台湾 ハッシュタグ使用と商標的使用に関する最新判例

Vol.99(2021年11月01日)

日本では先日、ハッシュタグをめぐる商標権侵害の判決が初めて出され話題となった1。この判決では、ハッシュタグが表示される被告サイトを見た利用者が商品名・ブランド名の商品等に関する情報が所在することを認識すること、ハッシュタグは利用者が商品名・ブランド名の商品等に係る情報を検索する便に供されることから、ハッシュタグ使用行為は被告サイトへ当該利用者を誘導し、当該サイトに掲載された商品等の販売を促進する目的で行われるものであると述べたうえで、「被告サイトにおける被告標章1の表示は,需要者にとって,出所識別標識及び自他商品識別標識としての機能を果たしているものと見られる。」という見解が出されている。

一方、台湾ではハッシュタグに関する商標権侵害事件としては、2年前の2019年11月に既に初の判決が示され(QQBOW事件)、翌年9月には二審判決も出されている2。このQQBOW事件では一審二審いずれにおいても、「#他社ブランド」というハッシュタグは商標的使用には当たらないと判断されている。そして先月、新たにハッシュタグ使用に関する判決が出されたが(Lightweight事件)、本件においてもQQBOW事件同様、「#他社ブランド」は商標的使用に該当しないとして商標権侵害を否定している 3

以下では、上述した台湾でのハッシュタグに関する侵害事例を紹介する。なおQQBOW事件では日本語における「~風」に類似する中国語態様「~款」(款はstyleの意味)が商標権侵害に当たるかという点についても判断が示されているため、合わせて紹介する。

QQBOW事件

原告はアパレル関係の商品において「QQBOW」(以下、本件商標)という商標権を有しているところ、被告はECサイト(蝦皮)で商品名に本件商標を付して被服を販売しており、さらに商品説明箇所において、「#QQBOW」というようにハッシュタグを使用していた。

判旨

ハッシュタグについて

ハッシュタグは、使用者が同一プラットフォーム内において同一のハッシュタグが付けられた商品ページを表示させるためのものである。本件で被告が販売するプラットフォームは蝦皮であるが、原告が商品を販売する場所は主にFacebookであり、被告が蝦皮で用いる「#QQBOW」は原告のFacebookページを表示させることはできない。つまり、被告が用いるハッシュタグは客観的に関連消費者がそれを商標であると認識させるに足りるとはいえないため、商標としての使用とは言えない。

「~款」について

被告は蝦皮の商品名として「The Superfly Dept . 韓國連線102002 QQBOW款高領針織内搭+毛呢吊帶連身裙套裝2 色」という表記を用いているところ、「The Superfly Dept」は被告が商標権を有する被告の店名である。つまり当該表記においては、店名と具体的商品名の間に「他人の登録商標+款」が使用されていることから、これは被告が販売する商品のスタイルがQQBOWで販売される商品のスタイルと同じであることの説明に過ぎず、客観的に関連消費者がそれを商標であると認識させるに足りるとはいえない。つまり、「QQBOW款」という表記は出所を識別する機能を発揮しておらず、当該他人の商品と同じスタイルであることを示すための使用、即ちdescriptive fair useに該当する。(下線は筆者追加)

Lightweight事件

原告はドイツのタイヤメーカーCarbovationの台湾総代理店であり、同メーカーの「Lightweight」ブランドのタイヤを販売しているとともに、台湾で自転車関連の商品においてLightweightのロゴ商標の商標権を有する(Lightweight文字についての商標権は有していない)。被告は3Tというイタリアの自転車ブランドの台湾代理店であり、イタリアから3Tの自転車(以下、本件自転車)を台湾へ輸入し販売している。ここで本件自転車のタイヤはcarbovation製である。被告は3T自転車の紹介をするFacebookの投稿において、「#3Tbike」や「#3tcycling」というハッシュタグに加えて、「#carbovation」「#lightweight」など原告が販売するタイヤのメーカー名やブランド名に関するハッシュタグを使用していた。

