台湾、日本、米国、中国、欧州におけるソフトウエア関連発明の発明該当性に関する判断基準の相違及び出願戦略分析

Vol.114(2022年7月19日)

人工知能技術の発展に対応するため、台湾特許庁はソフトウエア関連発明審査基準を改訂し、2021年7月1日に同内容を公布・施行した。改訂版審査基準における発明該当性の規定は、日本の規定をかなり参考にした内容となっている。特許制度の国際調和が進み、制度内容が国ごとに相違する状況は少なくなったものの、ソフトウエア関連発明の発明該当性に関しては、五大特許庁で依然として異なる規定が設けられ、中でも米国、日本、欧州、中国の各特許庁では全く異なる判断基準が採用されているとも言える。そのため、同一のソフトウエア関連発明出願案であっても、出願先によってはその後の結果に大きな差が生じる可能性がある。本編では台湾、日本、米国、中国、欧州におけるソフトウエア関連発明の発明該当性に関する規定の相違を紹介し、同一の事例を用いて、それが各国で採用されている発明該当性要件を満たすか否かの分析を行うほか、複数国で出願する際の出願戦略を提供する。

台湾 発明該当性判断に関する規定

2021年7月に施行された改訂版ソフトウエア関連発明審査基準において、発明該当性判断は以下のステップを含むと規定されている1

1. 明らかに発明に該当する態様か否かを判断する。

明らかに発明に該当する態様の例として、「機器に対する制御を行うもの、又は制御に伴う処理を具体的に実行するもの」「技術的性質のデータに基づいて情報処理を具体的に行うもの」が挙げられる。

2. ソフトウエアによる情報処理はハードウエア資源を利用することで具体的に実現されているか否かを判断する。

前記ステップ1によって判断出来ない場合、発明がソフトウエアとハードウエア資源の協働によって情報処理の目的に基づいて特定のデータ処理装置又は方法を実現するか否かを判断する。

上述の通り、2021年7月以降における台湾でのソフトウエア関連発明の発明該当性判断は日本と同様に、「ソフトウエアによる情報処理はハードウエア資源を利用することで具体的に実現されているか否か」に重点が置かれている。改訂版審査基準には様々な事例が記載されているが2、中には日本の審査基準に記載の事例とほぼ同一のものもある。そのため今後台湾での審査実務において、ある程度日本の審査基準が参考にされたり、日本での審査結果がそのまま援用される可能性がある。

このほか、出願人に発明該当性の判断基準を理解してもらうため、台湾特許局は2022年1月、判断の参考となる事例が多数記載された「資訊科技専利審査案例彙編」を公布している。以下に事例を1つ紹介する。

「資訊科技專利審查案例彙編」事例4.1

[請求項1](発明1)

ユーザーの個人信用を評価するために用いるオリジナルデータを収集すること、
 予め設定された信用スコア規則によって前記ユーザーの前記オリジナルデータを転換処理し、個人信用スコア表を形成すること、
 を含む、個人信用評価方法。

[請求項2](発明2)

ユーザーの個人信用を評価するために用いるオリジナルデータを収集すること、
 前記ユーザーの前記オリジナルデータを処理モデルに入力し、個人信用スコア表を作成すること、
 前記個人信用スコア表を出力して表示すること、
 を含む、個人信用評価方法。

この例の場合、台湾では以下の理由により「請求項1と2に係る発明は、いずれも発明に該当しない」という審査結果になる。

発明1は、人為的に設定又は取り決めされた信用スコア規則によってデータの転換処理を行うものであり、自然法則を利用するものではなく、明らかに発明に該当する態様ではない。よって当該個人信用評価方法は人為的な取り決めの方法に過ぎないとみなされ、自然法則を利用したものではなく、発明に該当しない。

発明2は、処理モデルを用いており、明らかに発明に該当する態様か否か判断できないため、上記(2)のソフトウエア観点から更に判断する。

発明2は、さらに「処理モデル」を用いているが、ユーザーの個人信用を評価するオリジナルデータはどのような技術要素を通じて取得されるか、又は「処理モデル」によって具体的に実行されるデータ処理の技術手段が記載されてない。よって、発明2はコンピュータソフトウエアのデータ処理が具体的に開示されていないため、発明に該当しない。

