中国 請求項に記載された使用環境特徴の認定について(ネットワークプラグ上蓋の自動位置決め構造事件)

Vol.117(2022年9月6日)

使用環境特徴は保護対象から独立し保護対象と何らかの関係を持っている技術的特徴である。使用環境特徴として解釈することは中国の特許実務における独特な請求項の解釈方法である。保護対象を確定した後、それに基づき、請求項における保護対象自身の構造ではなく、その取付位置又は接続構造等の使用背景又は使用条件を説明する技術的特徴について、使用環境特徴であると認定することができる。一方、請求項における保護対象自身の構造が有する構成要素又は製品内部の異なる部品間の取付関係/接続関係については、使用環境特徴であると認定してはならない。

以前の弊所ニュースにおいて「中国特許実務上の機械分野に関する使用環境特徴の活用策について1 」を紹介したが、 先日、東莞光距電子有限公司と寧波普能通訊設備有限公司の実用新案権侵害事件において、中国最高人民裁判所は本件実用新案の技術内容における争いのある特徴は使用環境特徴を構成すると判断し、第一審判決を覆し、被疑侵害製品は本件実用新案権を侵害すると認定した2。以下、本事件について紹介し分析する。

事件の概要

東莞光距電子有限公司(原告)は第CN206834412U号実用新案「ネットワークプラグ上蓋の自動位置決め構造」(以下、「本件実用新案」)の実施権者であり、「寧波普能通訊設備有限公司」(被告)が製造、販売、販売の申出を行っている製品は本件実用新案権を侵害するとして、中国浙江省寧波市中級人民裁判所(以下、「第一審裁判所」)に訴訟を提起した。第一審裁判所は原告の請求を棄却する判決を下し 、原告はこれを不服として上訴した。最終的に、中国最高人民裁判所は第一審判決を取消し、被告に対し権利侵害行為の停止、及び経済損失10万人民元及び権利保護のための合理的費用5万人民元の賠償を命じる判決を下した。

本件実用新案の技術内容

本件実用新案請求項1の内容は次の通りである。

「土台と、

一端が前記土台の上端面に枢結され、前記土台と互いに係合してともにプラグ本体を構成する上蓋と、

前端がある程度の長さで前記プラグ本体の内部に差し込まれ、複数の内部芯線を含むLANケーブルとを含み、

前記プラグ本体の土台の内部に底板が取り付けられ、前記底板に回路基板が固定され、さらに前記回路基板にピアシング端子座と前記ピアシング端子座の上に位置する圧板とが配置され、

前記土台の後端に、ある程度の長さの前記LANケーブルの前端を固定するためのケーブル保持具が組み合され、前記上蓋の表面にレリーズばね片が配置され、

前記土台の前記レリーズばね片と対向する位置に前端座が配置され、前記前端座に前記レリーズばね片を向く解除ばね片が配置され、且つ、前記レリーズばね片は、前記上蓋を開ける動きと共に前記解除ばね片を圧し、設定した開け角度の位置に達する時自動的に前記上蓋を位置決めする、ネットワークプラグ上蓋の自動位置決め構造。」

【本件実用新案に係る装置とその使用環境特徴の概略図】

裁判所の見解

浙江省寧波市中級人民裁判所(第一審)の見解は次の通りである。

本件実用新案に係る考案はネットワークプラグ上蓋の自動位置決め構造であり、請求項1において「前端がある程度の長さで前記プラグ本体の内部に差し込まれ、複数の内部芯線を含むLANケーブル」という技術的特徴が含まれる。当該特徴はLANケーブルの種類及びLANケーブルのプラグ本体に接続する位置に対して明確に特定しており、当該特定されたLANケーブルは前記ネットワークプラグ上蓋の自動位置決め構造の構成の一部を構成するため、前記特徴は使用環境特徴ではなく、必須な構造特徴である。被告が製造販売する被疑侵害製品は左側がLANケーブル通路の入口であり、本件実用新案請求項1に記載の特定されたLANケーブルを有しない。よって、被疑侵害製品は本件実用新案請求項1の必須な技術的特徴を欠いており、本件実用新案の保護範囲に入らず、侵害を構成しない。

