中国 パラメータ・数値限定発明の均等侵害に関する判断基準と実務分析

Vol.156(2026年4月20日)

請求項において、寸法、比率、温度、濃度といった数値特徴は、通常、保護範囲を画定するための「尺度」と見なされる。その利点は公示性が強く、公衆が侵害の「ボーダーライン」を予測できる点にあるが、一方で「数値の微調整」によって極めて容易に回避されてしまう欠点もある。従来、数値は解釈に柔軟性のないものであり、均等論は適用されないと考えられてきた。しかし、中国最高人民裁判所(以下、「最高裁判所」)が近年公表した一連の規定や判決により、「数値範囲により特定された特徴について、均等論の適用を完全に排除することは適切ではない」というのが実務上の共通認識となっている。ただし、この拡張は無制限ではなく、「意図的排除に関する規定」、「貢献の原則」、「包袋禁反言の原則」によって厳しく制約されている。
 
本稿では、現行の法律規範と最高裁判所の見解に基づき、中国の裁判所がパラメータ・数値限定発明に対する均等侵害の判断で採用している裁判基準、代表的な判決、及びそこに反映された実務上の傾向を体系的に整理するとともに、特許明細書等の作成及び訴訟の攻防戦略に対する具体的なアドバイスを提供する。

一、均等論の適用による範囲拡張の限界

 
(一)、「3つの基本」+「想到容易性」という基本的な認定基準
 
 最高裁が公表した『最高人民裁判所による専利紛争事件の審理における法律適用の問題に関する若干の規定1によると、実務上、均等な特徴に該当するか否かの認定は、「3つの基本」と「想到容易性」が同時に成立するか否かが鍵となる。
 
 『最高人民裁判所による専利紛争事件の審理における法律適用の問題に関する若干の規定』第17条では、以下のように規定されている。

「専利法第59条第1項の『特許権又は実用新案権の保護範囲は、その請求項の内容を基準とし、明細書及び図面は請求項の内容を解釈するために用いることができる。』とは、専利権(筆者注:特許権や実用新案権のこと)の保護範囲は、請求項に記載された全ての技術的特徴によって確定される範囲を基準とし、当該技術的特徴と均等な特徴によって確定される範囲も含まなければならないことをいう。均等な特徴とは、記載された技術的特徴と基本的に同一の手段で、基本的に同一の機能を実現し、基本的に同一の効果を奏し、かつ当業者が被疑侵害行為の発生時に創造的労働を経ることなく想到できる特徴をいう。

 
 すなわち、「3つの基本」とは、基本的に同一の手段(means)で、基本的に同一の機能(function)を実現し、基本的に同一の効果(effect)を奏することを指し、「想到容易性」とは、当業者が創造的労働を経ることなく想到できることを指す。均等な特徴に該当するかは、「3つの基本」と「想到容易性」が同時に成立するかが鍵となる。
 
【事例1】:(2021)最高法知民終985号判決
 
 裁判所は本件において、以下のように指摘している。

 数値特徴が先行技術との差別化を図るために意図的に設定された「発明の本質的な部分」ではない場合、同一の技術的課題を解決可能で、限定された数値範囲に極めて近い数値については、その可能性が必ずしも高いとは言えないものの、依然として均等な技術特徴に属すると認定される余地がある。被疑侵害物と本件特許を比較すると、数値比率の差はわずか0.05であり、その差の範囲が10%以内であるため、自転車分野の当業者にとって、両者が採用している技術手段は基本に同一であり、かつ実現される機能や奏される効果も実質的に同一である。したがって、両者は均等な技術的特徴であると認定すべきである。

 

事件経緯

 

 原告の「深圳市富厚自行車配件有限公司」は、中国特許第CN103359238B号「伸縮はめ合管の固定装置」の特許権者である。本件特許では、「位置制限部における位置制限平面の横幅(L)が、バンドクランプの内径(R)の0.5~0.8倍である」と限定され、被疑侵害物における対応する横幅(L)はバンドクランプの内径の0.45倍であった。このことから、両者の間に均等侵害が成立するか否かが争点となった。
 
