【Vol.31】台湾 2017年版「訂正審査基準」の改訂ポイント紹介及び対策提案

台湾知的財産局は2016年12月26日、専利審査基準第二編第九章「訂正」部分の改訂版(以下、「2017年版訂正審査基準」とする)を公告した。この「2017年版訂正審査基準」は既に2017年1月1日から施行されている。「2017年版訂正審査基準」における最も重要な改訂内容は、以下の2点である。

  1. 「外的付加」の訂正について、訂正前の請求項に係る発明の目的が達せられるのであれば、認められるようになった。
  2. 用途限定物請求項の訂正態様が緩和された。

以下に、今回の改訂ポイント及び対策提案を紹介する。

一. 「外的付加」の訂正が条件付で許可

  1. 旧「専利審査基準」の規定

    旧「専利審査基準」では「外的付加」について、公告時の特許請求の範囲の実質上変更に該当するため認められない、と規定されている。(旧「専利審査基準」第二編第九章4.1に、実質上変更にあたる訂正の例(4)「訂正により、訂正前の特許請求の範囲に記載された技術特徴の下位概念にあたる技術特徴又は限定された技術特徴ではないものが追加された。」と規定されていた)。

  2. 「2017年版訂正審査基準」の規定

    「2017年版訂正審査基準」では、「技術特徴を追加した結果、訂正前の請求項の発明の目的が達せられない場合、公告時の特許請求の範囲の実質上変更に該当する。」と規定され、制限が緩和された。

    また「各請求項の発明の目的」の判断に関し「2017年版訂正審査基準」において次のように規定されるようになった。「発明の属する技術分野における通常知識を有する者の立場から、各請求項に記載された発明全体を対象とし、明細書に記載された発明が解決しようとする課題、課題を解決する技術手段及び先行技術と比べた効果を参酌して、当該発明の具体的目的を認定する。訂正前と訂正後の請求項に係る発明を比較し、訂正後の請求項に係る発明が訂正前の請求項に係る発明の目的を『達成できない』又は『減損する』場合、それは公告時の特許請求の範囲の変更に属する。」。従って、「外的付加」の訂正によっても依然として訂正前の請求項に係る発明の目的が達せられるのであれば、公告時の特許請求の範囲の実質上変更に該当しないため、その訂正は認められることになる。

    1. 訂正後においても、訂正前の当該請求項に係る発明の目的「全て」が達せられなければならない

      「2017年版訂正審査基準」では訂正前の当該請求項に係る発明の目的が達せられることが必要と規定されているが、公聴会において台湾知的財産局は、訂正によって訂正前の当該請求項に係る発明の目的「全て」が達せられなければ、その訂正は認められない、と強調していた。よって、訂正により訂正前の当該請求項に係る発明の目的をほとんど達せられるが、発明の目的が少しでも「減損」する状況では、その訂正は認められないことになる(以下の事例1を参照)。

【事例1】

訂正前特許請求の範囲(公告時) 訂正後特許請求の範囲
  1. 前記給湯器の給水温度及び排水温度を測り第一信号及び第二信号を出力する水温測定回路(14)と、 前記第一信号及び第二信号を受信し処理したのち、少なくとも一つの制御信号を出力するCPUと、 …制御回路(28)と、 … を有するガス給湯器の定温装置。
  2. 高電圧パルス高電圧パルスが点火したとき、直流電源のCPU又は記憶回路への提供を停止し、CPU又は記憶装置とき、高電圧パルス点火回路(34)の電源を切るインターロック回路(32)を更に有する請求項1に記載のガス給湯器の定温装置。
  3. CPUにより表示を行いかつ給湯器に異常が発生した際に音信号を発する、液晶ディスプレイ(18)及び警報器回路(30)を更に有する請求項1に記載のガス給湯器の定温装置。
  1. 前記給湯器の給水温度及び排水温度を測り第一信号及び第二信号を出力する水温測定回路(14)と、 前記第一信号及び第二信号を受信し処理したのち、少なくとも一つの制御信号を出力するCPUと、 …制御回路(28)と、 … を有するガス給湯器の定温装置。
  2. 高電圧パルス高電圧パルスが点火したとき、直流電源のCPU又は記憶回路への提供を停止し、CPU又は記憶装置とき、高電圧パルス点火回路(34)の電源を切るインターロック回路(32)を更に有する請求項1に記載のガス給湯器の定温装置。
  3. CPUから提供される及び給湯器に異常が発生した際に発する音の信号を、液晶ディスプレイ(18)及び警報器回路(30)を更に有する請求項2に記載のガス給湯器の定温装置。
  • 旧審査基準

