台湾 商標法改正草案が公表される(複審・争議審議制度創設、異議申立て廃止など)

Vol.82(2021年1月12日)

台湾特許庁は2020年12月30日に専利法の改正草案を公表したばかりだが1。これに続いて商標法の改正草案を2021年1月7日に公表している2。今回の商標法改正内容は専利法と同じく、複審制度創設や拒絶査定及び無効審判等審決に対する行政救済制度が主な内容となっている。具体的には(1)複審・争議審議審議会創設(2)複審制度創設、訴願の廃止(3)異議申立て廃止(4)無効審判・取消審判の手続き規定に関する改正(5)無効審判・取消審判の取消訴訟における当事者構造の採用、訴願の廃止等である。以下に改正内容の概要を紹介する。(なお、本改正案はあくまで草案であり、今後は公聴会の開催、司法院や経済部との意見交換などが行われるため、草案の内容は変更される可能性がある。)

複審・争議審議審議会創設

現在出願案件の審査及び無効審判・取消審判の審理は、台湾特許庁が行っており、いずれも書面審査が原則とされている。しかし現行の台湾特許庁による審査では手続き的な保障が十分ではないという声が出ていたことから、今回新たに「複審・争議審議会」を設け、この複審・争議審議会が審査拒絶査定後の複審及び無効審判・取消審判の審議を行うこととされている(56条の1~56条の8)。なお複審・争議審議会は3人又は5人の合議体が審議を行う。

複審制度創設、訴願の廃止

現在の台湾商標法下における出願の審査は、台湾特許庁での審査、経済部での訴願、知的財産及び商事裁判所2での一審、最高行政裁判所での二審という流れとなっている。

今回の改正草案では日本の審判部、米国のPTAB、韓国のIPTABや中国の復審委員会の組織構造を参考とし、新たに複審・争議審議制度が創設されている。また複審・争議審議会での審議(決定)に対しては訴願を経ることなく、知的財産及び商事裁判所へ取消訴訟を提起することができる。そして現在二審は最高行政裁判所の管轄となっているが、改正草案では最高行政裁判所に代わり最高裁判所が審理を行うこととされている。

よって改正案における流れは台湾特許庁での審査、複審・争議審議会での複審、知的財産及び商事裁判所での一審、最高裁判所での二審となる。

図1 現行及び改正草案における審査の流れ

拒絶査定後の複審での審議では原則書面で審議が進められ、職権又は申請により口頭審議とすることができる。なお複審が請求された場合は複審・争議審議委員会による審議の前に、まず審査組から審査官が割り当てられ、「再審査(中国語:重新審査)」が行われる(特許の前置審査に類似)。

図2 改正草案における審査・複審の流れ(詳細)

異議申立て廃止

現行の異議申立てと無効審判では、主体的要件及び時期的要件は異なるが、対象となる不登録事由に相違はないことや情報提供制度の存在から、以前より両制度の併存させる意義が検討されてきたが、今回の改正草案では異議申立てが廃止されている。異議申立ての廃止に伴い、絶対的不登録事由における無効審判の請求人適格を利害関係人から何人へと拡大されている。

ただし後述するように無効審判では口頭審議が原則とされ、また審判請求人と商標権者の両者が審議に参加する当事者対立構造となるため、異議申立てに比べ請求人及び商標権者双方にとって各方面の負担は大きくっている点に注意が必要である。

無効審判・取消審判の手続き規定に関する改正

台湾特許庁公布資料の今回の改正大項目には挙げられていないが、無効審判・取消審判の手続き規定に関する規定も大きく変更されている。以下に主なものを挙げる。

審判請求人の証拠・理由の補充提出期限の緩和

「審判請求人による理由・証拠の補充は、審議終結前の適切な期間に行わなければならない。意図的に審議を遅延させる又は重大な過失により文書を提出せず、審議終結の妨げとなる場合、提出されなかったものとみなす」という条文が追加されている(58条の1)。

審議方式を原則口頭審議へ

無効審判の審議方式が原則口頭審議とされ、書面審議とすることは例外とされている。

審議終結通知

審議終結通知の制度が導入されており、審議官が審議の決定を下す程度まで達したと判断した場合は審議終結の通知が出され、この審議終結通知から1ヶ月以内に決定が下される。

その他(職権証拠調べ、準備手続き、審議官の心証公開)

職権証拠調べ、準備手続き、審議官の心証公開(審議官は審議終結前に事実上、理由上及び証拠上の争点について、心証を公開しなければならない)といった改正がされている。

図3 改正草案における無効審判・取消審判審議の流れ

無効審判・取消審判の取消訴訟における当事者構造の採用、訴願の廃止

現在の無効審判及び取消審判は台湾特許庁での審査、経済部での訴願、知的財産及び商事裁判所での一審、最高行政裁判所での二審という流れとなっている。

今回の改正草案では拒絶査定後の複審同様、無効審判及び取消審判の審査は複審・争議審議会が行うこととなっている。また複審・争議審議会での審議(決定)に対しては訴願を経ることなく、知的財産及び商事裁判所へ取消訴訟を提起することができる。そして現在二審は最高行政裁判所の管轄となっているが、改正草案では最高行政裁判所に代わり最高裁判所が審理を行うこととされている。

つまり、改正案における流れは複審・争議審議会での複審、知的財産及び商事裁判所での一審、最高裁判所での二審となる。

図4 現行及び改正草案における無効審判・取消審判の流れ

次に現在、無効審判・取消審判の審決に対する取消訴訟では、審決(認容審決又は棄却審決)に不服のある者が原告となるが、被告は台湾特許庁となっており、もう一方の当事者(商標権者又は審判請求人)は参加人という形で取消訴訟に関わることになっている。

今回の改正草案では、私権の争議という性質を有する無効審判・取消審判の審決取消訴訟の特徴を鑑み、無効審判・取消審判の審決取消訴訟において当事者構造を採用し、商標権者又は審判請求人がそれぞれ原告及び被告となるよう改正されている。

[1] 専利法改正草案の内容については前号Vol.81のニュースレター(こちら)を参照。

[2] 台湾特許庁公布内容 https://www.tipo.gov.tw/tw/cp-85-884499-aa760-1.html

[3] 台湾では2021年7月から商事裁判所が設立されるとともに、現在の知的財産裁判所と合併し「知的財産及び商事裁判所」が発足する、ここでは知的財産裁判所を7月以降の表記「知的財産及び商事裁判所」と記載する。

 

キーワード:商標 法改正 台湾 無効審判

 

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