裁判所の見解

 1.「発明の本質的な部分」の判定について
  以前特許権者は、当該数値特徴を有する従属項を独立項へ組み込んだが、審査官は依然として進歩性を有しないと認定した。最終的に特許査定に至ったのは、「位置制限部の背面が弧状面を呈し、はめ合管の円形の内壁面に密着する」という構造上の特徴を追加したためである。よって、当該数値比率は本件特許を特許査定に導いた発明の本質的な部分ではない。

 2. 差異の予見可能性について
  0.45と0.5の差はわずか0.05(比率の差が10%以内)であり、当業者にとって、この種の微調整は創造的労働を要するものではない。
 
 3. 機能と効果の一致性について
  幅が0.45倍であっても挿入管の平面構造と密着させることができ、「回転の制限」や「安定的な固定」といった効果を実現することができる。
 
 【事例2】:(2021)最高法知民終373号判決
 
 本件において裁判所は、「絶対的な数値」よりも「相対的な比率」の方が重要であり、マクロな大型設備においては、数値の許容度はミクロな化学組成よりもはるかに高いと指摘した。
 
事件の争点
 本件は大型トンネルボーリングマシンに関するもので、本件特許の請求項において、「支柱の幅は固定値の1.05mとする」と限定していた。一方、被疑侵害側における支柱の幅は1.06mであり、この10mmの差が均等侵害を構成するか否かが争点となった。
 
裁判所の見解
 両者は数値上一致せず、10mmの差がある。しかし、このような微小な差は、大型トンネルボーリングマシンの支柱において、実現される機能や奏される効果に実質的な違いを生じさせるものではない。そのため、10mmの差により、被疑侵害側の施工方法と本件特許の技術的特徴との間に、手段・機能・効果において実質的な違いが生じることを証明できる証拠が提出されていない以上、両者の間には均等侵害が成立する。
 
(二)、「意図的排除の原則」
 
 1. 当該原則の概念と法的根拠
 
 均等論の適用によって、技術発展の予測不可能性に起因する特許権者の利益損失を効果的に補い、請求項における文言表現の制約を解消することができる。しかし、均等論による拡張に制限がない場合、権利化された特許の請求項に記載されていない技術内容が、均等な特徴という形で再び特許権の保護範囲に含まれ、一般公衆にとって明らかに不公平な事態が生じる。したがって、裁判所は「意図的排除の原則」を通じて、均等論の乱用により特許権の保護範囲の確定性が失われ、一般公衆の利益が損なわれることがないようにしている。
 
 2016年4月1日から施行された『最高人民裁判所による専利権侵害紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(二)』(以下、「解釈(二)」)2 第12条において、「意図的排除の原則」の適用が正式に確立された。具体的には、以下のように規定されている。
請求項が、『少なくとも』、『超えない』等の用語を用いて数値特徴を限定しており、かつ当業者が、特許請求の範囲、明細書及び図面を読んだ後に、特許に係る技術方案が当該用語の技術的特徴に対する限定作用を特に強調していると認定した場合、権利者がそれと異なる数値特徴について均等な特徴に該当すると主張するとしても、人民裁判所はこれを認めない。」
 
 また、北京市高級人民裁判所が2017年4月20日に公布した『専利侵害判定指南(2017)』第59条において、「被疑侵害技術が明細書中で明確に排除された技術方案、又は背景技術に属する技術方案である場合、特許権者が均等侵害の構成を主張するとしても、これを認めない。」と、より広範な指針が示されている。
 
 2. 意図的排除の原則の適用に関する実務判決
 
 【事例3】:(2019年)最高法知民終516号判決
 
 本件は、意図的な排除の原則が適用された典型的な事例である。裁判所は、特許権者が特許権を取得するために明細書の作成時に極端に限定的な用語を用いた場合、その結果として権利範囲が限定されるという法律上の不利益を負うべきであると指摘した。
 
事件の争点
 被疑侵害技術方案における、中空四角形ボックスの底板と現場打ちコンクリートの中空床スラブ型枠との間に設けられた15~17mmのスペーサーが、本件特許請求項1に係る「複合薄肉箱体の底板と現場打ち中空密リブ床スラブ型枠との間隔を15mm未満に保持する」という技術的特徴に対し、均等侵害が成立するか否か。
 