米国 発明該当性判断に関する規定

米国専利法及び2016年版米国特許審査便覧(MPEP)の規定において、発明該当性判断は以下のステップを含むと規定されている3

1:クレームが方法、機械、製造物又は物の組み合わせか否かを判断する。

2A:クレームが自然法則、自然現象又は抽象的概念(司法例外)に係るか否かを判断する。

2B:クレームが前記司法例外を顕著に超える追加要素を有し、この追加要素が抽象的概念に意義ある制限を付与し、適格性を有する保護対象へとクレームの本質を転換させるに足りるか否かを判断する。

上記ステップ1は発明該当適格性についての一般規定であり(米国専利第101条(35 U.S.C. §101))、ステップ2A及び2Bはソフトウエア関連発明に対する特別な判断方式で、通常Mayoテストと呼ばれている4。米国では発明該当性に関する規定がやや抽象的であり、「抽象的概念」とは何か、「司法例外を顕著に超える追加要素」とは何かに関する明確な定義がなく、一般的には過去の判例から解釈が行われる。以下、過去の判例を用いた解釈を一部紹介する。

2A:ステップ2Aの抽象的概念に属する例として、無料内容を提供する前に広告を流す、特定の特徴を有するメニューを生成するもの等が挙げられる。抽象的概念に属しない例として、自己参照型データベース構造、コンピューターアニメーションを生成するための自動的な規則の使用、未起動のアプリケーションからの情報の表示等が挙げられる。

2B:ステップ2Bの司法例外を顕著に超える追加要素の例として、Webフィルタリングツールの分散式インストール、1つ目のWebページと2つ目のWebページの「外見や感覚」を組み合わせたWebページ等が挙げられる。一般的に司法例外を顕著に超えない追加要素と認定される例として、「理解しやすい、慣用的な及び従来の」もの、又は一般的な技術や手配の手段等が挙げられる。

一般的にステップ2Bの「司法例外を顕著に超える追加要素」は、発明の技術的特徴が「先行技術」に対して顕著な効果を奏するかではなく、前記技術的特徴が「発明そのもの」に対して顕著な効果をもたらすかという観点から判断される。これは誤解しやすい部分であるため、特に注意が必要である。

また、2021年10月4日に出された最新判決(CosmoKey v. Duo Security5)では、米国連邦巡回区控訴裁判所は地方裁判所の判決を覆し、ソフトウエア関連発明の発明該当性を判断する際は、「まず出願に係る発明の『明細書そのもの』に前記発明が特定の効果を向上させる内容が記載されているかを確認し、次にそこからステップ2Bの『司法例外を顕著に超える追加要素』に関する判断を行うべきである」との見解を示している。

上述した個人信用評価方法の発明2(請求項2)の場合、米国における発明該当性の判断は以下の通りである。

(1)ステップ1

発明2は方法に関するものであり、当ステップの条件を満たす。

(2)ステップ2A

発明2の「個人信用スコア表を出力して表示する」は抽象的な概念に係るため、引き続きステップ2Bで判断を行う。

(3)ステップ2B

発明2の「個人信用スコア表を作成する処理モデル」という内容は本請求項において一般的な技術手段であり、司法例外を顕著に超える追加要素には該当しないと見なされる可能性が高い。しかし、前記最新判決の内容によれば、発明2がステップ2Bの条件を満たすか否かを正確に判断するには、明細書そのものに発明が特定の効果を向上させる内容の記載があるかを検討すべきである。

以上から米国で出願する際には、同国における最新の審査動向に対応し、請求項全体がステップ2Bの発明適格性の判断基準を満たすよう、明細書に発明が奏する顕著な効果を明記することに注意しなければならない。

