台湾 ハンドバッグ製品の著作物性を否定した判例(Céline Luggage事件)

Vol.96(2021年9月13日)

日本での応用美術の著作権に関し、一品制作の美術工芸品ではなく、量産される物品のデザインについては明文規定がないため、著作物として保護されるかどうかは事件ごとに異なる結論が出されているが、近年の裁判例である「TRIPP TRAPP 事件1 」では創作的表現説に基づき椅子のデザインの著作物性を認めており、今後の動向が注目されている。

台湾における応用美術の著作物性に関する見解の変遷を簡単に示すと、まず1990年代初めは「著作権法により保護されるのは美術工芸品に限られ、一品制作ではない工業製品については著作物性を有しない」というものが内政部(内政部著作権委員会)の見解であった2(8124412号)。その後1997年に著作権委員会は「大量生産されているか否かを美術の著作権保護の判断基準としてはならず、美術の著作物か否かは、美術技巧の表現を有しているか否かに基づいて判断すべきである」という 見解3 (以下、8605535号)を出し、後の実務見解に大きな影響を与えた。すなわち、この見解が出された後は、応用美術の著作物性については他の対象と同様の要件(原創性:独立して完成させたか、個人の思想や感情がある程度表されているか、いくらかの独創性を有するか)に焦点が置かれた事例が多く見られる。

本件はセリーヌ(CELINE)のハンドバッグ製品の著作物性及び公平交易法(不競法)該当性が争われた事件であり、一審4では著作物性を肯定したが公平交易法には該当しないと認定した。しかし二審5及びその後の最高裁判決6では一審と全く逆の結論、即ち著作物性を否定し公平交易法違反を認定している。以下に内容を紹介する。

原告及び被告のハンドバッグ

原告のハンドバッグ 被告のハンドバッグ

一審の見解

一審判決では、上述した内政部著作権委員会8605535号に基づき、「本件ハンドバッグは一定の創作程度を有し、完全に型や機械で設計された作品ではなく、美術技巧を用いた表現を有する」と述べ、本件ハンドバッグは著作権法が保護する美術の著作物に該当すると認定した。なお、公平交易法該当性については、原告が提出された証拠からは本件ハンドバッグの著名性は認められないとし、公平交易法第22条の適用を否定した。

著作物性について

本件ハンドバッグについて、持ち手とバッグ正面の連結部が2つの目の造形を呈し、両側に縫い付けられたS字型の革によりキャラクターの顔の輪郭を形成している。持ち手下方にある収納部は「一」の字形のファスナーにより人の口を形成し、持ち手上方に縫い付けられた横長の長方形の革は人の髪を形成し、バッグ両側に設けられた縦長の革は外方向に引っ張り出すことが可能であり人の耳を形成していることから、バッグ全体としてキャラクターの頭部を表しているといえる。全体のデザイン、色合い、雰囲気、仕様から、創作者はカジュアルでユーモアのある美感や、当バッグを使用するにふさわしいシーンを表現したいという意図を感じることができる。

本件ハンドバッグのバッグ全体のデザイン、色合い、雰囲気、仕様などの表現手法は唯一又は極少数ではなく、有限的な表現の状況に該当するものではない。異なる創作者が同一の表現理念に基づき創作をしたとしても、それぞれは異なる表現手法を使用することができることから、創作された作品は一定の創作程度を有し、完全に型や機械で設計された作品ではない。

以上より、原告が著作権を有すると主張する本件ハンドバッグは美術技巧を用いた表現を有するため、著作権法が保護する美術の著作物に該当する。

二審の見解

二審では一審とは全く異なる見解が示された。まず実用機能性という観点を挙げ、「製品がその機能を効果的に発揮できるよう又は製品の機能を確保できるよう施されたデザインは、美術技巧により思想又は感情を表現することを創作目的とはしていないため、美術の著作物とは認められない」と述べたうえで、本件ハンドバッグは実用機能性を有するデザインであると認定し、著作物性を否定した。そして公平交易法該当性について、原告から提出された証拠からは本件ハンドバッグの著名性は認められないと第22条適用性に関しては一審と同様の判断を示したが、以下のように述べ第25条の適用を肯定した。

著作物性について

実用機能性とは、美術技巧により思想又は感情を表現することを創作目的とはしておらず、製品がその機能を効果的に発揮できるよう又は製品の機能を確保できるよう施されたデザインを指す。例えば、ある製品の形状自体が実用機能性を具え、当該実用機能が競合製品に対して競争的優位性を有する場合、同業者が製品の当該実用機能を獲得しようとする際、代替形状がない又は代替形状はあるが同等の効果を得るには多額の費用を投じなければならないものである時、公正な競争状態を維持する点から考えると、当該実用機能性を具える製品に著作権が与えられた場合、実用機能性の長期的な独占が可能となることから、同業者の権益に重大な影響を及ぼし、不公平な状況が発生する。したがって、製品の形状自体が実用機能性を備えることで、製品の使用目的や製造による経済的利益が効果的に発揮され、市場での競争優位性が獲得されるのであれば、当該造形のデザインの主な目的は美感の需要を満たすことではなく、美感を特徴として思想又は感情を創作的に表現するものではない。公共政策及び公平競争の考慮に基づけば、たとえ長期間使用していたとしても、著作権法が保護する美術の著作物とはならない。

機能の達成に必要な製品の形状は、物品の形状に応用される具体的なデザインに該当し、美術技巧を用いて思想や感情を表現するものではない。製品の実用機能的な形状は産業上利用することができるが、創作の美術技巧が表現されていないため、美術の著作物として保護を受けることはできない。したがって、実用技術性及び機能性を有する製品の形状やデザインは、美術の著作物として保護される客体ではない。