判旨

ハッシュタグと商標の使用について

FBの投稿内容及び写真から、被告が宣伝・販売の対象としているものは本件自転車であることがわかる。投稿においては本件自転車の各部品の出所である製造業者及び部品の規格が詳細に列挙されるとともに、各部品の拡大写真もあり、こうした投稿内容から消費者は十分に本件自転車の内容を理解することができる。またハッシュタグは、使用者が同一プラットフォーム内において同一のハッシュタグが付けられた商品ページを表示させるためのものであることは、SNSの利用者であれば周知のことである。ハッシュタグの使用は、客観的にみても消費者に対しそれが商標であると認識させるに足らず、商標的使用とは言えない。よって被告が示すハッシュタグは商標としての使用ではない。

弊所コメント

上で紹介した2つの事件からわかるように、現時点の台湾ではハッシュタグ使用は原則として商標としての使用とは認められないという見解が一般的である。ただ2件においていずれもハッシュタグに関する判断について詳細な見解が示されているわけではなく、ハッシュタグは同一プラットフォーム内におけるハッシュタグで示された商品名やブランドの商品ページへ移動させるものであるため、出所を識別する者ではないと述べられているにすぎない(Lightweight事件の場合、主な争点は真正品の並行輸入及び国際消尽である)。

QQBOW事件では、ここでいう同一プラットフォーム内という点に焦点をあて、原告が主に商品を販売するプラットフォームと、被告がハッシュタグを用いたプラットフォームとは異なることが指摘されている。ただ台湾の商標権侵害で最も重視されるのは混同誤認、即ち消費者が被告標章に触れた際に、原告の商品である/出所が原告であると誤認するか否かであることを考えると、本件では(1)原告ブランドは著名ではないこと、(2)「款」という語が付けられ原告ブランドの商品と同一ではないがスタイルが似ていると消費者は認識できることが判断に大きな影響を与えたと考える。よって、原告の商標が著名である場合や、被告の表示に明確な打消し表示がある場合については、本件とは異なった見解が出される余地はある。

Lightweight事件の場合に注意すべき点は、原告が有する商標権はロゴ商標であり、企業名Carbovationやブランド名Lightweightについては商標権を有していない点である。ただし(1)被告は原告ブランドのタイヤそのものを販売しているのではなく、被告が代理店契約を結ぶ3Tブランドの自転車を販売していること、(2)FBの投稿においてはあくまで原告が販売する自転車の紹介が中心となっており、「#carbovation」「#lightweight」というハッシュタグは当該自転車に使用される部品が原告ブランドのタイヤであることを示す説明であると認めうるに足りること等に基づけば、仮に原告がCarbovationやLightweightについて台湾商標権を有していたとしても、本件判旨と同様に商標的使用とは言えないと認定されたと思われる。

なお他人の商標に関するハッシュタグを使用する行為が、公平交易法(日本の不競法・独禁法に類似)に違反するか否かという点についても、QQBOW事件の一審及びLightweight事件では触れられている。QQBOW事件の一審では、原告の行為は「事業者は他の取引秩序に影響を及ぼすに足りる欺罔又は著しく公正を欠く行為をしてはならない」という公平交易法25条に該当すると主張したが、裁判所は、取引秩序に影響を及ぼしたという点について原告の立証不足を指摘して、公平交易法25条該当という原告の主張を退けている。Lightweight事件において原告は、同法25条違反に加え「虚偽不実又は人を錯誤に陥らせる表示又は表現を行ってはならない」という21条1項違反も主張している。裁判所はまず21条該当性について、被告のFB投稿内容を見た者は被告がドイツCarbovationの台湾代理店であると誤認することは認められないこと、被告もFB投稿内容によって自身がドイツCarbovationの台湾代理店であると伝えているわけではないことを認定し、同法21条違反を否定している。25条についても同様の理由に基づき、原告被告両者が同一の出所である又は関連性を有すると誤認されることはないとし、25条違反には該当しないと判断している。

[1] 大阪地判令和3年9月27日(令和2年(ワ)8061号)。

[2] 知的財産裁判所2019年度民商訴字第12号、知的財産裁判所2020年度民商上字第2号。

[3] 知的財産裁判所2021年度民商訴字第18号(2021.9.30)


キーワード: 台湾 商標 識別力 判決紹介

 

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