日本 発明該当性判断に関する規定

2015年版コンピュータソフトウエア関連発明に係る審査基準の規定において、発明該当性判断は以下のステップを含むと規定されている6

  1. 一般的な発明における規定に基づき、自然法則を利用した技術的思想の創作であるか否かを判断する。
  2. ステップ1によって判断出来ない場合、「ソフトウエアの観点に基づく考え方」により、自然法則を利用した技術的思想の創作であるか否かを判断する。この「ソフトウエアの観点に基づく考え方」による判断とは、「ソフトウエアによる情報処理がハードウエア資源を用いて具体的に実現されているか否か」という意味である。

他国と比較すると、日本の発明該当性に関する規定は比較的緩く内容も明確なため、出願人も他国に比べ規定に沿った対応が検討しやすいと思われる。日本で出願する場合には、前記発明が実際に行う「情報処理」やソフトウエアとハードウエア資源について請求項に記載することが好ましく、これによりある程度発明該当性の要件が認められやすくなる。一方で日本では、請求項の記載要件や明細書の実施可能要件に対する審査が厳格であることから、記載要件違反で拒絶査定を受けることのないよう、明細書の記載には十分に注意すべきである。

上述の通り、台湾の発明該当性の判断基準は日本の基準と類似しているため、日本の審査結果が台湾と大きく異なることはあまりない。上述した個人信用評価方法の発明2(請求項2)を例とした場合、発明該当性要件を満たすためには、請求項2に「ユーザーの個人信用を評価するために用いるオリジナルデータがどの技術的要素から得られるのか」、又は「処理モデルが実行する情報処理の具体的な技術手段」などの内容を記載する必要がある。

中国 発明該当性判断に関する規定

2019年版のソフトウエア発明専利審査指南の規定において、発明該当適格性判断は以下のステップを含むと規定されている7

  1. 技術特徴を含むか否かを判断する。
  2. 技術特徴を含む場合、続いて発明が自然法則を満たす技術的効果をもたらすために、技術手段を用いて技術課題を解決しているか否かを判断する。

前記ステップ2は「技術三要素」と呼ばれる。例えば、発明そのものは人が主観的に設定した規則ではなく自然法則を利用してある技術課題を解決するものであり、且つアルゴリズム又は商業方法そのものを除く技術的効果がもたらされる場合、発明は適格性を有する。

こうした規定の下、明細書において、発明が応用できる状況及び当該状況に現存する技術課題について充分に説明するとともに、複数の実施例によってアルゴリズムがどのように各種状況と結合されるのか、結合された後にどのような技術的効果がもたらされるのかについて、詳しく説明することが好ましい。

上述した個人信用評価方法の発明2(請求項2)を例とした場合、前記個人信用評価方法が解決しようとする課題は、「ユーザーの個人信用をどのように客観的且つ正確にスコア化するか」である。ここで、明細書に前記課題に対する従来技術の欠点や、技術手段と応用場面を組み合わせた関連実施例が記載されていない場合、前記解決しようとする課題はビジネス方法に過ぎず、また出願に係る発明が技術的効果をもたらす技術手段を用いていないため、請求項2は発明該当性要件を満たしていないと見なされる。

ただ現在の中国審査実務では、特にビジネス方法(ビジネスモデル)に係る発明において、技術課題の認定が出願人と審査官で異なることや、案件ごとに技術課題の認定基準が一致していないという状況が見られる。出願人は発明該当性を満たすと主張したとしても、上述の例のように「発明が解決しようとする技術課題がビジネス方法又は数学的方法に過ぎず、発明の技術手段では技術課題を解決できず、技術的効果をもたらさないため、発明該当性を満たさない」と審査官に認定されることがある。

欧州 発明該当性判断に関する規定

欧州特許条約(EPC)第52条第2項により、以下の場合は発明該当性を満たさないと判断される。

  • 発見、科学的理論又は数学的方法。
  • 美的創作。
  • 精神的活動を行うため、遊戯を行うため、または営業を行うための計画、規則、および方法、ならびにコンピュータプログラム。
  • 情報の提示。