本件バッグデザインの実用機能性は次の通りである。(1)持ち手とバッグ正面の連結部が2つの目の造形を示し、持ち手はバッグ正面に固定されている。(2)連結部の両側にS字状の革が縫い付けられ、流線型のパターンを形成し、縫合面積を増やしている。(3)持ち手下方にある収納部は使用者が開閉を行いやすいよう「一」の字形のファスナーが配置されている。(4)持ち手上方には長方形の革が縫い付けされ、長方形を形成し、縫合面積を増やしている。(5)バッグ両側に取り付けられた縦長の革を外方向に引っ張り出すことで、収納量を増やすことができる。

本件ハンドバッグの全体的な造形及びデザインは、製品に高級感を出すとともに関連消費者を引き付ける視覚効果を促進し、購買意欲を刺激するものとなっていることに加え、その全体の造形及びデザインの目的は、持ち運びに便利で物品を入れるというバッグデザインの機能を効果的に発揮するためのデザインに過ぎず、美術技巧によって思想又は感情を表現するものでなく、著作権法の保護を受けるものでもない。

公平交易法について

本件ハンドバッグの外観デザインは、いずれも上訴人が長期的にプロモーション活動を行い、巨額のマーケティング費用を投じたことで、世界的著名人及び関連消費者に愛用されるハンドバッグ製品となり、ブランド市場において相当の商業的名誉を確立したことから、被告が恣意的にこれに便乗することは容認できない。

競合他社がインターネットやメディアなどのマーケティング方法を通じ、自身が販売するバッグ商品において第三者のバッグデザインと同一又は類似するものを使用することは、他人の商業的名誉に便乗して他人の努力の成果を高度に模倣する不正競争行為である。被告の二阿公司は、インターネット上で上訴人のバッグデザインを精巧にコピーしたバッグを販売し、両者の出所が同一又は一定の関係があると関連消費者に誤認させることで、関連消費者の注意を引き、自社との取引機会を増加させた。被告のこのような高度な模倣行為は、原告の商業的名誉に便乗することで、原告の努力成果を搾取し、取引秩序に重大な影響を及ぼすことは必至であり、明らかに公平性を欠くものであることから、公平交易法第25条の規定に該当する。

最高裁判所の見解

最高裁では公平交易法に関し、二審とほぼ同様の関係が示され、被告の行為は公平交易法第25条に該当すると判断した

著作物性について

本件バッグの外観デザインについて、これらはいずれも原告が長期的なプロモーション活動を行い、巨額のマーケティング費用を投じたことで、世界的著名人及び関連消費者に愛用されるハンドバッグ製品となり、ブランド市場において相当の商業的名誉を確立した。被告二阿公司が製造・販売を行う製品は、商標部分に若干の違いはあるものの、本件バッグのデザインの外観や表徴を高度に模倣したものであり、主観的に帰責事由を有する。二阿公司はインターネットを通じて製品を販売し、両者の出所が同一又は一定の関係があると関連消費者に誤認させ、自社との取引機会を増加させた。これは原告の商業的名誉に便乗し、取引秩序を維持するための社会的倫理及び自由、公正競争に重大な影響を及ぼし、商業倫理的に非難される性質を有する公平性を欠く行為であるため、公平交易法(以下、公平法)第25条に規定の禁止行為を構成する。

弊所コメント

二審では、「実用性を有する形状やデザインに著作権を付与すると長期間の独占につながり、公平競争や競業者の商品開発に悪影響を及ぼす」という点を指摘した上で、「商品の形状が実用性を有する場合、当該形状のデザインは美感の需要を満たすことを目的としないため、美術技巧によって思想又は感情を表現するものでなく、美術の著作物とは認められない」という判旨が示されている。この結論に対しては「実用性を有する形状であっても、創作者の美的な思想・感情を表すことは可能であり、実用性を有する形状を一律に著作物の保護対象から除外するのは創作の実情にそぐわない」や「ハンドバッグデザインの創作目的は実用性・機能性にあるという認定は不当である」という批判的な声も出ている。

また、本件二審(及び最高裁)でハンドバッグの著作物性は否定されたが、公平交易法第25条を適用し、被告に対し600万元(約2,400万円)の賠償金支払い及び謝罪広告掲載を命じている。従来公平交易法第25条の判断基準は比較的厳しいと言われてきたが、本件の判旨から、商標権や意匠権のない商品デザインについてたとえその著作物性が否定されたとしても、本件原告のように世界的な著名ブランドであってその商品デザインが台湾で高い著名性を有するものであれば7、当該商品の模倣品の製造販売行為については公平交易法第25条が適用される可能性があることを示したとも言える。

本件がハンドバッグや他の量産品における今後の著作物性の認定にどの程度影響を与えるか、注視する必要がある。

[1] 知財高判平成27年4月14日判時2267号91頁。

[2] 台(81)內著字第8124412號。

[3] 台(86)內著字第8605535號。

[4] 知的財産裁判所2017年度民著訴字第68号(2018.8.21)。

[5] 知的財産裁判所2018年度民著上字第15号(2019.10.17)。

[6] 最高裁判所2020年度台上字第3129号(2021.4.19)。

[7] 知的財産裁判所2012年民商上字第3号では世界的著名ブランドではない原告のバッグについて、台湾で著名であること及び原告のバッグのデザインはその顕著性により消費者が出所を認識できる程度に重要な印象を残すものであることを、原告は立証していないとし、公平交易法の適用を否定している。


キーワード: 台湾 商標 著作権 判決紹介

 

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