原告は第一審の判決を不服とし、中国最高人民裁判所に上訴した。

中国最高人民裁判所は第一審裁判所による前記技術的特徴の認定に誤りがあると判断し、第一審裁判所の見解を覆した。中国最高人民裁判所の見解は以下の通りである。

使用環境特徴とは、請求項における発明の使用背景又は使用条件を説明するための技術的特徴を指す。使用環境特徴は技術手段の取り付け、接続及び使用などの条件や環境に対する限定として表現されることが多い。しかし、保護を請求する技術手段の複雑性に鑑みると、使用環境特徴は保護された技術手段の取り付け位置や接続構造と直接的な関連性のある構造特徴に限らない。物の請求項の場合、保護された技術手段の用途、適用対象及び使用方法などについて説明するための技術的特徴も、使用環境特徴に属する。

請求項に記載された使用環境特徴は請求項の必須な技術的特徴に属し、請求項の保護範囲に対し限定作用を有する。そして、使用環境特徴による請求項の保護範囲に対する限定作用の程度は各事件の具体的状況によって確定するものである。一般的には、被疑侵害技術手段が請求項に記載の使用環境特徴で限定された使用環境に適用できるのであれば、被疑侵害技術手段は当該使用環境特徴を有すると見なされる。

本件実用新案に係る考案はネットワークプラグ上蓋の自動位置決め構造の技術手段である。請求項1に記載された「前端がある程度の長さで前記プラグ本体の内部に差し込まれ、複数の内部芯線を含むLANケーブル」という技術的特徴について、当業者は実用新案登録請求の範囲、明細書及び審査経過情報を読めば、本件実用新案の技術手段である上蓋の位置決め構造はLANケーブルに適用されるものであること、及びその使用方法としてLANケーブルの前端をプラグ本体の内部に差し込むことを明確かつ合理的に理解できる。よって、当該技術的特徴は使用環境特徴に属する。比較の結果、被告が製造販売する被疑侵害製品は左側がLANケーブル通路の入口であり、LANケーブルを有しないが、被疑侵害製品の実際の用途に基づき当業者の理解を合わせて考慮すれば、被疑侵害製品はLANケーブルに適用され、且つ回路基板のケーブル保持具にLANケーブルと接続する部材が複数配置されており、使用時にLANケーブルの前端が被疑侵害製品の内部に差し込まれるため、被疑侵害製品は本件実用新案請求項に記載された前記使用環境に適用できる。よって、被疑侵害製品は本件実用新案請求項に記載された「前端がある程度の長さで前記プラグ本体の内部に差し込まれ、複数の内部芯線を含むLANケーブル」という使用環境特徴を有すると判断すべきである。

弊所コメント

本件実用新案の製品はネットワークプラグ上蓋の自動位置決め構造であるため、製品自身は当然にLANケーブル(31)を含まない。しかし、本件実用新案の製品の技術的特徴を明確に定義するため、請求項にLANケーブル(31)に関する内容が記載されている。従って本件被告が製造販売する製品のようにLANケーブルを含まない態様の場合、「権利一体の原則」に基づき、侵害対比において本件実用新案権を侵害しないと判断されるのが原則である。但し、もし本件実用新案請求項に記載の「前端がある程度の長さで前記プラグ本体の内部に差し込まれ、複数の内部芯線を含むLANケーブル」という技術的特徴は「使用環境特徴」であり、且つ被疑侵害態様は当該使用環境特徴に適用できると認定された場合、権利侵害を構成すると判断され、請求項の記載による解釈の制限を補うことができる。

本件において、中国最高人民裁判所は下級裁判所の使用環境特徴に対する認定を覆し、本件実用新案権者の権利は充分に保護された。本件は、将来権利を主張する時の参考事例にもなれると考える。

[1] Wisdomニュース Vol.110(2022/5/9)

[2](2021〉最高法知民終1921号

キーワード:中国 特許 新規性、進歩性 機械 判決紹介 侵害

 

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