台湾意匠 「消費者の注意を惹きやすい部位又は特徴」に関する認定が最高裁判所により覆された事例(GIANT電気自動車v.泳仁實業事件)

Vol.118(2022年9月23日)

台湾の専利侵害判断要点によれば、意匠権侵害訴訟における意匠の外観類否判断は、普通の消費者の観点から、各意匠の共通特徴及び相違特徴を認定した上で、意匠に係る製品の性質、機能制限、先行意匠及び共通形態等の要因に基づき、「普通の消費者の注意を惹きやすい部位又は特徴」に重点を置いて、全体的外観の統合的な視覚的印象をもって、これら共通相違特徴が全体的な視覚的印象に与える影響を判断する、とされている。そして「普通の消費者の注意を惹きやすい部位又は特徴」の例として、「係争意匠における先行意匠とは明らかに異なる意匠の特徴」、「正常に使用する場合に容易に目につく部位」が挙げられている。

今回紹介する事件は、物品を電気自動車とする意匠権の侵害事件であり、一審と二審で「普通の消費者の注意を惹きやすい部位又は特徴」に対する認定が分かれた事例である。

事件の概要

台湾で有名な二輪車メーカーであるジャイアントは「電気自動車」(D133389、本件意匠権)の意匠権者であるところ、被告(泳仁實業)の製造販売する電気自動車が本件意匠権を侵害すると主張して、製造販売等の差止めと損害賠償を請求した。本件において、本件意匠及び被告が製造販売する電気自動車に係る意匠(イ号意匠)の意匠に係る物品はいずれも電気自動車であり争いはないため、両意匠の外観(形態)の類否が争点となった。一審判決では、両意匠の外観には大きな相違があり消費者が混同するような視覚的印象は生じないとして、両意匠は非類似であると判断したが、二審(控訴審)では両意匠は類似するという判断を下した。

本件はその後最高裁まで争われたが、最高裁判所は、二審における「普通の消費者の注意を惹きやすい部位又は特徴」の認定は誤りであるとして二審判決を取消し、知的財産及び商事裁判所に差し戻す判決を下した 1

一審の判断(非類似)

一審では、電動自転車の車体の前・後端部のデザインが電動自転車製品における「普通の消費者の注意を惹きやすい部位又は特徴」であると認定した上で、本件意匠とイ号製品では車体の前端部及び後端部の形状を構成する特徴が相違するため、本件意匠とイ号製品は非類似であると判断した。主な認定内容は以下の通りである。

「本件意匠とイ号意匠はいくつかの共通特徴(abc等)を有するが、それらはいずれも目立たず且つ細かい点であるため、普通の消費者の注意を惹きやすい部位又は特徴ではない」、「これに対し、特に消費者が自転車を認識又は使用する際に目につきやすい「前端部」「後端部」の設計特徴は、両者で大きく異なる。後端部について、本件意匠のリアフォークは横U形又はa形となっており、この形状を見るとシートとシートトランクがリアホイール(後車輪)の上に宙に浮いている強い印象を与える。」、「これに対しイ号意匠のリアフォークはショックアブソーバーとともにD形であり、また本件意匠のようなシートとシートトランクがリアホイール(後車輪)の上に宙に浮いているという特色はない。」「前端部について、ハンドル、ライト、かごは消費者が自転車を認識又は使用する際に目につきやすい部分であり、これら部分に置いて両者の特徴は明らかに異なる。」

また、本件意匠の審査における審査官作成の審査表には「本件意匠における『フレーム後端に横U形のフレームボディが形成されており、このU形フレームボディの内縁にあるフレーム上にペダルが設けられ、U形フレームボディの情報にはシートが設置されていること、当該シートは略半楕円を呈した箱型形状であること、前方のフレームボディの前方にライトが設定されていること』という特徴は先行意匠において開示されておらず・・・本件意匠は進歩性を有する」と記載されていることからも、本件意匠における主な特徴であり且つ新規性を有する特徴の1つは前・後端部のフレームの設計であると認定できると述べた。

一審の判断における本件使用とイ号意匠の共通特徴

本件意匠 イ号意匠

一審の判断における本件使用とイ号意匠の相違特徴

本件意匠 イ号意匠

一審の判断(非類似)

