台湾知的財産及び商事裁判所による逆転判決-ASUSのインターフェース接続機構事件から見る裁判所の請求項の広義解釈および進歩性判断の傾向

Vol.160(2026年10月19日)

台湾知的財産及び商事裁判所は最近、MSI(微星科技)が、ASUS(華碩電脳)の有する「インターフェース接続機構」に関する実用新案に対し無効審判請求を行った事件において、台湾特許庁が下した「一部無効審判請求不成立」の処分を覆した(台湾知的財産及び商事裁判所114年度行専訴字第37号判決)。

本件実用新案では、従属項において「係合部」および「押圧部」等の細かな構造的特徴が組み込まれていたものの、それらの具体的構造、操作方式や相対的な位置関係についてさらなる限定はされていなかった。そのため、裁判所は、当該固定するための構造は通常の技術手段の単なる変更に過ぎず、当業者であれば容易に想到できるものであり、進歩性を有しないと判断した。本件における裁判所の見解は、出願人にとって注目に値する。

事件経緯

 

本件実用新案は、ASUSにより出願された「インターフェース接続機構」に関する実用新案(台湾実用新案登録番号:M609050、以下「本件実用新案」という)であり、主にM.2インターフェース装置(例えばSSD、ネットワークカード)の装着に用いられるものである。MSIは、本件実用新案に対して無効審判を請求した。台湾特許庁(被告)は審理後、本件実用新案の請求項1~3、8~11については無効審判請求成立とし、請求項4~7については有効を維持し、無効審判請求不成立と認定した。

ASUSおよびMSIは、それぞれ自身に不利な処分について行政訴訟を提起し、原処分に対する取消請求を行った。台湾知的財産及び商事裁判所は審理後、請求項1~3、8~11について無効審判請求成立とした台湾特許庁の処分を維持したが(台湾知的財産及び商事裁判所114年度行専訴字第36号判決)、請求項4~7、すなわち係合部および押圧部の細部に関わる部分については、台湾特許庁の判断を覆し、進歩性を有しないとして台湾特許庁の処分を取り消した(台湾知的財産及び商事裁判所114年度行専訴字第37号判決)。最終的に、本件実用新案の請求項(計11項)は全て無効と判断された。

本稿では、台湾特許庁と異なる判断結果となった本件実用新案の請求項4~7の部分に焦点を当て、台湾知的財産及び商事裁判所がいかなる理由により進歩性を有しないとの判断を下したのかを分析する。

本件実用新案の主な技術的特徴

 

本件実用新案に係る考案は、M.2インターフェースに用いられるインターフェース接続機構である。当該インターフェース接続機構において、使用者は回転係止構造を利用することでM.2インターフェース装置を迅速に取り付ける、又は、取り外すことができ、ドライバー等の工具を使用する必要がないため、M.2インターフェース装置の交換または組立てに要する時間を短縮することができ、作業の難易度も下げることができる。

無効審判請求に係る証拠

 

1、証拠2

2020年4月1日に公告された台湾特許第I690254号「マザーボードモジュールおよび電子装置」。

2、証拠3

2017年5月21日に公告された台湾特許第I584132号「マザーボードモジュール」。

3、証拠4

2017年12月28日に公開された米国特許第US2017/0371383号「STORAGE DRIVE RISER」。

本件実用新案および無効審判請求に係る証拠の対比表

 

要件

本件実用新案【請求項1】

対応する無効証拠

1A

M.2インターフェース装置を装着するためのインターフェース接続機構であって、前記インターフェース接続機構は、

証拠2、3、4

1B

前記M.2インターフェース装置を接続するためのコネクタと、第1孔部と、前記コネクタと前記第1孔部との間に配列されている複数の第2孔部と、を含む回路基板と、

証拠2、3、4

1C

前記第1孔部に設けられる第1固定柱と、

証拠2、3、4

1D

前記複数の第2孔部のうちのいずれか1つに着脱可能に設けられる第2固定柱と、

証拠2、3、4

1E

前記第1固定柱または前記第2固定柱に、着脱可能かつ回転可能に設けられる回転係止構造と、を含み、

証拠4

1F

前記回転係止構造が前記第1固定柱または前記第2固定柱に設けられたとき、前記回転係止構造は、前記第1固定柱の軸心または前記第2固定柱の軸心を中心として回転することにより、前記M.2インターフェース装置を固定するように構成されている、インターフェース接続機構。

証拠4

 

