米国、中国、欧州、台湾におけるソフトウェア関連発明及び機械関連発明の進歩性判断に関する規定の相違、及び対応策分析

Vol.109(2022年4月12日)

従来より、発明の進歩性の有無は、拒絶理由として最もよく指摘される重要な問題である。国によって進歩性に関する規定が異なり進歩性の判断方法についても大きく異なることから、全ての国において同様の明細書等の記載方針及び応答策を採ることで最大の権利範囲を取得することが難しい。また、技術分野の異なる発明について進歩性を判断する際の考え方や着眼点も異なる。例えば、通常、化学関連発明と機械関連発明では進歩性を判断するにあたり着眼点は異なる。今回はソフトウェア関連発明及び機械関連発明を中心に、米国、中国、欧州及び台湾におけるソフトウェア関連発明及び機械関連発明の進歩性判断に関する規定の相違を比較し、それらについての対応策上のアドバイス、及び同一の出願書類を用いて各国でスムーズに特許権を取得することができる方法を提供する。

進歩性判断に関する各国の規定

米国

米国特許審査便覧(MPEP)において、進歩性判断の手順は次のステップを含むと規定されている1

  1. 先行技術の範囲及び内容を確定する;
  2. 請求項に係る発明と先行技術との相違点を確定する;
  3. 当業者の技術水準を確定する;
  4. 客観的証拠(二次的考慮事項とも呼ばれる)を考慮する、二次的考慮事項としては、商業的成功、長期的に存在する未解決なニーズ、他者による失敗及び予期せぬ結果等の証拠を含むことができる。

この規定から分かるように、米国特許庁(USPTO)は請求項に記載されている全ての特徴について検索及び審査を行わなければならず、請求項に記載されている内容は全て進歩性の根拠の一部となるため、審査官は当該記載内容が技術的特徴であるか否かを問わず、全ての記載内容について検索を行い進歩性を有しない理由を説明しなければならない。

但し、ここで注意すべきことは、米国特許審査便覧において組み合わせる引用文献の数については制限されておらず、審査官は多数の引用文献を組み合わせることで請求項に記載の全ての技術的特徴が開示されていることを証明し、これにより当該請求項に係る発明が進歩性を有しないという論理付けを行うことができることである。

審査官が多数の引用文献を組み合わせることで請求項に係る発明は進歩性を有しないことを証明した場合、対応策として、これら引用文献の開示内容から応答に有利な関連記載内容を探し出し、これにより反論を行うことが考えられる。例えば、当業者を請求項に係る発明の技術的方向とは反対の方向を採るように導くような記載内容、引用文献で開示された実施態様では請求項に係る発明は実現できない関連記載内容、又は引用文献で開示された可能性が多すぎるため当業者は過度な実験を行わなければ請求項に係る発明を達成できない関連記載内容などがあれば、些細な手がかりであってもこれにより反論を図ることができると考える。

中国

中国専利審査指南において、進歩性判断の手順は次のステップを含むと規定されている2

  1. 最も近い先行技術を確定する;
  2. 発明の(先行技術との)技術的特徴の相違点及び発明が実際に解決しようとする技術課題を確定する;
  3. 最も近い先行技術及び発明が実際に解決しようとする技術課題から、請求項に係る発明は容易に想到し完成させることができるものであるか否かを判断する。

ステップiiにおいて、審査官は請求項に係る発明と引用文献に係る発明との間の技術的特徴の相違点に基づき、当該相違点により達成できる技術的効果によって発明が実際に解決しようとする技術課題を確定する。即ち、拒絶理由通知及びそれに対する応答において、審査官が認定する発明が実際に解決しようとする技術課題が、明細書内で強調されている技術課題と異なる可能性があり、また出願人が思っている技術課題と異なる可能性もある。このような状況は欧州特許庁(EPO)の進歩性判断基準におけるものと類似する(EPOの進歩性に関する判断方法は後述する)。