裁判所の見解
 本件特許請求項1は、「15mm未満」という限定を採用しており、これは数値的特徴を明確に特定するものである。また、本件特許の明細書においても、当該技術的特徴を含む技術方案は、発明の目的を実現するための技術方案の基本的構想として記述されている。距離のわずかな差異が技術方案の技術的効果に顕著な影響を及ぼすことができないとしても、当該差異は出願人が特許明細書等を作成する際にすでに考慮された範囲内のものであり、それにより請求項の保護範囲は最終的に「15mm未満」と明確に限定されている。つまり、15mm以上の技術方案はすべて明確に保護範囲から除外されたことを意味する。請求項の公示性に鑑みると、特許権者は権利侵害訴訟において、すでに除外された技術方案を再び特許権の保護範囲に含めることはできない。したがって、本件は均等侵害が成立しない。
 
(三)、「貢献の原則」 
 
 【事例4】:(2020年)最高法知民終1198号判決
 
 本件は、請求項の記載における不備により、特許権を主張することができなくなった事例である。
 
事件の争点
 本件特許は、「プラズマ処理を施したトウモロコシ種子及びその栽培方法」に関するものであり、請求項では、種子処理の電流を1.6~1.8Aと特定している。これに対し、被疑侵害製品において用いられている種子処理の電流は2.0Aである。
 
裁判所の見解
 原告は、明細書の実施例において、「処理電流が1.6~2.0Aの範囲内であれば、いずれも好ましい効果を奏することができる」と明確に記載していた。したがって、特許権者が明細書においてすでに2.0Aという技術方案を予見していたにもかかわらず、請求項では1.8Aまでしか主張しなかった以上、法的には、1.8~2.0Aの部分を特許権者が自ら公衆に「貢献」したものとみなすべきであり、均等侵害が成立しない。
 
(四) 、包袋禁反言の原則
 
 2009年に公布された『最高人民裁判所による専利権侵害紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈』3第6条では、次のように規定されている。
「専利出願人、専利権者が、専利の付与又は無効審判手続において、請求項、明細書の補正・訂正又は意見書を通じて放棄した技術方案について、権利者が専利権侵害紛争事件においてそれを再び専利権の保護範囲に含めた場合、人民裁判所はこれを支持しない。
 また、2016年4月1日から施行された『最高人民裁判所による専利権侵害紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(二)』第13条では、次のように規定されている。
「専利出願人、専利権者が、専利の付与・権利確認手続において行った請求項、明細書及び図面に対する限定補正・訂正又は意見書での主張が明確に否定された場合、人民裁判所は、当該補正・訂正又は意見書での主張によって技術方案が放棄されたものではないと認定しなければならない。」
 
 【事例5】:(2023)最高法知民終48号判決
 
事件の争点
 本件特許に係る発明は、(a)重量基準で3~20%のシタグリプチン又はその薬学的に許容される塩と、(b)重量基準で25~94%のメトホルミン塩酸塩と、(c)重量基準で0.1~10%の滑剤と、(d)重量基準で0~35%のバインダーと、(e)重量基準で0.5%の界面活性剤とを含む、薬物組成物である。
 本件の焦点の一つは、本件後発医薬品における界面活性剤の重量%含有量は、本件特許請求項4で特定された「重量基準で0.5%の界面活性剤」に対して均等侵害が成立するか否かである。
 
裁判所の見解
 裁判所は、本件において包袋禁反言の原則が適用されるため、均等侵害が成立しないと認定している。
 その理由として1つ目は、実体審査手続において、特許出願人は、進歩性欠如及びサポート要件違反の拒絶理由を解消するために2回の請求項の補正を行い、その補正では、「重量基準で0.5%」という単一の値が意図的に選択されたためである。当該補正において、文言による表現に限界があったり、放棄することが予期できなかったり、争点となる均等な特徴と緊密な関連性を有していなかったりするような、対応する技術方案が放棄されていないと認定できる状況があることを説明できる証拠又は合理的な理由がない。そのため、当該補正に基づき、出願人は当該単一の値以外の保護範囲を放棄していることを推定できる。
 2つ目は、提出された意見書において、出願人が、「重量基準で0.5%の界面活性剤」という技術方案を採用することにより、本件特許の技術的課題を解決する際には特別な技術的効果を奏し得ることを強調しているためである。このことにより、本件において包袋禁反言の原則が適用されるべきである。
 