本件実用新案の請求項4は、請求項1に記載されている全ての技術的特徴をさらに限定する従属項であり、「前記回転係止構造は、係合部および押圧部を含み、前記係合部は前記第1固定柱または前記第2固定柱に係合するためのものであり、前記押圧部は前記M.2インターフェース装置を押圧するためのものである」とさらに限定している。

本件の争点は、証拠2、4の組合せ、および証拠3、4の組合せが、本件実用新案の請求項4~7が進歩性を有しないことを証明するに足りるか否かである。

被告および権利者の主張

 

本件実用新案の請求項4においてさらに限定された回転係止構造の「係合部」は、「係合」によって第1固定柱または第2固定柱に固定されるものであり、証拠4における固定ナット114を固定スタッド116内に挿入して螺合させる技術手段とは異なる。

本件実用新案の取付過程はより便利であり、かつ取付完了後の本件実用新案の構造はより安定していて緩みにくくなっているため、本件実用新案の請求項4の「係合」は、証拠4の「螺合」の単なる設計変更には当たらない。したがって、両者はまったく異なる発明概念である。

台湾知的財産及び商事裁判所の見解

 

1、特許請求の範囲の解釈について

本件実用新案の請求項4は請求項1の従属項であるため、裁判所は、請求項4の特許請求の範囲を解釈するにあたり、まず独立項である請求項1について解釈を行った。裁判所は、本件実用新案の請求項1では、回転係止構造が押圧部を有する旨の記載は見当たらないため、回転係止構造が押圧部を有することおよびその作用を請求項1に読み込むことは適切ではないと指摘した。その理由は以下の通りである。

「Doctrine of Claim Differentiationとは、各請求項の範囲はいずれも相対的に独立しており、それぞれ異なる範囲を有するべきであって、ある請求項において他の請求項と同一の解釈を行い、両請求項の範囲を同一にしてはならない、という原則を指す。したがって、請求項間において対応する技術的特徴が異なる用語で記載されている場合には、当該異なる用語によって画定される範囲は異なるものと推定される。また、上記原則は、請求項が包含する範囲を解釈するために用いられるものにすぎず、特許請求の範囲、明細書および包袋資料に基づいて確定される特許権の範囲を変更することはできない。このため、特許請求の範囲の解釈において、2つの請求項の権利範囲が同一となるような事情がない場合には、Doctrine of Claim Differentiationを適用する余地はない(最高行政裁判所109年度判字第130号判決の趣旨参照)。

本件実用新案の請求項1では、『前記第1固定柱または前記第2固定柱に、着脱可能かつ回転可能に設けられる回転係止構造、前記回転係止構造が前記第1固定柱または前記第2固定柱に設けられたとき、前記回転係止構造は、前記第1固定柱の軸心または前記第2固定柱の軸心を中心として回転することにより、前記M.2インターフェース装置を固定するように構成されている』と記載されている。

また、本件実用新案の請求項4には、『前記回転係止構造は、係合部および押圧部を含み、前記係合部は前記第1固定柱または前記第2固定柱に係合するためのものであり、前記押圧部は前記M.2インターフェース装置を押圧するためのものである』と記載されている。

本件実用新案の請求項1に記載された『回転係止構造』は、『回転方式により係合を行う』ものであり、本件実用新案の請求項4に記載された『前記回転係止構造は、係合部および押圧部を含む』という構成とは相違点を有するため、『Doctrine of Claim Differentiation』に合致する。

本件実用新案の請求項1では、回転係止構造が押圧部を有する旨の記載は見当たらない。したがって、当該請求項の文言を解釈するにあたり、回転係止構造が押圧部を有することおよびその作用について、請求項1の内容に含まれるものとして解釈することは適切ではない。これは、実質的に本件実用新案の明細書【0022】に記載された『回転係止構造18は、係合部182および押圧部184を含む』という内容を不当に請求項1に読み込むものであり、『読み込み禁止の原則』に反する。」

裁判所は、判決書において、特に特許請求の範囲の解釈について判断を示した。その目的は、請求項4は請求項1とは異なるものであるとし、請求項4の回転係止構造が確かに「押圧部」という特徴を含むことを認定する点にある。

2、進歩性について

権利者は、本件実用新案の回転係止構造18は、第1固定柱14または第2固定柱16に対して回転する際、係合構造によって同一の高さで回転し、互いに接近することはないと主張した。また、証拠4の作動概念は、従来のねじ固定の作動概念と同一であるのに対し、本件実用新案の部材の作動に係る発明概念は、証拠4および従来のねじ固定技術の概念とは全く異なるものであるとも主張した。しかしながら、当該主張は裁判所に採用されなかった。

