台湾特許庁が「専利法改正草案」第2版を公表

Vol.92(2021年7月13日)

台湾特許庁は2020年12月30日、「専利法一部条文改正草案」を公表しており、その主な内容については、WisdomニュースVol.811 で紹介している。台湾特許庁はその後、公聴会の開催や各界の意見収集を行い、2021年6月22日に「専利法一部条文改正草案」第2版を公表した。当初の改正草案と比較すると、第2版では以下の規定に対して修正がなされている。以下に紹介する。

分割の時期的要件の緩和

第1版における分割可能時期は査定前及び特許査定後3ヶ月以内のみであったが、第2版では新たに拒絶査定後2か月以内、複審請求後から複審拒絶決定前及び複審での特許決定後3か月以内の時点においても分割が可能となっている。第2版の規定内容を以下に示す(下線で示した内容が第2版で追加された内容である)。

専利法第34条

分割出願は次に掲げる期間内にしなければならない。

1、審査での査定前

2、特許査定後3ヶ月以内

3、拒絶査定後2か月以内

4、複審請求後から複審拒絶決定前

5、複審での特許決定後3か月以内

以下に第2版の内容に基づく、分割可能時期を図で示す。

審査で特許査定となった場合

A) 審査での査定前

B) 特許査定後3ヶ月以内


審査で拒絶査定を受け、複審請求を行い、複審で特許決定となった場合

A) 初審査での査定前

B) 拒絶査定後2か月以内

C) 複審請求後から複審拒絶決定前

D) 複審での特許決定後3か月以内


審査で拒絶査定を受け、複審請求を行い、複審で拒絶決定となった場合

A) 審査での査定前

B) 拒絶査定後2か月以内

C) 複審請求後から複審拒絶決定前


第2版の内容により、日本での規定にだいぶ近づいたと言えるが、以下に挙げるようにいくつか相違点があるので注意が必要である。

  • 日本では前置審査を経た特許査定後は分割ができないが、台湾は上記(2)の規定に基づき、分割が可能である。
  • 台湾では前置審査中はいつでも上記(4)の規定に基づき、分割が可能である。

冒認出願の民事ルートによる救済規定において、審査/審理の一時停止規定を追加

現在、無効理由には冒認出願に関する事由が規定されており、冒認出願がされた場合、真の権利者は無効審判を請求しその登録を無効とした上で、専利法第35条の規定に基づき自らが新たに出願することで、特許権を取得することができる(新出願の出願日は、冒認登録の出願日となる)。またこうした行政ルートに加え、民事ルートによる救済も規定されており、特許を受ける権利に関する民事訴訟を提起し判決を得た後で、名義変更手続きを行うことが認められている。

改正草案第1版では無効理由から冒認出願に関する事由が削除され、民事ルートによる救済のみ残され、また民事ルートの規定において「当事者は直接裁判所に訴訟を提起し、勝訴の確定判決を得た後、判決確定証明書を裁判所に提出する」という内容に変更されていた。そして今回の第2版では、民事ルートの救済における以下の補完措置(審査/審理の一時停止申請)が追加で規定されている。

専利法第10条 (以下は条文そのものでなく主な内容)

第2項

特許を受ける権利又は特許権の帰属に関して訴訟提起、調停申請等がされた場合、当事者は関連書類を提出し、主務官庁に当該案件に係る審査、審理又は各種手続き(権利譲渡、授権などを含む)の一時停止を請求できる。

第3項

一時停止の期間は、申請日から1年以内とする。審理一時停止の原因が消滅した場合、申請に基づき当該案件の審理が続行される。

第4項

停止期間満了の1か月前、当事者は証拠を添付の上、期間延長申請を行うことができる。ただし、延長期間は 1年を超えてはならない。

争議案件取消訴訟において証拠の補充提出が可能な例外的状況を規定

知的財産案件審理法第33条によれば、無効審判請求人は取消訴訟中に同一の取消し理由につき新たな証拠を提出することができ、知的財産及び商事裁判所はこれを斟酌しなければならない。しかし、この規定により裁判所は十分に証拠を精査することができず、また特許権者も十分に防御することができないという問題が出ていた。そこで改正草案第1版では争いを迅速かつ効率的に解決するため、「審判請求人又は参加人は、主務官庁による審議手続きの際に提出しなかった意見書や証拠を、争議訴訟において提出してはならない」と規定され、新たな証拠が提出可能な例外規定は記されていなかった(第91条の7)。

そして第2版では、訴訟時に証拠を補充提出できる例外的状況として、(1)主務機関による法律違反が原因で提出できなかった場合、(2)その事実がすでに裁判所で明らかとなっている、職務上すでに知られている、又は職権により証拠調査をすべきである場合の2つが規定されている。

争議案件取消訴訟における審理方式の明確化

改正草案第1版では、争議案件(無効審判)の審決取消訴訟を「当事者構造制」に改め、民事訴訟の規定が多く採用されている。今回の第2版では、専利の争議案件取消訴訟の審理方式を明文規定した条文が追加されている(第91条の9)。第2版では、争議案件取消訴訟の性質を民事訴訟の「形成訴訟(形成の訴え)」とし、原告の請求に理由がある場合、裁判所は台湾特許庁の審決を取消し、特許権の範囲を認定する判決を下すと規定している。

以上の通り、第1版及び第2版の内容を合わせれば、今後専利法の内容は大幅に変更されることとなる。弊所では今後も台湾特許庁の動向を注視するとともに、引き続き最新状況を報告、更新していく予定である。

キーワード: 台湾 特許 無効審判  法改正

 

登入

登入成功