台湾 「除くクレーム」とする補正又は訂正が可能な態様が限縮される(台湾特許庁公布)

Vol.79(2020年11月26日)

台湾特許庁は11月19日、「除くクレーム」とする補正又は訂正が可能な態様を限縮することを公表した1。具体的に従来は新規性解消又は進歩性解消のためのいずれであっても「除くクレーム」とする補正又は訂正は認められていたが、今後は進歩性解消のために行う「除くクレーム」とする補正又は訂正は認められないことになった。台湾特許審査実務においては、「除くクレーム」とする補正又は訂正に関する規定は、欧米や日本、中国等の諸外国に比べ比較的に寛容であったが、今後は従来と異なる運用とされる点に注意すべきである。以下に従来の運用及び今回の公布内容の詳細を紹介する。

従来の規定及び運用

現行専利審査基準の規定によれば、「先行技術と重なった部分の技術内容を除外するためである場合」及び「正面的な記載方式をもって、除外した後の保護対象を明確に、簡潔に特定できない場合」は、「除くクレーム」とする補正又は訂正を行うことができる。また現行専利審査基準で挙げられている事例は新規性又は単一の引用文献の場合の事例であるが、実務上は進歩性の拒絶理由を解消するために行う「除くクレーム」とする補正又は訂正の多くは認められている。以下に、現行専利審査基準に記載の、認められる「除くクレーム」の補正事例及び訂正に関する規定を記す。

補正事例1(数値範囲の除くクレーム)

出願時の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されていない数値は新規事項に属するものの、当該数値が先行技術に属する場合は例外として除外(例えば含まない、包含しない)という記載方式で補正することを認める。例えば、元の特許請求の範囲において数値 X1 = 600~10,000が記載されており、先行技術に記載の範囲がX2 = 240~1,500である場合、X1 = 600~1,500はX2の一部と重複しているため新規性を有しないとされる。ここで数値1,500は出願時の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載されていないため、特許請求の範囲をX1 = 1,500~10,000へと補正することは認められない。但し、重なった部分を除外するという記載方式により、特許請求の範囲に記載の数値範囲を「X1>1,500~10,000」又は「X1 = 600~10,000、但し600~1,500を含まない」と補正することは例外的に認められる。(専利審査基準第二篇第六章第2-6-12頁)

補正事例2(化合物の除くクレーム)

先行技術文献において、本発明に記載の窒素含有複素環式カルボン酸が3-ピリジンカルボン酸であることが開示されているものの、特許請求の範囲には3-ピリジンカルボン酸という発明特定事項が記載されていないため、特許請求の範囲から3-ピリジンカルボン酸を削除することは認められない。よって、先行技術に記載の事項を除外するとともに4.2.2の(7)で言う「除くクレーム」とする補正の方式を満たすために、特許請求の範囲を「窒素含有複素環式カルボン酸(3-ピリジンカルボン酸を除く)」へと補正した。補正後の特許請求の範囲に記載の事項は出願時の明細書から直接的かつ一義的に知ることができる事項ではないが、例外として新規事項を追加していないものと見なされる。(専利審査基準第二篇第六章第2-6-38~39頁)

訂正に関する規定

請求項から先行技術と重なる部分を削除する訂正に関し、一般的に当該除外内容は元の明細書、特許請求の範囲及び図面から直接的かつ一義的にしることができる事項ではないため、新規事項の追加に該当する。しかし、当該重なった部分を削除した結果、請求項に残った保護対象を積極的表現方式では明確、簡潔に特定できない場合は、先行技術と重なった部分を除外(disclaimer)する消極的表現方式で記載することができる。この場合、訂正後の請求項において出願時の明細書に記載されていない発明特定事項が追加されることとなるが、例外として新規事項を追加していないと見なすことができる。(専利審査基準第二篇第九章第2-9-9頁)

今後の運用

台湾特許庁が11月19日に公表した内容をまとめると以下のとおりである。今後は「除くクレーム」とする補正又は訂正は以下のいずれかの状況に該当する場合に限られる。

  • 新規性欠如の引用文献を克服するため。
  • 拡大先願の引用文献を克服するため。
  • 先願主義を満たさない証拠としての引用文献を克服するため
    (但し、同日出願の引用文献である場合を除く)。
  • 物の発明に係る請求項における「ヒト」の部分を除外するため。
  • 方法の発明に係る請求項における「生命を有する人間や動物体で実施する工程」を除外するため。

なお、「除くクレーム」とする補正又は訂正について、今回台湾特許庁は審査基準の改訂を行っておらず今後の改訂予定も明らかにされていないが、今回の公表によって今後は除くクレームに関する運用が変更されることとなる。

特に、進歩性欠如の拒絶理由や無効理由を回避するための「除くクレーム」とする補正又は訂正は今後認められなくなる。これに対し、日本では進歩性欠如の拒絶理由や無効理由を回避するためであっても、「進歩性欠如解消のため」という点のみにより当該補正・訂正が認められないということはない(新規事項追加や明確性の要件を満たす必要はある)。よって今後台湾で進歩性の拒絶理由や無効理由の解消のために除くクレームとする補正や訂正を行うことは認められないという点には十分に注意しなければならない。

 

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