続いてステップiiiにおいて、審査官は当該技術的特徴の相違点に基づき請求項に係る発明が進歩性を有するか否かの論理付けを行う。現在中国の実務において、審査官が当該技術的特徴の相違点は一般的な技術的手段による置き換えに過ぎないとして請求項に係る発明の進歩性を否定することが極めてよく見られる。

よって、中国で機械関連発明及びソフトウェア関連発明に関し進歩性について反論する際、まず、ステップiiにおいて審査官が認定した技術的特徴の相違点が正しいか否か、例えば、審査官が請求項に係る発明の構成要素と引用文献に係る発明の構成要素について誤解しており誤って比較しているか否かに注意すべきである。次に、発明が実際に解決しようとする技術課題について、明細書に記載されている当該課題を解決するための技術的手段を確認し、当該技術的手段に応じて構造や、接続関係、位置関係等から、当該技術的手段により達成される技術的効果を論じ、これによって請求項に係る発明と引用文献に係る発明とを比較する。もし引用文献との間に相違がある場合、請求項に係る発明と引用文献に係る発明との間には相違点が存在すると審査官に認めさせるか、又は当該技術的手段は一般的な技術的手段ではないことを主張・証明することが比較的容易となる。

欧州

欧州特許庁(EPO)では、進歩性の判断に以下のステップを含む「課題解決アプローチ」を採用している。

  1. 「最も近い先行技術」を決定する。
  2. 解決すべき「客観的な技術的課題」を決定する。
  3. 当業者の技術水準を確定する;
  4. 最も近い先行技術及び客観的な技術的課題から出発して、その発明が通常の知識を有する者にとって自明的であるか否かを検討する。

上記ステップiiでは、まず出願に係る発明と最も近い先行技術との技術的特徴の相違点を決定し、次にその技術的特徴の相違点から「客観的な技術的課題」を決定する。実際、中国でもEPOと類似する判断方法が採用されている(詳細は中国箇所を参照)。

そのため審査官の認定する客観的な技術的課題が、明細書に記載された技術的課題と異なる可能性がある。また、客観的な技術的課題を決定する根拠とできるのは「技術的特徴」のみであり、この点はソフトウェア及び機械分野の特許において、EPOが発明の進歩性有無を判断するポイントとなる。

また、客観的な技術的課題を決定するステップでは、明細書に技術的効果が十分に記載されているかが極めて重要となる。各要素が奏する技術的効果が客観的な技術的課題を決定する根拠となることから、明細書に某要素が奏する技術的効果の記述が欠如し、且つ前記要素が請求項における技術的特徴の相違点となる場合、審査官は前記要素が先行技術に対して技術的貢献をもたらさないため、当業者であれば容易に完成できるとし、発明全体の進歩性を否定する可能性がある。

台湾

  1. 特許出願に係る発明の範囲を決定する。
  2. 関連する先行技術に開示された内容を決定する。
  3. 当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者の技術レベルを決定する。
  4. 当該発明と関連する先行技術が開示する内容との間の差異を決定する。
  5. その発明の属する技術分野において通常の知識を有する者が先行技術に開示された内容及び出願時の通常の知識を参酌して、特許出願に係る発明を容易に完成できるか否かを判断する。

ステップvでは、進歩性を肯定/否定する方向に働く要素の判断を行うが、各要素には以下の態様が含まれる。

進歩性を否定する方向に働く要素 進歩性を肯定する方向に働く要素
複数の引用文献を組み合わせる動機がある 阻害要因
(1)技術分野の関連性 有利な効果
(2)解決しようとする課題の共通性 補助的判断要素
(3)機能又は作用の共通性 (1)予期できない効果を有する
(4)示唆又は提案 (2)長期的に存在する課題を解決した
簡単な変更 (3)技術的偏見を克服した
単なる寄せ集め (4)商業的成功を収めた

