台湾 並行輸入の真正品に付された登録商標の利用に関する判例(LEGOトラック事件)

Vol.93 (2021年7月23日)

台湾商標法第36条第2項の規定によれば、並行輸入業者が真正品を輸入及び販売する行為に対して、商標権者は権利を主張することができない1 。「並行輸入業者が真正品に付された登録商標を宣伝目的で別の商品に使用した場合、商標権侵害に当たるのか」という問題は、代理店と並行輸入業者との間でこれまで何度も論じられてきた。知的財産裁判所は本判決において、並行輸入業者は商標権者の登録商標を真正品そのものではなく、他の商品に使用してはならないと指摘した。本件は代理店が権利維持を行う上でも、輸入業者が宣伝活動を行う上でも非常に参考となる事件である。

事件の概要

世界的に著名なデンマークの積木玩具メーカー「LEGO」(本件原告、以下「LEGO社」)は、1977年9月以降、「LEGO」など5件の商標(以下「原告商標」)の出願を行っている。また、同社は長年ブロック積み木などの商品・役務に関する事業を世界中で経営しており、今や原告商標は世界で最も影響力のあるブランドの1つに数えられる。

台湾の玩具販売業者「宅媽科学玩具趣味館」の責任者である曾氏(本件被告)は2020年より、LEGO社のトレイントラックを模した自社トラックに原告商標と同一又は類似するステッカーを付し、「動くレゴトラック」として宣伝活動に利用、また玩具特売会開催時には前記ステッカーを店の看板として使用していた。

LEGO社は同年被告に対して警告書を送付したが、被告が侵害行為を続けたため、同社は民事訴訟を提起した。その後、知的財産裁判所は「被告の行為はLEGO社の商標権を侵害するものであり、また公平取引法の規定にも違反する」という判決を下した2

被告の使用態様及び原告商標

被告の使用態様 原告商標

第28類

組合わせ玩具、積み木及びブロック、建築玩具、フィギュア人形、モデルカー、ボードゲームセットなど

知的財産裁判所の見解

被告は「トラックに付されたLEGOステッカーは原告LEGO社から購入した真正品であり、LEGO社の商標権は消尽している」と主張したが、知的財産裁判所は以下のような見解を示した。

被告の行為が原告商標権の侵害を構成するか否かについて

LEGO社は、被告がブロック積み木の模倣品を販売していることに対して提訴したわけではなく、被告が原告商標と同一又は類似する「LEGOステッカー」を車体広告や看板などに使用した行為に対して商標権違反であると主張し提訴している。商標権者は並行輸入された「真正品そのもの」に対して一定の譲歩が求められ権利を主張することはできないが、輸入業者が並行輸入した真正品を販売するという需要に基づき、「真正品そのもの」以外に登録商標を利用する行為に対してまで、商標権者は譲歩が求められ権利を主張できないとすべきではない。

被告が使用する「LEGOステッカー」は真正品でありLEGO社は当該真正品の「LEGOステッカー」に対して商標権を主張することができないが、被告は当該ステッカーを販売促進目的で車体広告等に使用している。つまり、被告は「LEGOステッカー」を玩具の商品販売の宣伝へと転化して利用しており、これは「LEGOステッカー」の単純な流通ではなく、被告の行為は商標の使用行為に当たる。

被告は、自身がLEGO社の代理店/販売店でないこと、LEGO社の「ブロック積み木」を販売していること、アドトラック(広告宣伝車)や特売会看板に原告商標を使用する必要がないことを認識しているにもかかわらず、アドトラックや特売会に原告商標と同一又は類似する標識を使用し、LEGO社と関係があるかのようなイメージを作り出している。したがって、被告による原告商標の使用は、単に商品又は役務そのものの説明としての使用を超えたものであるため、合理的使用(フェアユース)に該当せず、LEGO社の商標権を侵害する。

公平交易法第25条違反について

原告商標はLEGO社が長期広範に使用してきたことで、今や世界的な影響力を有する、最も価値のあるブランドの1つとなっている。原告商標はLEGO社の経営努力の賜物であり、保護されるべきものである。

被告が経営する「宅媽科学玩具趣味館」の業務内容には「並行輸入積み木(LEGO社の真正品を含む)の販売」が含まれる。同社はLEGO社の代理店/販売店ではないが、LEGO社とは直接的な競合関係にある。被告による玩具販売の広告として原告商標と同一又は類似する商標を使用する行為は、LEGO社の努力の成果を不当に搾取している。また原告からの警告書受領後も使用を続け、両社間の販売利益分配に影響を与えたことも踏まえると、被告の行為は公平交易法第25条の規定に違反するものである。

弊所コメント

台湾商標法第36条第2項によれば、商標権者の同意を得た者が市場に流通させた商品に対して、当該商品が最初に投入された市場が国内であるか国外であるかを問わず、商標権者は当該商品に対して商標権を主張することができない。この規定は、並行輸入された真正品を国内消費者に販売するという商業方法により、国内消費者の選択肢を増やすだけでなく、市場の独占や寡占を防止し、同一商品における価格の自由競争を促進するといった点を考慮したものである。以前から、前記規定及び司法での実務的見解は並行輸入業者に対する保護が厚いと評されているが、消尽原則は「真正品そのもの」に対してのみ、及び並行輸入業者が「真正品そのもの」の販売に当たり、「真正品そのもの」以外の商品に商標権者の登録商標を用いて販売や宣伝を行うことは許容されない。

知的財産裁判所は本件において、被告がトラックに付すLEGOステッカーは真正品であるものの、本件の争点はステッカーそのものの利用ではなく、ステッカーを「玩具販売の広告」へと転化させた商標使用行為にあり、被告の行為はLEGO社の商標権を侵害する、と判断している。つまり、並行輸入業者が「真正品そのもの」以外の商品に登録商標を使用した場合、商標権者は当該行為に対して権利を主張できることを意味する。本件の見解は商標権者及び並行輸入業者のいずれにとっても、大いに参考となるものである。

[1] 「登録商標が付された商品が、商標権者又はその同意を得た者により国内外の市場で取引流通された場合、商標権者は当該商品について商標権を主張することができない。ただし、商品が市場で流通された後に商品の変質、毀損が発生することを防止するため又はその他正当な事由がある場合は、この限りでない。」

[2] 知的財産裁判所2020年度民商訴字第27号中間判決。

[3] 出典:探路客

[4] 出典:Facebook

 

キーワード:商標 台湾 判決紹介 侵害

登入

登入成功