二審では、まず侵害判断の主体について、「侵害判断の主体は普通の消費者とすべきであり、本件の場合は歩行に代わる移動手段として電動自転車を購入する者が普通の消費者となる。本件の普通の消費者は自転車やオートバイ等二輪車の外観について、一般的な認識及び注意力を有し、購入時の観察角度は製品全体の外観が目視可能な数メートル間隔の距離が基準となる。」と認定した 。

二審では、abcdefの6つを両者の共通特徴と認定して次のように判断した。

「abce4つの共通特徴は電気自転車の車体側面に設けられているが、車体側面は電気自転車全体の視覚面積の大部分を占め、電気自転車の性質に基づけば、車体側面が正常に使用する場合に容易に目につく部位、即ち普通の消費者の注意を惹きやすい部位又は特徴に該当することから、侵害判断において重きを置く部分である。」

「両者の相違特徴について、相違特徴g(後端部のフレーム形状)は一審では両者の外観が非類似と判断する主要な根拠となった特徴であるが、二審では「イ号意匠では後端部のフレームはショックアブソーバーとともにD字を示しており、これは本件意匠の後端部におけるa字型の形状と類似している。ここでイ号意匠のD字型の直線部分は、ショックアブソーバーがシートチューブに接続されて構成される形状であるが、ショックアブソーバーは自動二輪車が道路を走行する際に衝撃を吸収するために設けられた部品であり、従来から先行意匠において見られるものである。よってこの相違特徴gは先行意匠の簡単な改変に過ぎない。他の相違特徴についても、これらは簡単な修飾に過ぎず、電気自転車全体の視覚面積に占める割合も小さく外観上顕著な差異はないため、全体的な視覚的印象に影響を与えるに足りない。」

被告は、電動自転車の車体の前・後端部のフレームデザインが電動自転車製品における「普通の消費者の注意を惹きやすい部位又は特徴」であり、本件意匠とイ号意匠を比較する際に重きを置く部分であると一審判断に沿った主張した。しかし、裁判所は次のように述べ、被告の主張を退けた。

「電気自動車業界では車体全体のフレーム構造を重視し、シリーズを決定することが多い。車体全体のフレーム構造の設計は最も重要であり、市場及び消費者がシリーズや型番を区別するための依拠とするものであることから、車体全体のフレーム構造が電気自動車製品におけるデザインの中心と言える。これに対し共通特徴ABCDEは、本件意匠において先行技術とは異なる特徴でありいずれも全体の面積の大部分を占め且つ正常使用時に目につく部分であるため、普通消費者の全体的視覚印象に影響を与え得るものである。」、「両者の共通特徴は普通の消費者の注意を惹きやすい部位又は特徴であるため比較の際に重きを置くべきであり、両者の相違特徴は製品全体の視覚的印象に影響を与えるに足りないことから、イ号意匠は本件意匠の権利範囲に入る。」

二審の判断における本件使用とイ号意匠の共通特徴

本件意匠 イ号意匠
共通特徴
(abc)
a 前端部のフレーム(足踏台から上に延伸)
b シート及びシートトランクの形状
c 足踏台(「一」字形で厚く、且つ横線及び斜線からなる稜線の装飾がある)
共通特徴
(e)

二審の判断における本件使用とイ号意匠の相違特徴

本件意匠 イ号意匠
相違特徴
(gh)
g リアフォークがa字形 リアフォークがD字形
h タンデムバーが「ㄣ」字形 タンデムバーは二本の管が結合されてなる 「V」字形

最高裁判所の見解

一審と同じく、審査表を引用して、本件意匠の先行意匠との相違点は『フレーム後端にU形のフレームボディが形成されており、このU形フレームボディの内縁にあるフレーム上にペダルが設けられ、U形フレームボディの情報にはシートが設置されていること、当該シートは略半楕円を呈した箱型形状であること、前方のフレームボディの前方にライトが設定されていること』であるとした。そして次のような見解を示した。

