもって公開日の証左としなければならない。コンピュータが自動で生成又は注記するタイムスタンプ、例えばブログの文章が発表された時間又はウィキペディアの編集履歴は、公開日と推定することができる。知的財産局が公開日又はその真実性に疑いがあると判断した場合、当事者に証拠資料を提出するよう通知することに加え、職権で調査を行うことができる、たとえば関連部門に意見を示すよう通知を出す又はインターネットアーカイブ、検索エンジン若しくはその他インターネットツール/ソフトウェアを用いて、調査することができる。また、インターネットアーカイブを用いてインターネット資料を調査する際、インターネット資料にプラグイン(例えばFlash)が含まれる場合、インターネットアーカイブを用いて取得した資料と本来の資料が一致しない場合が考えられる。この場合、その他のインターネットツールによる相互参照や、当事者に補足説明を求める等により、総合的に判断する。

キーワード:特許法改正
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