 本件において、最高裁は、包袋禁反言の原則の適用可否を判断する際に考慮すべき要素を以下の通りに明示した。
 「特許権者が請求項を補正・訂正していながら、原請求項の保護範囲と補正・訂正後の請求項の保護範囲との間にある特定の技術方案を放棄していないと主張する場合、補正・訂正の時期や方法に厳しい制限があったり、文言による表現に限界があったり、放棄することが予期できなかったり、争点となる均等な特徴と緊密な関連性を有していなかったりするような、対応する技術方案が放棄されていないと認定できる状況があることを立証又は合理的に説明しなければならない。」

二、企業への特許戦略のアドバイス

 
 中国裁判所の裁判実務をまとめると、パラメーター特徴は、当然のように均等論の適用対象から排除されるわけではないが、その認定基準が一般的な構造的特徴よりも明らかに厳しいことが分かる。特許の保護範囲の予期可能性及び制度の公平性を維持するために、数々の事件において、裁判所は高度に慎重な判断姿勢を示している。パラメーター特徴に係る均等侵害に対する中国裁判所の判断姿勢より、特許権の保護と公衆利益を両立させる、精緻化された判断枠組みが徐々に形成されている。
 「3つの基本+想到容易性」という枠組みを通じて、文言上の違いのみで権利侵害を否定することを回避する一方、意図的排除の原則、貢献原則、及び包袋禁反言の原則により、特許権者が明確に画定された保護範囲を事後的に拡張することを厳格に防止する。
 
 特許権者にとって、パラメーター特徴は権利を正確に保護するツールでありながら、その権利範囲を制限する諸刃の剣になる可能性もある。将来的に、パラメータ・数値限定発明の競争上の利点は、数値の正確さのみに依存するではなく、さらに明細書全体と請求項の「戦略の一貫性」、例えば、均等を主張できる合理的な余地を確保しているか否か、あるいは特許査定を過度に追求しその後の権利行使で主張可能な余地を犠牲にしているか否かに依存している。
 潜在的な被疑侵害者にとって、請求項の文言、明細書の開示内容、および包袋資料を細かく対比することにより、意図的な排除又は公衆に貢献するものに該当すると主張できる余地が存在しているか否かを評価し、答弁する際の重要な根拠にすることができる。
 したがって、明細書等の作成段階においてあらかじめどのように戦略を構築するかは、将来の権利侵害及び無効審判における攻防の成否を直接左右することとなる。
 
 明細書等の作成段階における注意すべき事項を以下にまとめる。
1. 請求項において、ある程度柔軟に解釈できる表現ではなく、明確で一方向かつ柔軟性のない数値限定表現(例えば、「未滿」、「超えない」)を使用しているか否か。
2. 明細書において、当該数値範囲の臨界値は発明の目的を実現するには重要不可欠であることを繰り返して強調しているか否か。
3. 明細書又は実施例において、被疑侵害製品で採用された数値方案を明確に開示しているにもかかわらず、意図的に請求項に記載していないか。
4. 当該数値限定は先行技術との区別と緊密な関連性を有し、特許査定の実質的な基礎となり得るか否か。
5. 当業者の立場から見ると、当該数値範囲の臨界値は、特許権者が意図的に設定した保護限界であると合理的に解釈されるか否か。全体的に「特許権者が明確な選択をした」ことを示しているのであれば、たとえ被疑侵害製品の技術的効果が係争特許と高度な一致性を有しても、裁判所は意図的排除の原則に基づき、均等論の適用を否定する可能性がある。
6. 明細書及び請求項に記載する技術方案、並びに実施例で検証する技術方案の選定をあらかじめ検討する。将来の減縮補正・訂正又は意見書における陳述により包袋禁反言の原則が適用される可能性を減少するために、請求項において適切かつ合理的な保護範囲を記述する。
 
 

[1] 『最高人民裁判所による専利紛争事件の審理における法律適用の問題に関する若干の規定』

http://gongbao.court.gov.cn/Details/1f735e48a7599073f7787ac6339990.html

[2] 『最高人民裁判所による専利権侵害紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(二)』

http://gongbao.court.gov.cn/Details/409a66a5e85613e92594a31b410220.html

[3] 『最高人民裁判所による専利権侵害紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈』

http://gongbao.court.gov.cn/Details/4b8770fa8e9ced993f7a4b2edffeb8.html

 

キーワード:特許 判決紹介 中囯

 

 

 

 

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