台湾 2021年度版専利審査基準の改訂内容の紹介及び対応策

Vol.97(2021年9月27日)

台湾特許庁は2021年7月14日に専利審査基準を改訂し、改定後の内容は同日に施行されている 1。今回の改訂では用語及び形式的な修正が加えられたほか、「請求項における数値限定の補正が許可される状況」、「無効審判の審決取消後に特許庁へ差し戻された際の審理方法」、「2パート形式で記載された請求項の明確性の認定」など、多くの実質的変更がなされている。以下に改訂のポイント及び今後の特許出願における対応策を紹介する。

「請求項における数値限定の補正」に新たな条件が追加

請求項に数値限定を追加する補正について、従来の審査基準では、明細書又は実施例で開示された具体的数値を組み合わせて新しい範囲として追加する補正は認められていた。しかし改訂後の審査基準では日本の規定を参考にし、請求項に記載された数値範囲の上限値又は下限値を補正する場合、補正後の上下限値が出願時の明細書、特許請求の範囲又は図面で開示されているという条件に加え、「補正後の数値範囲が出願時の明細書、特許請求の範囲又は図面で開示された数値範囲内に含まれる」という条件が新たに追加された。

改訂後の審査基準では以下の具体例が挙げられている。

【明細書】

…感圧型接着剤組成物の室温で測定された粘度範囲は3,500cP~10,000cPと記載され、実施例には12,000cPとも記載されている。

【請求項】

補正前の請求項 補正後の請求項
架橋可能なアクリル重合体を含み、…室温での粘度が3,500cP~10,000cPである感圧型接着剤組成物。
架橋可能なアクリル重合体を含み、…室温での粘度が3,500cP~12,000cPである感圧型接着剤組成物。

【補正の認否】

従来の規定では、明細書に12,000cPという具体的な数値が記載されているため、数値範囲を「3,500cP~12,000cP」とする補正は認められていた。しかし改訂後の規定では、10,000cP~12,000cPという数値範囲は、出願時の明細書、特許請求の範囲又は図面で開示された数値範囲に含まれていないため、「3,500cP~12,000cP」とする補正は新規事項の追加に該当し、認められない。

コメント

出願時の明細書において、広い数値範囲や複数の異なる数値範囲を可能な限り明確に記載することが好ましい。特に実施例における最も広い上下限値について、これを範囲として明確に記載することで、後に柔軟な補正を行うことが可能となる。

無効審判の審決取消後に特許庁へ差し戻された際の審理方法の改訂

審決取消後の台湾特許庁での差戻審において意見陳述・訂正の機会を与えるか否かについて、改訂後の審査基準では従来とは異なる内容が規定されている。

無効審判の行政訴訟(取消訴訟)において、裁判所が訴訟段階において無効審判請求人の提出した新たな証拠を採用して原審決を取消したが、台湾特許庁に差し戻す判決を下した場合 、従来の規定では、台湾特許庁は差戻審において審判請求人及び特許権者へ書面提出の通知をしなければならないと規定されており、特許権者はこの通知を受けた後に訂正を行うこともできた。

改訂後の審査基準では、審理期間の短縮や手続きの繰り返し問題の解決を図るべく、「行政訴訟段階で追加された新たな証拠について、当事者双方による攻防が行政訴訟の審理において十分に行われていることから、台湾特許庁は差戻審において、意見陳述の機会を与える通知を行う必要はない」と規定された。なお、裁判所の判決において関連事証の精査又は再調査が必要であると示された場合であって、台湾特許庁は必要があると認める時は、双方に意見陳述の機会を与える通知がなされるとも規定されている。

コメント

改訂後の規定によれば、台湾特許庁による無効審判の差戻審において原則として特許権者に答弁の機会は与えられない。よって、特許権者は特許庁からの通知を待つのではなく、自発的に同庁へ答弁書の提出や訂正、面談申請を行うことが好ましい。こうすることで、台湾特許庁が特許権取消しの審決を直ちに下すことを避けることが可能となる。一方で無効審判請求人は、定期的に同庁へ包袋閲覧申請や審理状況の問い合わせを行い、特許権者が訂正や答弁書の提出を行ったどうか確認する必要がある。特許権者から訂正や答弁書提出がされていることが判明した場合は、直ちに補充理由書を提出することが好ましい。

請求項の記載における明確性の認定

2パート形式(二段式)で記載された請求項の明確性に関し、専利法施行細則第20条において、「独立項の記載が二段式である場合、前提部には出願に係る発明の対象の名称及び先行技術と共有する必要な技術特徴が含まれていなければならない。特徴部は『ことを特徴とする』、『改良点は…にある』又はその他類似する用語によって、先行技術と異なる必要な技術特徴を明記しなければならない」と規定されている。従来この規定に基づき、「二段式独立項の前提部に、先行技術と共有する必要な技術特徴が記載されていないため、請求項の記載が不明確である」という拒絶理由が通知されるケースが多く見られた(実用新案で特に顕著)。

しかし今回の改訂により請求項の解釈方法が明確化され、「独立項に『ことを特徴とする』『改良点は…にある』又はその他類似する用語によって記載されていたとしても、二段式の請求項と解釈されるとは限らない」と規定された。つまり、独立項の前提部に先行技術と共有する必要な技術特徴が含まれていない場合であっても、「ことを特徴とする」という記載は不明確には該当しない。

また今回の改訂において、「独立項には発明の対象の名称を明確に記載しなければならず、単に『装置』又は『方法』などと記載した場合は、発明の対象の名称が不明確であると認定される」という規定も追加された。従来から、審査において発明の対象の名称が広範すぎる場合は明確性欠如の拒絶理由が通知されるケースがあったことから、今回の改訂は従来の審査運用が審査基準で明文規定されたものと言える。

その他の改訂

「発明を特定する技術的特徴が不明確」の事例について

請求項に記載の組成物が「閉鎖形式の連接詞」により特定され、且つ組成物を構成するある成分の上限値とその他の成分の下限値の合計が100%超え、又はある成分の下限値とその他の成分の上限値の合計が100%未満である場合、「発明を特定する技術的特徴が不明確」に該当するという事例があるが、この事例において今回の改訂で「閉鎖形式の連接詞」という語が追加されている。

選択発明の定義について

従来の審査基準では「既に知られている比較的大きい群又は範囲から、『目的を持って』選ばれた特定な成分又は群」と定義されていたが、今回この「目的を持って」という部分が削除された。よって、目的の有無に関わらず比較的大きい群から個別の群を選択したものは、選択発明の要件を満たすものとなる。

「除くクレーム(disclaimer)」とする補正が可能な態様について

改訂後の内容では「除くクレーム(disclaimer)」とする補正について、以下の内容が追加された。

「除くクレーム(disclaimer)とする補正は新規性欠如、拡大先願若しくは先願主義違反となる引用文献を克服する場合、又は特許出願に係る発明が「ヒト」を含み公序良俗を害する特許要件を克服する場合に限られ、同日出願の引用文献を克服する場合は認められない。」

この内容は2020年11月に台湾特許庁が公布したものであり、今回の審査基準改訂において明文規定されることとなった。なお、弊所ニュースレターVol.79においても内容を紹介している2

弊所コメント

上述の通り、今回の改訂では実体的なものから形式的なものまで様々な変更が加えられている。特に数値限定の補正条件及び無効審判の手続き規定の改訂は需要であるため、改訂内容には十分留意する必要がある。


キーワード: 台湾 特許 記載要件 無効審判 法改正 訂正

 

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