    訂正は認められない。

  • 「2017年版訂正審査基準」

    訂正は認められない。(訂正前の当該請求項に係る発明の目的「全て」が達せられないため。)

訂正後の請求項1、請求項2に変更はないが、請求項3の従属先を請求項1から請求項2に

変更することで「インターロック回路」という関連技術特徴を追加している。この訂正は特許請求の範囲の減縮ではあるが、訂正後の請求項3に係るガス給湯器の定温装置において「インターロック回路」の技術特徴が追加されたため、高電圧パルス高電圧パルスが点火したとき直流電源のCPU又は記憶回路への提供が停止され、液晶ディスプレイの表示機能及び警報器の警報機能が一時的に失われることになる。よって訂正後の請求項3に係るガス給湯器の定温装置では、訂正前の請求項3に係るガス給湯器の定温装置の発明の目的、即ち全ての段階において未点火又は酸素供給量不足を表示及び警報することできるという発明の目的が達せられない。よって公告時の特許請求の範囲の実質上変更に該当する。

逆に、訂正により訂正前の当該請求項に係る発明の目的全てが達せられる場合、例え別の発明の目的を「追加」したとしても、訂正は認められる。(以下の事例2を参照)。

【事例2】

訂正前特許請求の範囲(公告時) 訂正後特許請求の範囲

車椅子(10)に二つ一組のペダル(20)が枢支され、前記ペダル(20)の両側はそれぞれ対合部(21)及び枢転部(22)であり、前記枢転部(22)は車椅子に枢支され、前記二つのペダル(20)の対合部(21)は重なり合うことで対合する、車椅子。

車椅子(10)に二つ一組のペダル(20)が枢支され、前記ペダル(20)の両側はそれぞれ対合部(21)及び枢転部(22)であり、前記枢転部(22)は車椅子に枢支され、前記二つのペダル(20)の対合部(21)は重なり合うことで対合し、枢転及び伸縮が可能なテーブルが肘掛けに設けられた、車椅子。

(訂正前明細書に、枢転及び伸縮が可能なテーブルを肘掛けに設けることに関する記載あり)

  • 旧審査基準

    訂正は認められない。

  • 「2017年版訂正審査基準」

    訂正は認められる。(訂正前の当該請求項に係る発明の目的「全て」が達せられるため。)

訂正後の請求項には、明細書に記載されていた枢転及び伸縮が可能なテーブルが請求項に追加された。これは特許請求の範囲の減縮であり、出願時の明細書、特許請求の範囲及び図面で開示された範囲を超えていない。訂正後の請求項では「テーブル(30)」に関する技術特徴が追加されたが、使用者の両足が滑り落ちること及び両足を置く拾い空間を提供するという訂正前の請求項に係る発明の目的は依然として達せられる。テーブルを提供するという目的が追加されたが、当該訂正は公告時の特許請求の範囲の実質上変更には該当しない。

    1. 請求項に係る発明の目的の認定

      「発明の目的」の判断に関して、「2017年版訂正審査基準」では、当該発明の属する技術分野において通常の知識を有する者の立場から、各請求項に記載された発明の全体を対象とし、明細書に記載された発明が解決しようとする課題、課題を解決する技術手段及び先行技術と比べた効果を参酌して認定するが、上記要素に制限されない。

      台湾知的財産局も公聴会において、たとえ明細書に「発明が解決しようとする課題」、「課題を解決する技術手段」及び「発明の効果」が記載されていたとしても、実際の判断においては明細書の当該部分の記載を判断の絶対的基準とはせず、当業者の角度から各請求項の実際の技術内容を総合的に判断する必要がある、と説明していた。従って、明細書において請求項に係る発明とは無関係の発明の目的が記載されていた場合でも、台湾知的財産局は当該記載の主張に制限されないことになる。