「普通消費者が電動自転車を選択購入する際には、使用時の機能及び全体の造形を重視する。フレームの前端・後端部及びライトは容易に目視される部分であり、これら部分は電動自転車全体の造形の印象に影響を与えるものであるから、普通消費者が選択購入する際に考慮及び注意する箇所であり、正常に使用し注意を引きやすい部分である。」、「本件意匠の創作特徴は、前・後端部のフレームデザイン及びライト等にあるが、本件意匠とイ号意匠との相違特徴ghijklmはいずれもこれら本件意匠の創作特徴に位置しており、さらに本件意匠とイ号意匠では相違が明らかである。」、「原審ではこの点について、普通の消費者の注意を惹きやすい部位又は特徴はフレーム全体であること、両者の相違特徴は前端・後端部のフレームにあり、これらは全体に占める面積も小さくイ号意匠全体の視覚的印象に影響を与えるに足りないため、本件意匠とイ号意匠は類似しないと判断しているが、これは上訴人に不利な判断であり、検討の余地がある。」

弊所コメント

台湾の意匠権侵害訴訟における意匠の類否判断は、日本と同様にまず物品の類否が判断され、物品が同一又は類似の場合は次に外観(形態)の類否判断に進む。台湾では物品の類否が争われる事例はほとんどないため、多くの意匠権侵害訴訟において外観の類否が争点となる。実務上、外観の類否版判断では上述したように、まず両意匠の共通点相違点(共通特徴・相違特徴)を抽出し、どの特徴が「普通の消費者の注意を惹きやすい部位又は特徴」であるかどうかの認定が行われる。どの部分を共通特徴・相違特徴として抽出するかという点も類否判断に大きな影響を与え得るが、台湾の実務上、一般的には共通特徴・相違特徴のうち、「普通の消費者の注意を惹きやすい部位又は特徴」はどれかが問題となることが多い

つまり、意匠権に係る意匠とイ号意匠の外観(形態)を比較する際に、「普通の消費者の注意を惹きやすい部位又は特徴」はどの特徴であるかという認定は非常に大きなポイントとなる。両意匠の共通特徴が「普通の消費者の注意を惹きやすい部位又は特徴」と認定された場合、両意匠の外観は全体として類似すると判断される可能性が高くなり、逆に両意匠の相違特徴が「普通の消費者の注意を惹きやすい部位又は特徴」と認定された場合、両意匠の外観は全体として類似しないと判断される可能性が高くなるからである。

ここで「普通の消費者の注意を惹きやすい部位又は特徴」について、専利侵害判断要点には「正常に使用する場合に容易に目につく部位」及び「係争意匠における先行意匠とは明らかに異なる意匠の特徴」の2種類が挙げられているが、本件の侵害成否の判断を分けたポイントは「正常に使用する場合に容易に目につく部位」であった。一審では電気自動車のフレームのデザイン、特に後端部のフレーム(リアフォーク)を「正常に使用する場合に容易に目につく部位」として認定した。その理由は詳細には述べられていないが、シートとシートトランクがリアホイール(後車輪)の上に宙に浮いている強い印象を消費者に与える点が挙げられている。これに対し二審では、原告が主張した証拠等に基づき、車体側面及び車体全体のフレーム構造は物品全体に占める面積が大きいため、これらが「正常に使用する場合に容易に目につく部位」として認定し、両意匠は全体として類似するという判断に至っている。なお、二審において原告(ジャイアント)は、本件意匠の創作時の設計理念(ペリカンの形状に基づく)を詳細に述べ、本件意匠の外観には特異的な視覚効果を生じている主張したが、専利侵害判断要点には設計理念の考慮については既定されていないこともあり、裁判官は本件意匠設計理念については特に触れることなく、最終的な判断を下している。

本件の内容からわかるように、意匠権侵害訴訟においては意匠の特徴が類似するか否かという点も重要ではあるが、それに加えて「普通の消費者の注意を惹きやすい部位又は特徴」は一体どの特徴であるのかという点について、裁判官を説得させるような主張を行う必要がある。

[1] 2021(110)年度台上字第3165号、一審:知的財産裁判所2019(108)年度民専訴字第20号、二審:知的財産裁判所2020(109)年度民専上字第8号

キーワード:意匠  判決紹介 台湾 侵害

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