裁判所は以下のように認定した。

「証拠4の【0024】に記載された記憶装置固定器104上の固定ナット114は、『突出部119』を有しており、当該『突出部119』は、本件実用新案の請求項4に係る回転係止構造の『押圧部』に対応する。

さらに、固定ナット214の保持突出部の下方内部には、固定スタッド216に螺合するための螺合部が設けられており、これにより、固定ナット214の保持突出部の下方外部が固定スタッド216を覆う構成となっている。一方、本件実用新案の係合部は、第1固定柱または第2固定柱に係合し、その一部が当該第1固定柱または第2固定柱を覆うものである。また、内ねじによる螺合方式と係合方式はいずれも一般的な接合方式であり、当業者にとって、内ねじによる螺合方式を係合方式に変更することは困難なことではなく、本件実用新案の係合部を容易に完成することができる。

以上の通り、証拠4は、本件実用新案の請求項4に係る従属的な技術的特徴を開示している。したがって、証拠2、4の組合せ、または証拠3、4の組合せはいずれも、本件実用新案の請求項4が進歩性を有しないことを証明することができるものである。」

弊所コメント
 
本件において、台湾知的財産及び商事裁判所は形式上、「読み込み禁止の原則」および「Doctrine of Claim Differentiation」を援用している。しかしながら、その実質的な核心は、裁判所が、権利者の主張する「片手操作」、「第三の部材を必要としない」、「同一の高さでの回転」、「軸方向に接近しない」および「比較的緩みにくい」といった技術上の相違点について、いずれも実際には請求項に記載されていないため、進歩性の判断において、これらを請求項の権利範囲を画定し、先行技術との相違点の基礎とする技術的特徴として用いることはできないと判断した点にある。
 
裁判所はさらに、本件実用新案の請求項4では「係合部」および「押圧部」の記載が追加されているものの、その具体的な構造形態、作動方式または相対的な位置関係が限定されていないため、引用文献の螺合構造との間に実質的な技術的相違点を形成するにはなお不十分であると認定した。この前提の下、裁判所は、「螺合」を「係合」に変更することは、通常の接合手段の置き換えにすぎず、当業者が容易に想到できる簡単な変更であって、進歩性を有しないと判断した。
 
特許と比較すると、実用新案は通常、「構造上の相違点」を有効性(新規性・進歩性)の判断基準としてより強く依拠する。したがって、出願人が特定の操作効果、組立方式または使用上の利便性によってもたらされる技術的優位性を主張しようとする場合、これらの技術的特徴について、単なる機能的記載にとどめるのではなく、可能な限り具体的な構造を示すことが望ましい。
 
弊所としては、出願人が特許ポートフォリオの構築や明細書等の出願書類を作成する際の戦略において、「請求項の構造化」と「明細書の多層化」という二本立ての防御策を採用することを推奨する。
 
1. 請求項の構造化(機能的用語の回避)
 
機構・構造に関する実用新案においては、「機能が何であるか」よりも、「構造がどのように異なるか」の方が、有効性(新規性・進歩性)を有するか否かの判断で重要となる場合が多い。請求項では、構成部材の機能を記載するだけでなく、当該構成部材の具体的な構造的特徴、空間的・相対的な位置関係および相互関係を明確に限定し、広範な機能的用語のみによる概括を避けるべきである。
 
2. 明細書における多層的・段階的な記載(防御的な退路の確保)
 
明細書には、各種の特殊な作動方式や操作フローを詳細に記載するとともに、先行技術と比較した際の当該構造の顕著な技術的効果(たとえば、「迅速に着脱可能かつ互いに接近しない構成をどのように実現しているのか」)を強調すべきである。さらに重要なのは、これらの細部の構造的特徴を、階層的に「従属項」に配置しておくことである。これにより、独立項が無効審判に直面した場合でも、実用新案の有効性を維持するための実質的な訂正余地を確保することができる。
 
また、本件は、従属項の価値が、単に名詞や機能的記載を追加することにあるのではなく、先行技術と明確に区別できる具体的な構造上の限定を追加できているかにあるということも示している。従属項が有効な技術的境界を画定できていない場合、たとえ形式的には限定内容が追加されていたとしても、裁判所は、それを通常の技術手段の簡単な設計変更にすぎないと認定し、実用新案の有効性を維持する根拠としては不十分であると判断する可能性がある。

 

 

 

 

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