ソフトウェア及び機械関連特許では、進歩性を否定する方向に働く要素として挙げられている「複数の引用文献を組み合わせる動機」に注意が必要である。2017年に改訂された専利審査基準には、後知恵による認定を避けるため、審査官は引用文献と出願に係る発明との間の関連性を考慮するのではなく、複数の引用文献間における関連性を考慮しなければならないとの内容が明記されている。

このほか上記からも分かるように、台湾における進歩性の判断方法は、日本と米国の審査基準を合わせたものといえ、欧州で採用されている方法とは少し異なる。現行の台湾専利審査基準でも、請求項に記載の特徴が技術的特徴/非技術的特徴であるかの区別はせず、請求項全体を観察し、時には複数の引用文献を組み合わせ、進歩性を有するか否かを判断するよう規定されている。しかし米国の判断方法と異なるのは、台湾では実務上、1つの請求項の審査において通常は4つ以上の引用文献を組み合わせることはない点である。

また2021年7月に台湾特許庁が公表したソフトウェア関連発明審査基準によると、進歩性を否定する方向に働く要素の「簡単な変更」には「技術効果に寄与しない特徴」という態様が含まれる。したがって、出願に係る発明と引用文献の技術内容の相違点である技術的特徴が技術的効果を奏さない、又は請求項における他の技術的特徴と協働することで直接的又は間接的に技術的効果を奏さない、例えば相違点である技術的特徴がビジネス方法そのものである場合、通常知識の簡単な変更又は先行技術におけるビジネス方法の簡単な変更と認定できると規定されており、出願に係る発明がソフトウェア関連発明である場合、上記の点に注意が必要である。

事例分析

以下、欧州審査ガイドライン(EPO Guidelines)G-VII, 5.4.2.1に記載されている事例を用いて、米国、中国、欧州及び台湾の特許庁が進歩性を審査する際に指摘する拒絶理由を想定して比較する。

【請求項】

  1. ユーザーが、購入する製品を2つ以上選択し、
  2. モバイルデバイスは、選択された製品のデータ及びデバイスの位置をサーバーに送信し、
  3. サーバーは、販売業者のデータベースにアクセスし、選択された製品の少なくとも1つを提供する販売業者を特定し、
  4. サーバーは、デバイスの位置及び特定された販売業者に基づき、過去の注文で決定された最適なショッピングツアーが記憶されているキャッシュメモリにアクセスし、選択された製品を購入するための最適なショッピングツアーを決定し、及び
  5. サーバーは、最適なショッピングツアーをモバイルデバイスに送信し表示させる、モバイルデバイスでの買い物を容易にする方法。

上記請求項に係る発明と引用文献に係る発明との相違点は、引用文献にはユーザーは購入したい商品を1つ選択できると開示されているのに対し、請求項に係る発明にはユーザーは商品を2つ以上選択できると記載されている点のみであると仮定し、以下に各国での審査において想定される拒絶理由及びそれに対する対応策を比較・分析する。

米国

米国では、全ての技術的特徴について検索及び審査を行わなければならず、たとえ審査官が当該技術的特徴の相違点は当業者であれば容易に想到し完成させ得るものであると認定したとしも、当該相違点について通常知識であることを立証しなければならず、「それは通常知識である」という一言で済ますことはできない。しかし、もし審査官が「製品を2つ以上選択する」という技術的手段が開示されている引用文献を確かに発見している場合、対応策として、引用文献間の関連性から検討し、これら引用文献には互いの技術的内容を明らかに排除する関連記載内容があるか否かを探り、それに基づき反論を行うことが考えられる。

中国

中国では、技術的特徴の相違点を確定した後、まず当該相違点に基づき発明が実際に解決しようとする技術課題を確定しなければならない。上記例において、引用文献に対して、発明が実際に解決しようとする技術課題は、モバイルデバイスによる買い物の方法をどのように2つ以上の製品を効率的に購入できる方法にするかにある。

