台湾 11月施行の意匠審査基準の改訂内容(建築物の外装内装を保護対象として明確化など)の紹介

Vol.76(2020年10月14日)

台湾特許庁は10月5日、意匠審査基準の改訂内容を公布した。改訂後の意匠審査基準は2020年11月1日から施行される。今回の改定内容は主に(1)建築物の外装及び内装を保護対象として明文化、(2)画像・アイコン意匠に関する規定の修正、(3)分割出願の規定の緩和、(4)明細書及び図面の開示要件の緩和の4つとなっている。以下に今回の改正内容の詳細を紹介する。

1.建築物の外装及び内装を保護対象として明文化

台湾特許庁は建築物の外装や内装は意匠法として保護されるという立場を採っており、実際に登録された事例もあまり多くはないが存在する。しかし現在の専利法や審査基準において、建築物の外装や内装は意匠法として保護されるか否かについては明確に規定されていないため、建築物の外装や内装デザインは意匠として出願し保護を受けることができるのかわからないという声が挙がっていた。なお、現在の審査基準は2013年に改訂されたものであるが、2013年改定前の審査基準(2005年版)においては、「意匠は固定される動産であり消費者が独立して取引可能なものでなければならない」と規定されており、意匠法の保護対象とならない例として、家屋、橋などの建築物又は室内、庭園などの不動産デザインが挙げられていた。こうした規定は2013年の改定により削除されたという経緯がある。

今回の改訂審査基準では、以下の内容が追加され建築物の外装や内装は意匠法の保護対象であることが明確化された。

「意匠が応用される物品とは、生産手続きにより再現される製品を指し、ここには工業又は手作業で製造されるもの、建築物、橋若しくは室内空間等のデザインが含まれる。」

改訂審査基準に掲載されている内装デザインの意匠の例を以下に示す。

また現時点で既に登録されている建築物の外装の意匠及び内装の意匠の例を以下に示す。

また建築物及び内装デザインそのものではなく、建築物及び内装デザインの「設計図」については、原則として著作権で保護される。具体的には、建築物の設計図は建築著作物として、内装デザインの設計図は図形の著作物として保護される1。建築著作物について、建築物の設計図に基づき建築物を建造する行為は、複製行為に該当するため、第三者が建築物の設計図に基づき無断で建築物を建造した場合、建築物の設計図の著作権の侵害となる。また図形の著作物について、図形の著作をコピー等するなど平面的に転換する行為は、複製行為に該当する。これに対し、図形の著作に基づき平面から立体へ転換する行為、例えば内装デザインの設計図に基づき、内装デザインを立体的に完成させる行為は、複製行為には該当しないため、図形の著作権の侵害を構成しない。

2.画像・アイコン意匠に関する規定の修正

現行法では、「物品に応用されるコンピューター画像及び図形化ユーザインタフェースも、本法によって意匠登録出願をすることができる」と台湾専利法第121条第2項に規定されている。この規定は2013年1月1日施行の改正専利法において追加されたものである。つまり台湾では、コンピューター画像(Computer-Generated Icons、以下Icons)及び図形化ユーザインタフェース(Graphical User Interface、以下GUI)について意匠権により保護することが可能だが、当該Icons及びGUIは、スクリーン、モニター又はディスプレイパネル若しくはその他表示装置関連の物品に応用されるものでなければならない。しかし現行法下では、次の点が問題視されており、改正を求める声が出ていた。(1)画像デザインで応用される物品を「表示装置」とする必要があるため、投影又はVR等の最新テクノロジーによって表示されるコンピューター画像は保護対象とはならない。(2)現行専利法では「間接侵害制度」が導入されていないため、第三者が画像デザインの外観を含むソフトウェアを製造販売しているが、当該画像デザインの外観を含むハードウェア製品(画像デザインが応用された「物品」)の製造販売を行っていない場合には、意匠権の侵害とはならず、権利者にとって、こうした状態における権利行使は困難となっている。(3)意匠の物品について、「スクリーン」「モニター」「表示パネル」などの上位概念の物品とすることが認められており、こうした物品とすることで広い権利範囲とすることが可能となっている、つまり、「表示パネルの画像」として意匠権を取得すれば、家電等の表示パネルにおける画像を使用する第三者に対して、権利主張をすることができた(両物品は類似と認定)が、依然として保護される態様には限りがあり、また侵害対象の認定も困難が伴っていた。

こうした声を受け、改訂審査基準では意匠に係る物品は「コンピュータプログラム」等、実体形状を有しないソフトウェア又はアプリであってもよい、と改訂されている。また、従来は図面において画像デザインが応用される物品を点線等で描く必要があったが、こうした規定も削除されている。改訂審査基準での規定内容は以下のとおりである。

「画像デザインについて、当該コンピューター画像(Computer Generated Icons)及び図形化ユーザインタフェース(Graphical User Interface, GUI)はコンピュータプログラムによって生成されるものであり、且つ当該コンピュータプログラムも広義的に産業上利用可能な実用的物品であることから、ここでいう物品は『コンピュータプログラム』等、実体形状を有しないソフトウェア又はアプリであっても良い。『コンピュータプログラム』とは、コンピューターが読取可能なプログラム又はソフトウェアであり、外形は問わない。」