二. 用途限定物請求項の訂正態様の緩和

2013年より前に登録査定となった用途限定請求項では、その用途限定は一律に限定作用を有していた。2013年以降は、その用途限定が保護を求める物の組成に影響を与えるか否かを見るようになり、一律に限定作用を有しなくなった。

「2017年版訂正審査基準」における用途限定物の扱いは次の通りである。2013年より前に登録査定となった用途限定物請求項に対する訂正の請求について、その用途限定物の請求項範囲の解釈は登録査定時(2013年改訂前)の審査基準が適用される。即ち当該用途は限定作用を有するとみなされ、当該用途を削除又は変更する訂正は特許権範囲の拡大又は実質変更をもたらすため、その訂正は認められない。一方、2013年以降に登録査定となった用途限定物請求項に対する訂正の請求について、その用途限定物の請求項範囲の解釈は2013年改訂後の審査基準が適用され、当該用途で限定された物の組成に影響を与えないのであれば、その訂正は認められる。

【事例3】

訂正前特許請求の範囲(公告時) 訂正後特許請求の範囲

化合物Aを含む界面活性剤組成物。

化合物Aを含む殺虫剤に用いられる界面活性剤組成物。

(明細書に「界面活性作用は殺虫用途により適する」と記載)

  • 旧審査基準

    訂正は認められない。

  • 「2017年版訂正審査基準」

    訂正は認められる。

訂正後の請求項では界面活性剤組成物を殺虫の用途に限定しているが、これは当該物の目的の描写に過ぎず、物そのものに影響を与えず当該用途による限定作用は発生しない。訂正前当該組成物の組成を変更しておらず、対象も変更されていないため、公告時の特許請求の範囲の実質上拡大又は変更にはあたらない。

三. 対策提案

訂正は無効審判又は侵害訴訟で無効の抗弁が提出された際の重要な防御手段であり、「2017年版訂正審査基準」で訂正の客体要件が緩和されたことは、権利者にとって有利な改正である。

一般的に知的財産局による訂正が認められるか否かの審理は、訂正を行った時点での審査基準に基づく。したがって、2017年1月1日より前に請求された無効審判の心理では、権利者が仮に2017年1月1日以後に訂正の請求を行った場合、台湾知的財産局は「2017年版訂正審査基準」の規定に基づき審理を行う必要がある。ただし、「用途限定物請求項」に係る訂正の場合のみ、例外的に特許公告時の審査基準が適用される。従って、旧審査基準の規定に制限され「外的付加」の訂正ができず、別の訂正を行っていた場合、2017年1月1日の新審査基準施行後は、改めて「外的付加」の訂正を行うことができ、先行文献を回避し当該請求項を有効に存続させることができる。

また、新しい審査基準が施行されれば、今後無効審判又は侵害訴訟における攻防の重要なポイントは「当該請求項の発明の目的は何か?」及び「訂正後の請求項は訂正前の当該請求項に係る発明の目的「全て」が達せられるか?」という点になる。新審査基準では、各請求項に係る「発明の目的」の判断は、当業者の立場から各請求項に記載された発明全体を対象とし、明細書に記載された発明が解決しようとする課題、課題を解決する技術手段及び先行技術と比べた効果を参酌して、当該発明の具体的目的を認定する、と規定されている。しかし、知的財産局は公聴会において、明細書に記載された内容を判断の絶対的基準とはしないことを強調していた。一方で、将来の実務では明細書の記載は依然としてある程度の作用を有すると思われる。加えて、拒絶理由通知の対する意見書や無効審判での答弁書において、先行技術との相違を明らかにするために述べた発明の目的も、内部証拠として用いられ、発明の目的の判断にも一定の影響を与えることになる。よって、明細書作成や意見書、答弁書作成においてはこれらのメリットデメリットを総合的に考慮しなければならない。

キーワード:特許 法改正 台湾 ;無効審判 訂正 
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