この場合、中国の審査官は、上記請求項に係る発明における「購入する製品を2つ以上選択する」という技術的手段は一般的な技術的手段による置き換えに過ぎないとして当該発明は進歩性を有しないと認定する可能性がある。この時、対応策として装置における各ソフトウェア又はハードウエアの接続関係から反論を図ることが考えられ、明細書において当該ステップの相違は単に選択する製品の数の違いだけでなく、ソフトウェア又はハードウエアの接続関係の違いによるものであると明確に記載されていれば、当該技術的特徴の相違点は一般的な技術的手段ではないことをよりよく証明できると思われる。

欧州

まず、前記請求項の技術的特徴を分析する。前記請求項の「サーバに接続された移動体装置を含むシステムであって、前記サーバはキャッシュメモリを具え、且つデータベースに接続している」は技術的特徴、他の記載(例えば、ステップa「ユーザーが購入する製品を2つ以上選択し」など)は非技術的特徴である。

次に、最も近い先行技術から前記請求項の技術的特徴の相違点を決定し、そしてその技術的特徴の相違点から本件発明の解決すべき客観的な技術的課題を決定する。そしてここで「技術的特徴を決定する」という1つ前のステップの重要性が明らかとなる。例えば、請求項と先行技術との相違点がステップaだけの場合、前記ステップaはビジネスコンセプトに過ぎない非技術的特徴であり、技術的な目的を具えないため、前記ステップaは先行技術に対して技術的効果を奏さず、当業者であればステップaを容易に完成することができ、その他特徴と先行技術との間にも相違点がない場合、前記請求項は進歩性を有しないと認定される。

台湾

本件発明はソフトウェア関連発明に属するものであるため、実務上、審査官はまず2~3個の引用文献を組み合わせ、比較を行う。その後、引用文献で開示されていない技術的特徴(例えばステップa)がある場合、前記技術的特徴は「通常知識に過ぎない」又は「技術的効果に寄与しない特徴であり、当業者であれば引用文献に記載の技術内容に基づく簡単な変更により完成できる」ため、前記請求項は進歩性を有しないと認定する可能性がある。

明細書作成における対策と提案

上記の通り、欧州、中国及び台湾では、請求項に記載の技術的特徴が奏する効果を重んじる傾向にあり、しばしば請求項の進歩性有無を判断する鍵となる。したがって明細書を作成する際、各技術的特徴が奏する効果を明記することが好ましい。これにより審査段階で某特徴が相違する技術的特徴だと見なされた場合、中国においては、発明が実際に解決する技術的課題を決定する根拠とし、関連文献に技術的示唆が開示されているか否かの判断に影響を与えることができる。欧州においては、先行技術に対して技術的貢献をもたらすことを証明でき、台湾においては、技術的効果に寄与する特徴であることを証明できる。

しかし米国では、明細書に技術的特徴が奏する効果の記載があることで、請求項の範囲が制限されてしまう可能性がある。よって、米国、中国、欧州及び台湾において同一出願案で特許ポートフォリオの構築を考えている場合、明細書に発明全体が奏する効果を記載するのではなく、各実施形態又は各技術的特徴が奏する効果を明記することが望ましい。こうすることで、請求項全体が制限を受けるのを防ぐことができる。

このほか、請求項で使用する語句にも気を付けなければならない。特に欧州で出願する場合、請求項に記載の特徴が非技術的特徴だと見なされ、客観的な技術的課題の決定から排除されないよう、例えば「transfer money」を「transfer resources」に、「advertisement」を「multimedia」に置き換えるなど、ビジネス方法の用語と見なされやすい語句を技術用語に置き換えることが望ましい。

[1] MPEP 2141 Examination Guidelines for Determining Obviousness Under 35 U.S.C. 103 [R-10.2019]

[2] 中国『専利審査指南』第二部分第四章3.2.1.1



キーワード:台湾 特許 中国 米国 ヨーロッパ 記載要件 新規性、進歩性 機械 電気

 

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