上記内容に基づき、改訂審査基準下では投影やVR等に応用される画像といった物品から離れたグラフィックイメージそのものについて、物品をコンピュータプログラム等とすることで、意匠権により保護することが可能となる。また台湾特許庁は、今回の改訂により上述した問題(2)の解決、ソフトウェア業者の侵害責任を明確化することを目的すると示しているが、 意匠権を含む専利権の侵害判断は「専利侵害判断要点」に基づいて行われる。しかし、この「専利侵害判断要点」については改正がされていない。加えて、台湾では依然として間接侵害の規定は採用されていないことから、画像やGUIの意匠権侵害の事件において、ソフトウェア業者の侵害責任を問えるのか否かについては、裁判所が実際にどのように判断するのかを待つ必要がある。

3.分割出願の規定の緩和

意匠の分割出願について、出願に係る意匠が実質的に2以上の意匠である場合、分割することができると専利法第130条に規定されている。分割の内容制限に関し、現行審査基準には「出願時に1つの物品に応用される1つの外観しか開示されておらず、他の参考図や使用状態図も提出されていない場合、実質的に2つ以上の意匠が明確に開示されているとは言えないため、『意匠を主張しない部分』で開示された内容について、分割を行うことはできない。」と規定されている。当該内容を示す例として、以下の図が示されている。

つまり当該内容は、カメラの全体意匠を出願していた場合、カメラのレンズ部分の部分意匠を分割出願することは認められないことを規定している(下図)。

一方その逆の場合、つまりカメラのレンズ部分の部分意匠を出願していた場合、破線で示されるカメラの全体意匠を分割出願することについては明確な規定が記載されていないが、実務上は認められていた。

こうした現状の分割規定について、補正や出願変更の基準と異なるという問題があった(補正の基準では、部分意匠として出願し補正により破線部分を含む全体意匠へとすることが認められている)。そこで改訂審査基準では、上述した内容の箇所は削除されるとともに、分割の要件を補正や出願変更のものと一致させるよう修正された。具体的に、以下のような分割は認められることになる。

(参考図で開示された別の意匠を分割)

(図で開示された別の部品に係る意匠を分割)

(全体意匠から部分意匠への分割)

改訂審査基準の内容によれば、カメラの全体意匠を出願していた場合、カメラのレンズ部分の部分意匠を分割出願することは認められるようになる。またその逆の場合、つまりカメラのレンズ部分の部分意匠を出願していた場合、破線で示されるカメラの全体意匠を分割出願することについても、従来通り認められる。

4.明細書及び図面の開示要件の緩和

専利法施行細則第53条第1項では「意匠の図面は、意匠の外観を十分に開示するに足りる図面を有していなければならず、意匠が立体である場合は立体図2が含まれなければならない。…」と規定されている。ここでいう「意匠の外観を十分に開示するに足りる図面」について、現行審査基準の規定においては、意匠の全体を開示する図面を全て含まなければならないというのが原則であり、例外として左右や上下が同一・対称である図面や一般消費者が注意を払わない図面については、例外的に省略できる(この場合は意匠の説明で省略する理由を声明することが必要)、とされている。

これに対し改訂審査基準では、意匠の全体を開示する図面を全て含まなければならず、開示されていない図面は意匠登録を受けようとしない部分とみなす、という内容が原則として規定された。そして例外として、左右や上下が同一・対称である図面や直接知ることができる内容の図面の場合は、省略することができるが意匠の説明で省略する理由を声明することが必要である、と規定された。つまり、意匠登録を受けようとしない部分の図面については、理由を声明することなく当該図面を省略することができる。一方、意匠登録を受けようとする部分の図面であるが、上下左右の同一・対称である又は直接知ることができるという理由により省略したい場合は、理由を声明することで省略することができる。なお、直接知ることができるという点について、改訂審査基準では次の例が挙げられている。

この例では、意匠の厚さが非常に薄く厚さは直接知ることができるため、意匠の説明において「正面図、背面図、左側側面図及び右側側面図の厚さは極めて薄い簡単な図面であるため省略する」と声明することで、正面図、背面図、左側側面図及び右側側面図は省略することができ、正面図、背面図、左側側面図及び右側側面図についても意匠登録を受けようとする部分となる。

またもう1つの例として、以下のものが挙げられている。この例では斜視図と平面図のみが開示されその他の図は省略されており、意匠の説明においても省略された理由は声明されていない。この場合、正面や側面の具体的形状や特徴が不明であり、意匠登録を受けようとする部分はどの部分なのか不明であるため、開示要件(実施可能要件違反)と認定される。

 

[1] ただし、内装デザインの設計図が建築の著作物であると認定された事例が近年存在する(知的財産裁判所2018年民著上字第16号民事判決)。

[2] 斜視図と同義である。

キーワード:意匠 法改正 台湾

 

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