但し、技術的特徴を有するコンピュータプログラムは上記に該当しないと規定されている8。欧州特許庁審査ガイドラインG-II, 3.6によると、発明該当性の有無を判断する主な根拠は、コンピュータプログラムが「さらなる技術的効果」をもたらすか否かにある。この「さらなる技術的効果」は、先行技術と比較した良い効果ではなく、プログラム(ソフトウエア)とそれが動くコンピューター(ハードウエア)との間の「通常」の物理的な相互作用を超えることを要する。このような判断の下、非技術的な目的を果たすあるプログラムが同一の非技術的な目的を果たす先行プログラムに比べ掛かる計算時間が少ないとしても、それは「さらなる技術的効果」の存在を証明するものではない。

よって米国と同様、欧州特許庁審査ガイドラインでは「技術的特徴」の定義は明文化されておらず、いくつかの事例が判断の参考として示されている。また、技術手段やソフトウエアが実際に実行するステップ、それによりもたらされる有利な技術的効果を明細書に具体的に記載することができれば、発明該当性違反の拒絶理由解消の大きな助けとなる。

上述した個人信用評価方法の発明2(請求項2)を例とした場合、明細書に「どのようにオリジナルデータを収集するのか」、「前記オリジナルデータとは具体的にどういった資料なのか」、「前記処理モデルはどのように個人信用スコア表を作成するのか」、「これらの技術的特徴によりどのような技術的効果がもたらされるのか」についての記述があれば、これらの技術内容に関する記載に基づいて請求項を限定することにより、発明該当性違反を解消することができる。

明細書作成における対策と提案

このように日本、米国、中国、台湾、欧州では、ソフトウエア関連発明の発明該当性に対する要件が大きく異なることが分かる。米国と欧州の判断基準は比較的厳格である上、把握しづらい。欧州の場合発明該当性要件を満たすためには、複数の技術的特徴で請求項を限定する必要がある可能性がある。一方、日本と台湾の判断基準は比較的緩く、中国に関しては今後法改正による判断基準のさらなる緩和が期待される。

米国と欧州に関して言えば、手段がもたらす技術的貢献を明細書に十分に記載することが好ましい。前記貢献は技術そのものに対する実質的な貢献でなければならず、コンピュータプログラムにおける一般的なステップ又は慣例的なステップであってはならない。欧州の場合、使用している語句によって手段が非「技術的」であると認定されるのを避けるため、ビジネス方法の用語と見なされやすい語句を技術用語に置き換えるなど、使用する語句にも配慮しなければならない。また、米国及び欧州では発明適格性の判断基準がやや曖昧で、事例による解釈が主となるため、米国や欧州での最新判決を随時把握し、出願や対応策の調整を行うことが重要である。

一方、台湾・日本・中国における発明該当性の判断基準は比較的寛容である。台湾及び日本に関して言えば、請求項にハードウエア及びソフトウエア資源、発明が実際に行う情報処理について記載することが好ましい。これにより発明該当性違反の指摘を受けることは防げるが、日本では明細書の記載に厳格な要件が設けられているため、この点も合わせて注意が必要である。

中国では、発明該当性を高めるため、明細書に技術課題、手段や効果を明記するほか、応用場面を複数記載することが望ましい。今後発明該当性の要件緩和が期待されるが、特許権の取得には発明該当性だけでなく、進歩性などの要件も満たす必要があることから、発明該当性の要件が緩和されたとしても、明細書記載の重要性を疎かにしてはならない。

[1 台湾専利審査基準第2篇第12章第3.2「判断の手順」

[2 台湾専利審査基準第2篇第12章第5「事例」

[3 米国特許審査便覧(MPEP)2106 Patent Subject Matter Eligibility

[4 Mayo Collaborative Services v. Prometheus Laboratories, Inc., (CAFC 2012)

[5 CosmoKey Solutions GmbH v. Duo Security LLC (Fed. Cir. 2021)

[6 日本特許庁特許・実用新案審査ハンドブック(2015)附属書B第1章「コンピュータソフトウエア関連発明」

[7 第二部第9章「コンピュータプログラムに係る発明特許出願の審査に関する若干の規定」

[8 欧州特許庁審査ガイドラインG-II, 3.6

キーワード特許 記載要件 台湾  中国 米国 日本 ヨーロッパ  電気

 

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